2023年6月7日水曜日

日本板硝子(早期退職割増退職金)事件・東京地判H21.8.24・労経速2052-3

優遇措置適用決定後により優遇された制度が導入されたため差額を請求 → 棄却

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2 争点に対する判断

 前記1で認定した事実及び前記第2の1の事実を踏まえて判断する。

(1)争点(1)(早期退職者優遇措置の適用の有無)について

ア 本件退職届による退職の意思表示の撤回の成否

本件退職届による意思表示は、ネクストライフサポート制度を利用して退職する旨の意思表示であり、同制度が所定の退職金よりも割増の退職金を支払うことが予定されているものであることからしても、雇用契約の合意解約の申込みであると解される。

そして、Yは、本件退職届を受理し、ネクストライフサポート制度の適用(12月期)による2008年3月31日付けで退職することを前提として諸手続を進めていることが認められるから、遅くとも同年2月12日までには、Xに対し、雇用契約の合意解約を承諾する意思表示をしたものと解される。

したがって、XがYに対してした本件退職届による意思表示の撤回は、雇用契約の合意解約が成立している以上、効力を有しないというのが相当である。 

イ 本件除外条項の効力

ネクストライフサポート制度は、他社での活躍を求めて自らの意思で退職を決意した者に対し、転職のための支援金によるサポートを行うことを目的とする定期的・定例的な制度である。他方、早期退職者優遇措置は、Yにおける日本事業の経営状況を改善するべく、余剰人員を削減するために、自ら退職の意思がない人に対しても退職を求める代償として一回のみ実施された措置である。そうであれば、自己都合退職の場合の退職金額よりも会社都合退職の場合の退職金額が大きいことが違法とされていないのと同様、ネクストライフサポート制度による割増分よりも早期退職者優遇措置による割増分が大きいことによる支給額の差をもって、直ちに違法な差別ということはできない。

そして、早期退職者優遇措置の決定経緯からすると、同制度はあくまでYの日本事業の経営改善を目的として管理職を対象とした余剰人員の削減を目的として実施されたと認められ、同措置の退職日よりも早期に退職をすることが予定されている者については、結果として人員削減の効果が生じることから、これらの者を同措置の対象から除外したとしても不合理とはいえないところ、同措置では2007年12月期のネクストライフサポート制度に応募した者のほか、同措置の退職日である2008年5月31日以前に定年等を理由として退職が予定されている者も除外されていることからすると、本件除外条項をもって、Yが「まずネクストライフサポート制度に応じた者で人数を減らして、その後に少なくなった人数に対して退職金の割増額を数千万円も増やした早期退職者優遇措置を適用する」ことを意図したとか、「ネクストライフサポート制度による募集に応じた者」を殊更に不利益に取り扱うことを目的として早期退職者優遇措置が導入されたということはできない。

したがって、本件除外条項は公序良俗に違反するとはいえない。

ウ 小括

してみると、Xは、早期退職者優遇措置の適用を受けず、本件退職届のとおり、2008年3月31日付けで退職したものと扱われるといわざるを得ない。

(2)争点(2)(告知義務違反の有無)について

Yは、遅くとも2007年の秋頃から大規模な人員削減措置を考え、同年12月17日には具体的な措置を講じるためのリストラクチャリング・プロジェクトを発足させていること、C社長が同月27日にはY内で新たな早期退職制度を検討していることを了知していたことからすると、Xがネクストライフサポート制度の募集に応じた同月25日ころには、早期退職者優遇制度について既に何らかの検討をしていたと認めるのが相当である。

しかしながら、早期退職者優遇措置が正式に承認されたのはあくまでも翌年の2月28日取締役会の時点であったのであるから、それ以前の段階で正式に決まってもいない制度の内容を告知する義務があったということはできない。むしろ、Xは、C社長やF事業本部長から同月18日には決まっていない早期退職制度の案の概要について説明を受けているしているし、同年2月7日ころにはネクストライフサポート制度によって退職する予定の者には新たな早期退職制度の適用がないこと(本件除外条項の内容)についても告知されているのであって、前記合意解約の成立時以前に、Y側の関係者(F事業本部長、C社長)がXに対し新たな早期退職制度の概略(重要部分)を告知していたということすらできる。

加えて、Xは、2007年12月当時、NEA社に出向中であったが、C社長や同僚からネクストライフサポート制度の実施について情報を得ているし、同月の募集時にはYの人事部の担当者から制度概要を含めた説明を受けており、Xも、同制度の意義を踏まえ、NEA社の事業譲渡によって自らの技術を活かせる場が同社になくニチアス社又はニチアスセムクリート社に転職しようと自ら決断したからこそ、ネクストライフサポート制度による退職希望者募集に応じたものと認められる。

したがって、Yが雇用契約上ないしは信義則上の両者の信頼関係に基づき、Xのネクストライフサポート制度による退職申入れ時に早期退職者優遇措置を実施予定であることを告知する義務があるということはできず、また、退職(予定)日までの間にそのような告知義務があるとしてもこれに違反しているとはいえないし、Xがネクストライフサポート制度の適用を選択して早期退職者優遇措置の適用を受ける機会がなかったとしても、それがYの不十分な制度周知に原因があるともいえない。

(3)争点(3)(均衡待遇の取扱義務違反の有無)について

前記のとおり、ネクストライフサポート制度が、他社での活躍を求めて自らの意思で退職を決意した者に対し、転職のための支援金によるサポートを行うことを目的とする定期的・定例的な制度である一方、早期退職者優遇措置が、Yにおける日本事業の経営状況を改善するべく、余剰人員を削減するために、自ら退職の意思がない人に対しても退職を求める代償として一回のみ実施された措置であって、両者とも所定の退職金額よりも加算された額が支給されるとしても、前提条件(制度目的)が異なるのであるから、その支給金額(割増分)に差があることをもって「均等待遇」をしていないとはいえない。

加えて、Yが早期退職者優遇措置を実施するに当たり、Xに対しネクストライフサポート制度による早期退職を勧めた等の特段の事情を認めるに足りる証拠もない。

したがって、Yにおいて、本件除外条項を含む早期退職者優遇措置を実施し、Xへの適用を認めなかったとしても、均等待遇の取扱義務に反し裁量権を逸脱又は濫用したとはいえないというのが相当である。

3 結語

以上の次第であり、Xの本訴請求は、その余の部分について判断するまでもなく理由がないから失当として棄却することとする。

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