2023年1月30日月曜日

伊藤忠商事事件・大阪地判R4.9.9・ジャーナル130-18

 退職合意書の無効主張 棄却

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原告は、…自らの課題や問題点について真摯に振り返り、上司らの指導を受けてこれらを改善しようとする姿勢に乏しかったといわざるを得ない。

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原告は、少なくとも本件警告書が発せられた時点において、「勤務態度若しくは業務能率が著しく劣り、又は協調性に著しく欠け」ており、改善計画を実施してもなお改善がみられない場合には「改善の見込みがない」ものとして解雇の対象となり得る状況に至っていたといわざるを得ず、被告担当者らが原告との面談においてその旨告げたとしても、当時の原告の置かれた客観的状況を告げたにすぎないというべきであるから、そのことをもって原告の自由な意思が妨げられたとはいえない

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2023年1月24日火曜日

バイオスほか(サハラシステムズ)事件・東京地判H28.5.31・労判1275-127

 派遣法33条違反の契約の有効性 無効と判断

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労働者派遣法は,労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を構ずるとともに,派遣労働者の保護等を図り,もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする(1条参照)。そして,労働者派遣法33条1項は「派遣元事業主は,その雇用する派遣労働者との間で,正当な理由がなく,その者に係る派遣先である者に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない。」と,同条2項は「派遣元事業主は,その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者との間で,正当な理由がなく,その者が当該派遣労働者を当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならない。」とそれぞれ規定するところ,これらの規定の趣旨は,派遣元事業主と派遣労働者との間又は派遣元事業主と派遣先との間で,派遣元事業主との雇用関係の終了後に派遣労働者が派遣先であった者に雇用されることを制限する趣旨の契約を締結することが無制限に認められることになると,派遣労働者の就業の機会が制限され,憲法22条により保障される派遣労働者の職業選択の自由が実質的に制限される結果となって,労働者派遣法の立法目的にそぐわなくなることから,派遣元事業主と派遣労働者の間又は派遣元事業主と派遣先との間において,そのような契約を締結することを禁止し,もって派遣労働者の職業選択の自由を特に雇用制限の禁止という面から実質的に保障しようとするものであって,労働者派遣法33条に違反して締結された契約条項は,私法上の効力が否定され,無効であると解される

 もっとも,その一方で,派遣先であった者が派遣労働者であった者を無限定に雇用できることとすると,派遣元事業主が独自に有し,他の事業主は有しない特殊な知識,技術又は経験であって,派遣労働者が派遣就業をする上で必要であるため当該派遣元事業主が特別に当該派遣労働者に習得させたものがある場合にも,雇用契約終了後は当該派遣労働者が派遣先と雇用契約を結んでそうした特殊で普遍的でない知識等を勝手に利用することが可能となる結果,特殊で普遍的ではない知識等を有することによる当該派遣元事業主の利益が侵害される事態が発生しかねない。そこで,労働者派遣法33条は,そうした知識等を有することによる当該派遣元事業主の利益を保護するといった正当な理由がある場合に限り,上記の雇用制限の禁止を解除することとしたものと解される

 以上によれば,上記の雇用制限をすることは原則として禁止され,これに反して結ばれた雇用制限条項は無効であるが,当該雇用制限条項を設けることに正当な理由があることの主張立証があった場合に限り,例外的にその禁止が解除されて当該雇用制限条項の効力が認められることになると解される。

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原告の主張(平成24年9月11日付け原告準備書面1,平成25年6月24日付け原告準備書面4等参照)によっても,被告P2がCTC社から受けた研修は,CTC社がその従業員に対する教育のために実施していたのと同様のものであって,CSJ社のコンピュータシステムの保守点検業務を想定した個別具体的な研修であり,元来はCTC社が有償で実施するものであったというのであるから,原告以外の使用者の下であっても習得可能なものであったといえ,原告独自の普遍的でない知識等を習得させるものでないことは明らかである。そうすると,そのような研修を被告P2が受ける間の給与を原告が支払い,研修のための費用を実質的に原告が負担したとしても,直ちに本件禁止条項Aを設けることにつき正当な理由があるということはできない

 また,被告P2がCTC社のデータベースへのアクセス権限を付与されてOJTを受けたことについても,原告の主張(平成24年11月28日付け原告準備書面2参照)によれば,当該権限はCTC社が付与したものであって,また,当該権限によって閲覧できる情報は,メーカーから販売されている製品を購入して保守契約に関わる料金を支払えば他の者でも閲覧可能なものであるというのであるから,被告P2が当該権限を利用して何らかの知識等を習得したとしても,そのことから直ちに原告独自の普遍的でない知識等を習得したと認めることはできず,本件禁止条項Aを設けることにつき正当な理由があると認めることはできない。

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原告は,本件雇用禁止合意が雇用禁止期間を比較的短期間に限定するほか,被告会社との関係においてのみ制限を課すものである上,原告の書面による事前の承諾がある場合には雇用禁止の制限を除外しており,一律に労働者の職業選択の自由を奪うものでなく,同自由に対する制約が必要最小限度である反面,被告P2らについて,原告からの派遣先の派遣就業場所や業務内容と,被告会社からの派遣先のそれらとが同一であることに鑑みれば,被告会社との関係において原告の企業利益を保護する必要性が格段に高いなどと主張する。

 しかし,退職後6か月間の雇用禁止期間が短期間であるとはにわかに認めることができないし,労働者派遣法33条2項は,派遣元事業主と,その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者との関係,本件に則していえば,原告と被告会社との関係を規律していることに照らして,被告会社との関係においてのみ制限を課すことそれ自体が正に問題とされているのであって,この点に関する原告の主張が失当であることは明白である。その上,原告の主張によっても,保護されるべき原告の企業利益の内実が何であるのか必ずしも判然としないといわざるを得ない。

 そして,むしろ,上記2ないし4において説示したとおり,被告会社が被告P2らを雇用することを禁止することに正当な理由を認めることはできないことに照らせば,他に特段の主張立証もないのに,本件雇用禁止合意をすることに正当な理由を認めることはできないというべきである。

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JR西日本(岡山支社)事件・岡山地判R4.4.19・労判1275-61

 過失による定時運行遅れとノーワークノーペイ 賃金支払義務発生を肯定

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賃金請求権の発生根拠は、労働者と使用者との間の合意(労働契約)に求められるところ、労働者が債務の本旨に従った労務の提供をしていない場合であっても、使用者が当該労務の受領を拒絶することなく、これを受領している場合には、使用者の指揮命令に服している時間として、賃金請求権が発生するものと解される(前記前提事実のとおり、原告は、午前7時09分から午前7時11分までの間、全く労務を提供しなかったものではなく、本件は、労務の提供が履行不能となった事案ではない。)。

したがって、被告が、午前7時09分から午前7時11分までの間の原告の労務を受領したといえるか否かについて検討する。

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乗務員がいかに小カードに記載されたとおりに各時刻に所定の業務を遂行しようとしていたとしても、労務の提供が人間の活動である以上、一定の割合で、その遂行過程の一部に過失による誤りや遅れ等が生じ得ることは、被告においても通常想定されるものである。

いかに小カードで指定された各時刻に所定の作業を行うことが列車の定時運行のために重要であり、分刻みでの指定がされているとしても、被告が、過失によって生じた小カードの記載に反する労務について、その受領を予め一律に拒絶しているものとは解されず、むしろ、乗務員において上記記載に反する労務を行った場合には、一連の業務の中で直ちに小カード所定の労務内容に修正すべく行動することを求めているものと解するのが合理的である。

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被告は、午前7時09分から午前7時11分までの間の原告の労務を受領したものといえるから、当該労務の提供が、債務の本旨に従ったものであったか否かにかかわらず、当該労務について、被告の指揮命令に服している時間として原告に賃金請求権が発生するものと認められる。

****** 故意の事例

(水道機工事件・最判小1判S60.3.7・労判449-49)

原審は、右事実関係に基づき、本件業務命令は、組合の争議行為を否定するような性質のものではないし、従来の慣行を無視したものとして信義則に反するというものでもなく、上告人らが、本件業務命令によって指定された時間、その指定された出張・外勤業務に従事せず内勤業務に従事したことは、債務の本旨に従った労務の提供をしたものとはいえず、また、被上告人は、本件業務命令を事前に発したことにより、その指定した時間については出張・外勤以外の労務の受領をあらかじめ拒絶したものと解すべきであるから、上告人らが提供した内勤業務についての労務を受領したものとはいえず、したがって、被上告人は、上告人らに対し右の時間に対応する賃金の支払義務を負うものではないと判断している。原審の右判断は、前記事実関係に照らし正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

****** 故意の事例

(JR東海(新幹線減速闘争)事件・東京地判H10.2.26・労判737-51)

本件減速走行は、前記の運転士の義務、すなわち、各停車場の発着時刻どおりに各停車場を出発、通過又は到着するよう運転し、かつ、運転時の諸状況に適合した安全・快適かつ経済的な運転を行う義務に違反するものというべきである。

本件減速走行を予告しての就労の申入れをもって、雇用契約上の債務の本旨に従った労務の提供であると解することはできず、被告がその受領を拒否し、その労務にかかる賃金の支払を拒否したことは、正当なものというべきである。

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(カレーハウスピリピリ経営者事件・東京地判R2.3.3・判例秘書L07530258)

賃金は労働者が使用者に対して労働に従事したことの対価であるから,原告が本件カレー店の営業時間中に来店した客を追い返したり宅配の注文を断ったり味がおかしくて客に提供するべきでない料理を提供したりしたとしてその支払を拒む被告の主張(なお,そもそも原告が上記期間内の日に上記行為をしたとの具体的な主張自体ない。)は失当である。

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学校法人常磐大学事件・水戸地判R4.9.15・ジャーナル130-14

パワハラによる1年間の停職懲戒処分の無効主張 無効と判断

****** 優越的地位の認定の実質性

パワハラとは、就労における優越的な関係を背景とする言動であり、業務上必要かつ相当な範囲を超えており、労働者に身体的又は精神的苦痛を与えるものを意味すると解されるところ、cは、本件学科において、学科長の役職にあり、本件規程15条1項に基づき、学科教員である原告を指導すべき立場にある。そして、たとえcにおいて原告が本件学科の最古参の教授であり、指導しづらいと感じていたとしても、当時、原告がそのような立場から事実上の影響力を行使できたなどという事情はうかがわれず(むしろ、平成28年度から原告に代わってcが学科長となり、原告は学科教員となったことから、本件大学での原告の立場は危うい状況にあったことがうかがわれる。)、これはあくまで心理的・心情的な事情に過ぎないものであるから、原告がcに対して優越的な関係にあったということはできない

****** 管理職を批判を甘受すべき立場

しかし、いずれのメールの内容も以上の限度に止まっており、学科の管理職者である学科長として学科員から学科の運営に関する質問や指摘、批判を受けることは基本的には甘受すべきものであり、cとしても、原告からの質問や指摘、批判に必要な限度で対応すれば足りるものである。また、関連する職員にも併せて送信することについても業務上関連する以上、不必要ないし不相当ということはできないし、それだけで学科長であるcが「さらし者」になるということも考え難い(cによれば、自身が再課程認定に向けて学科長としてなすべきことをしていたという認識であったから(証人c)、なおさら「さらし者」になるということは考え難い。)。「甚だ遺憾」、「責任回避」といった表現についても、学科長であったcの対応を批判する趣旨を超えるものではなく、パワハラには当たらないというべきである。仮に原告による度を超えた批判等があれば、cは、本件学科の管理職者である学科長の立場として原告に指導・注意して改善を促すべきであり、そのような指導・注意をしていないにもかかわらず(証人c)、学科の運営等に関して学科長を批判したことなどを理由に原告を懲戒処分にすることは、合理性を欠くものと言わざるを得ない。

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fに対するハラスメントは、仮にこれが事実であったとしても、本件懲戒処分の時点で既に約10年が経過しており、遅くとも本件懲戒処分の約8年前には当時の被告の学長もfの訴えを同人作成の手紙により認識していたが、これに対して何らかの対応をしたことはうかがわれない。

fの件について、少なくとも約8年間にわたり何ら調査、処分等がされていなかったにもかかわらず、本件に係るハラスメントの申立てをきっかけに突如として被告がこれを問題視することは、使用者として一貫性を欠く恣意的な対応と言わざるを得ず、これを停職という重大な処分の懲戒事由として主張することは失当というべきである。 

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原告も、学生に対して保育士になってほしくないとか、保育士に向いていない、学校を辞めたほうがいいなどと言ったことがあることを認めている。しかし、そのような発言をするのは学生が勉強を放棄していたり、注意を受入れなかったりするときにやる気を出させるような場合に限られる旨を供述しているところ、このような指導がされたからといって、威圧的であったり、侮辱的なものでない限り、許されない指導とまで断じることはできない(仮に被告としてこのような指導が適当でないと考えるのであれば、事前に原告に対してその旨を注意喚起すべきである。)。

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被告において、1年間の停職は、本件就業規則で定められている停職期間の上限であり、懲戒解雇、論旨解雇に次いで重い懲戒処分ということができ、これにより労働者は停職期間である1年間給与の支給を受けられないことになり、解雇に匹敵するような重大な影響を与えることから、そのような重大な懲戒処分が正当化されるには、それに見合うような事由が存在することを要するものと解される。

そして、パワハラが、暴力行為や暴言のように明らかに違法行為に当たる場合であればともかく、本件大学の教員や学生に対する指導等として過剰ないし不相当であるなどの程度に止まるものであれば、それを指導・注意して改善の機会を与えて、それにもかかわらず改善が見られないような場合にはじめて重大な処分に及ぶことが正当化されるというべきである。

本件において、cが、平成28年の1年間に5人の学生(gとhを含む。)と保護者から原告に関する訴えがあったため,当時の副学長同席の下、原告に対し、その旨を伝えて注意喚起をしたことが認められるが(乙2、証人c、原告本人)、この際、原告に対し、具体的にどのような指導・注意をしたかまでは明らかでない。また、その他の機会に、原告に対して個別に教員や学生に対する指導等につき指導・注意したとは認められない。そうすると、従前、原告に対して教員や学生に対する指導等につき改善を要する旨の指導・注意が十分にされていたということはできない

これに加えて、従前、原告に対して譴責や減給等のより軽微な懲戒処分やそれに満たない訓告等がされたこともなかったにもかかわらず、突如として1年間の停職という重大な懲戒処分をすることは、原告に対する不意打ちであり、合理性を欠くものと言わざるを得ない。 

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Man to Man Amino事件・岐阜地判R4.8.30・ジャーナル130-24

高次脳機能障害及び強迫性障害を有する原告

債務不履行(障害についての合理的配慮義務違反)に基づく損害賠償請求 棄却

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障害者雇用促進法が、「障害者である労働者は,職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない。」(同法4条)、「すべて事業者は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。」(同法5条)と規定していることに照らせば、原告の雇用主である被告が障害者である原告に対して自立した業務遂行ができるように相応の支援、指導を行うことは、許容されているというべきであり、このような支援、指導があった場合は、原告は、業務遂行能力の向上に努力すべき立場にあるというべきである。よって、被告が、原告の業務遂行能力の拡大に資すると考えて提案(支援、指導)した場合については、その提案(支援、指導)が、配慮が求められている事項と抵触する場合であっても、形式的に配慮が求められている事項と抵触することのみをもって配慮義務に違反すると判断することは相当ではなく、その提案の目的、提案内容が原告に与える影響などを総合考慮して、配慮義務に違反するか否かを判断するのが相当である。

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東横イン事件・名古屋地判R4.9.29・ジャーナル130-12

債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求 認容

うつ病 症状未固定(発症H31.3.28、口頭弁論終結R4.7.28)

時間外1月100時間超

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この点、被告は、同年3月の原告の時間外労働時間について、被告が採用する1か月単位の変形労働時間制に基づき、同年2月27日に作成して最終的に確定した同年3月のシフト(乙6)を前提に時間外労働時間を算定すると、同月における原告の時間外労働時間は、別紙一覧表「乙第6号証(当社)」欄のとおり107時間48分であると主張する。しかしながら、同年2月27日作成のシフト(乙6)は、同年3月における法定の労働時間の上限(労働基準法32の2)を超えるものであり、その内容自体不合理なものであるから、原告の心理的負荷の程度を検討するための時間外労働時間の算定は、前記のとおり同年2月5日作成のシフトを基礎として行うのが相当である。被告の上記主張は採用することができない。

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2023年1月13日金曜日

医療法人佐藤循環器科内科事件・松山地判R4.11.2・ジャーナル130-2

査定対象期間後の病死退職と賞与支給日在籍条項 適用不可

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賞与は、毎月1回以上の期日に支払われる月例給与に加えて支給されるものであり、使用者は、賞与を支給する義務を当然に負うものではないから、賞与についていかなる支給基準を設けるかは個別の労働契約等によることとなり、賞与の受給資格のある者の範囲を明確な基準で定めることの必要性を一般に否定することはできない。

また、

被告における賞与は、賃金の後払いとしての性格、功労報償的な意味合いのみならず、将来の貢献を期待する勤労奨励的な性格も併せ持つものであると解されることから、考課対象期間より後の在籍の有無を考慮することも認められる。 

これらに加えて、支給日在籍要件によって、賞与の支給要件が明確な基準で定められることにより、労働者は、自らが予定ないし企図する退職時期と賞与の支給予定日とを比較対照することで、自らが賞与の支給対象となるか否かを予測することができ、労働者に不測の損害が生じることを避けることができるという利点があることも考慮すれば、支給日在籍要件には合理性が認められ、この点について当事者に争いはない。

もっとも、

本件のような病死による退職は、整理解雇のように使用者側の事情による退職ではないものの、定年退職や任意退職とは異なり、労働者は、その退職時期を事前に予測したり、自己の意思で選択したりすることはできない。

このような場合にも支給日在籍要件を機械的に適用すれば、労働者に不測の損害が生じ得ることになる。

また、病死による退職は、懲戒解雇などとは異なり、功労報償の必要性を減じられてもやむを得ないような労働者の責めに帰すべき理由による退職ではないから、上記のような不測の損害を労働者に甘受させることは相当ではない。

そして、賞与の有する賃金の後払いとしての性格や功労報償的な意味合いを踏まえると、労働者が考課対象期間の満了後に病死で退職するに至った場合、労働者は、一般に、考課対象期間満了前に病死した場合に比して、賞与の支給を受けることに対する強い期待を有しているものと考えるのが相当である。

本件においては、Cが、本件夏季賞与に係る考課対象期間中、長期欠勤等なく稼働することによって、本件夏季賞与の支給額は、上記考課対象期間満了日の経過をもって既に具体的に確定していたものと評価される状態にあったのであるから、

Cの本件夏季賞与の支給を受けることに対する期待は、単なる主観的な期待感の類いのものではなく、法的な保護に値し得るだけの高い具体性を備えたものであったといえる。

また、Cが病死により被告を退職したのが本件夏季賞与の支給日の20日前であったという事情も考慮すれば、本件夏季賞与について、本件支給日在籍要件を機械的に適用して、本件夏季賞与に係る賞与支払請求権の発生を否定することは、Cにとって、あまりに酷であるといわざるを得ない。

以上のことを考慮すると、Cに対する本件夏季賞与についての本件支給日在籍要件の適用は、民法90条(平成29年法律第44号による改正前のもの)により排除されるべきであり、Cが本件夏季賞与の支給日において被告に在籍していなかったことは、本件夏季賞与に係る賞与支払請求権の発生を妨げるものではないと認められる。

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夏季賞与及び冬季賞与

支給の有無及びその金額→被告理事長の査定(一存)で決定

夏季
(査定対象期間)10月16日~4月15日
(見込額事前通知)12月 基本、翌年の月額基本給の額の1.5倍で固定
(査定)6月10日頃~同月16日頃 約1週間

※増減を加えるべき事情(例えば、産休や育休などで長期欠勤していた場合等)がない限り、上記見込み額のとおりに決定

※過去に、被告の業績の変動を原因として、上記見込み額と異なる金額の夏季賞与が支給されたことはなかった

冬季
(査定対象期間)4月16日~10月15日
(査定)11月 約1か月

日本オラクル事件・東京地判R3.11.12・労経速2478-18

試用期間留保解約権の行使 行使は期間中 解雇効力発生日は期間後

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平成31年2月1日に締結された本件雇用契約において,3か月間の試用期間が定められていた

上司Cは,原告に対し,上記試用期間中である同年4月22日,原告を本採用しない旨を通知した

同月24日,Bも,人事部の立場から,原告に対し,試用期間を延長せず,同年5月末日を最終勤務日とする旨を告げた

以上をもって,被告は,原告に対し,試用期間内に,本件雇用契約により留保された解約権を行使する旨の意思表示を確定的にしたものと認められる

被告は,本件解雇をした際に,原告に対する解雇の効力発生日を,試用期間満了後である令和元年5月末日とし,その後,さらに1か月後である同年6月末日に変更したものである

が,

留保された解約権を行使する旨の意思表示が,試用期間内に確定的にされた場合には,労働者の地位を不当に不安定にするものでない限り,解雇の効力発生日が試用期間満了日よりも後にされたとしても,なお上記留保された解約権の行使としての解雇と扱われることになるものと解される

本件において,当初の解雇の効力発生日が同年5月末日とされたのは,上記本件解雇の意思表示の時期を前提に,解雇予告期間(労働基準法20条参照)を踏まえたものであることがうかがわれ,

その後,同年6月末日とされたのは,原告に就職活動をする時間的猶予を与えて,円満に事態を収める目的であったことがうかがわれるものであり,

いずれの効力発生日も,試用期間満了日から2か月以内であったことをも踏まえれば,原告の地位を不当に不安定にするものではあったとはいえない。

したがって,本件解雇は,本件雇用契約により留保された解約権の行使として,その有効性が検討されることとなる。

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結論として解雇有効

ユーグロップ事件・大阪地決H26.3.27同旨

2023年1月11日水曜日

第一興商事件・東京高判R4.6.29・ジャーナル129-40

外部階段で足を滑らせた転倒と安全配慮義務違反 肯定

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会社は、本件ビルにおいて本件店舗を経営し、調理担当従業員をして食材の運搬、調理等の業務に従事させていたところ、その業務上の必要から、いわば職場の一部として本件階段を常時使用させるとともに、本件サンダルを使わせていたものといえる。

しかるに、本件階段は、本件ビルの屋外に設置された外階段であって、雨よけ等の屋根がなく、雨に濡れる場所にあったところ、会社は、調理担当従業員をして、食材やごみを運搬するなどのため、3階店舗の玄関で土間に降りさせ、本件サンダルを履かせて本件階段を降りさせていたものである。

このような状況の下、控訴人の前任者Pは、平成28年ないし同29年頃、会社の用意したサンダルを履いて本件階段を降りていた際、雨で濡れた本件階段で足を滑らせて転倒し、本件店舗の現場責任者であるQ店長は、その直後に現場を見て、Pの転倒の事実を把握していたものである。

また、本件事故の直前に、Rは、ごみを出しに行くため、本件サンダルを履き、発砲スチロール等を両手に持った状態で本件階段を降り始めたところ、滑ったものの転倒せず、その後は慎重に本件階段を降りたにもかかわらず、再び滑って転倒し、でん部を階段の角にぶつけているし、本件事故のあった月の翌月にも、Sは、本件サンダルを履いて本件階段を降りた際、足を滑らせて転倒している。

このような事情の下では、本件事故時において、調理担当従業員が、降雨の影響によって滑りやすくなった本件階段を、裏面が摩耗したサンダルを履いて降りる場合には、本件階段は、調理担当従業員が安全に使用することができる性状を客観的に欠いた状態にあったものというべきである。

それにもかかわらず、会社は、調理担当従業員に、降雨の影響を受ける本件階段を、その職場の一部として昇降させるとともに、裏面が摩耗した本件サンダルを使わせていたものである。

しかるところ、雨で濡れた階段を裏面が摩耗したサンダルで降りる場合には、滑って転倒しやすいことは容易に認識し得ることである上、本件事故が発生する以前に、本件店舗の現場責任者(Q店長)も、調理担当従業員であるPが本件階段で転倒した直後に現場を見て、同人が転倒した事実を把握していたというのであるから、会社は、上記の場合において、業務中の調理担当従業員が、本件階段で足を滑らせて転倒するなどの危険が生ずる可能性があることを、客観的に予見し得たものというほかない

そして、会社において、そのような危険が現実化することを回避すべく、本件事故発生以前において、本件階段に滑り止めの加工をしたり、降雨の際は滑りやすい旨注意を促したり、裏面が摩耗していないサンダルを用意したりするなど、労働者を含む調理担当従業員が、本件階段を安全に使用することができるよう配慮する措置を講ずることは、会社自身が、本件事故発生以後においてではあるが、実際に行った措置であることに照らしても、十分可能であったというべきである。

そうである以上、会社は、本件事故時において、上記のような危険が現実化することを回避すべく、上記のとおり、調理担当従業員に対して本件階段の使用について注意を促したり、本件階段に滑り止めの加工をしたりするなどの措置を講じ、控訴人を含む調理担当従業員が、本件階段を安全に使用することができるよう配慮すべき義務を負っていたものと解するのが相当であるところ、会社において、本件事故時、上記の義務を履行するために、何らかの安全対策を採っていたことを認めるに足りる証拠はないから、会社は、労働者に対する安全配慮義務に違反したものといわざるを得ない。

そして、本件階段への滑り止めの加工等の措置の性質・内容に、会社が、本件事故後上記のような安全対策を施した後は、本件階段で足を滑らせて転倒した調理担当従業員が存することが本件証拠上うかがわれないことも併せ考慮すれば、会社が上記義務を尽くすべく安全対策を採っていれば、本件事故の発生を防止することができたことが認められる

そうすると、会社は、上記安全配慮義務違反によって、労働者をして、本件階段で足を滑らせて転倒させ、その右手、腰部等に本件傷害を負わせたものというほかない。

以上によれば、会社は、労働者に対し、上記安全配慮義務に違反したことによる損害賠償義務を負担するものというべきである。

会社反論と裁判所の否定

会社は、労働者においては、本件事故時、自らの足元を十分に注意して見て足を運ぶという注意を怠っており、本件事故の直接の原因は、控訴人の不注意にある旨主張する。

→ しかし、労働者において、本件事故時、上記注意を怠っていたことを前提としても、これを、過失相殺を基礎付ける事情として考慮することはともかく、労働者が上記注意を怠ったことから当然に、会社の安全配慮義務違反が否定されるものではない。

会社は、いわゆる業務起因性が認められる労働災害であっても、当該事故や負傷についての使用者の安全配慮義務違反が認められるかは別の問題であるし、厚木労働基準監督署又は静岡労働局作成の書面(甲42、43)は、そもそも想定されている場面が大きく異なる(室内など本来的に濡れない場所と、本件階段のように屋外にある階段とでは、床面の水を除去すべき必要性は大きくなる。)旨主張する。

→ しかし、いわゆる業務起因性と安全配慮義務違反の有無とが別の問題であるとしても、前記説示のとおり、本件においては会社による安全配慮義務違反が認められるものである。また、本件では、会社は、その業務上の必要から調理担当従業員に本件階段を常時使用させていたものであり、屋外であるか屋内であるかは前記説示を左右するものではない。さらに、前記説示のとおり、本件における安全配慮義務の内容としては、本件階段に滑り止めの加工をしたり、降雨の際は滑りやすい旨注意を促したり、裏面が摩耗していないサンダルを用意したりするなどの措置を採ることが考えられるものであり、床面の水を除去する措置が問題となるものではない。

会社は、労働者ら従業員に対し、本件サンダルの使用を義務付けているものではないこと、甲4サンダルは労働者が本件事故時に着用していた本件着用サンダルとは認められず、また、甲4の写真も本件事故直後に撮影されたものではないこと、甲4サンダルをみても凹凸の存在がはっきりと確認できることを指摘し、本件サンダルが会社の安全配慮義務違反を根拠付けることはない旨主張する。

→ しかし、前記説示のとおり、会社は、調理担当従業員に対し、その業務上の必要から本件階段を常時使用させるとともに、本件サンダルを使わせていたものである以上、会社が、本件サンダルの使用の義務付けまではしていないとの理由で、前記説示の安全配慮義務違反を免れるものではない。また、甲4サンダルは、会社が本件店舗に備付けていた2、3足のサンダル(本件サンダル)のうちの一足を、労働者が本件事故の約1週間後に持ち帰ったものであるところ、上記2、3足のサンダルが、サンダルごとにその性状が異なっていたこと等をうかがわせる事情は認められず、甲4サンダルも、本件着用サンダルの性状を示すものと合理的に推認することができる。また、甲4サンダルは、労働者が上記のように持ち帰ったサンダルを、その約10箇月後である令和元年6月に撮影したものであるところ、その間に使用がされ、又は何らかの改ざんが施されたことをうかがわせる事情は認められない。さらに、甲4サンダルの裏面には、確かに凹凸はあるものの、かかと部分やつま先部分の凹凸が薄くなっており、摩耗している状態となっていることが認められる。

会社は、本件事故時、他の従業員が転倒した事例は把握しておらず、また、労働者の主張を前提にしたとしても、平成28年頃から平成30年9月にかけて計4名の従業員が各1回転倒したという程度であり、その転倒原因についても、いずれも、本件階段の状態をよく認識せず、足元を十分に注意して見て足を運ばなかったことがうかがえる旨主張する。

→ しかし、前記説示のとおり、本件事故が発生する以前に、本件店舗の現場責任者であるP店長が、Qが本件階段で転倒した直後に現場を見て同人の転倒の事実を把握した以上、仮に会社内部において同現場責任者からの報告が上がっていなかったとしても、会社が、従業員の転倒事例を把握していなかったとしてその安全配慮義務違反の責任を免れることはできない。また、前記説示のとおり、本件事故を含めその前後において、判明しているだけでも、労働者を含む4名もの調理担当従業員が本件階段で転倒しており、また、証拠(甲24、39、原審における証人Aの証言、原審における控訴人本人の供述)及び弁論の全趣旨によれば、調理担当従業員以外の者が本件階段で転倒した事実がうかがわれることにも照らすと、従業員等の安全に配慮すべき立場にある会社において、本件階段における転倒の危険性を軽視することは許されないものというべきである。さらに、少なくとも4名もの調理担当従業員が転倒していることについて、その全ての転倒事例が従業員側の不注意によって発生したものとは通常は考え難いし、仮にこれらの者に不注意があったとしても、そのことから直ちに、会社における安全配慮義務違反が否定されるものともいえない。

被控訴人は、本件階段は屋外にあり、また屋根がないことから、雨が降れば床面が濡れることは一見して明らかであり、また、本件サンダルを履いていれば、靴を履いている場合に比して足元が安定しないことは、一般的に認知されている事項であるから、被控訴人において調理担当従業員に対し格別の指示や教育をすることは必要なかった旨主張する。

→ しかし、調理担当従業員において、会社が主張する上記事項を十分認識し得たとしても、会社においても同様に、上記事項を十分に認識し得たというべきである。そして、会社は、前記説示のように、本件ビルにおいて本件店舗を経営し、調理担当従業員をして食材の運搬、調理等の業務のために、本件階段を常時使用させるとともに、本件サンダルを使わせていたものである以上、調理担当従業員らの使用者として、同従業員の安全を確保するために、上記のような認識に対応する安全対策を採るべき義務を免れるものではない。

その他、会社は、被控訴人による安全配慮義務違反は存しない旨を種々主張するが、そのいずれをみても、前記説示を左右するに足りるものではない。

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地裁は請求棄却・高裁で逆転

過失相殺4割

損害額

(障害慰謝料140万円+休業損害96万2202円+後遺障害逸失利益329万7598円+後遺障害慰謝料110万円)=675万9800円

675万9800円×0.6(4割過失相殺)=405万5880円

405万5880円-112万8848円(労災保険給付金)=292万7032円

弁護士費用29万円

合計321万7032円

+29万円(弁護士費用)

大成建設事件・東京地判R4.4.20・ジャーナル129-50

研修費用返還請求と労基法16条 違反しない

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労基法16条が、使用者に対し、労働契約の不履行について違約金を定め又は損害賠償額を予定する契約の締結を禁じている趣旨は、労働者の自由意思を不当に拘束して労働契約関係の継続を強要することを防止しようとした点にあると解される。したがって、本件消費貸借契約が労基法16条に反するか否かは、本件消費貸借契約が労働契約関係の継続を強要するものであるか否かによって判断するのが相当である。

本件についてこれをみると、

被告における社外研修制度の下では、応募・辞退は任意であると定められており、原告も、陸上設計室長らの勧めがあったとはいえ、自らの意思で本件研修への参加を決意したものであって、本件研修に参加するよう、強制されたり、指示されたりしたものではない。

また原告は、本件研修要領が定める目的に沿うように、研修テーマを自ら選定したのであって、研修テーマについて陸上設計室長らの指示を受けたものではない。

そして原告は、研修機関について、上長から具体的なアドバイスを受けたことはなく、自ら選定した大学を受験し、履修科目についても、自ら選択したものである。

さらに本件研修は、令和元年8月までの予定であったところ、同年5月に同年8月までに修士課程を修了することが困難であることが判明したとして研修期間の延長を希望したのは原告であり、延長に難色を示した上長と調整の結果、研修期間の延長が実現したものである。

次に、原告が本件研修において履修した科目には、インフラストラクチャーシステムマネジメントや、ビルディングインフォーメーションモデリングなど、建設業を営む被告における業務と関連性を有する内容が含まれるものの、会計基礎論やファイナンス基礎論、オーラルコミュニケーション、法律・紛争解決・交渉などの汎用性が高いと考えられる科目も多く含まれる。

そして原告が、本件研修を通じて、本件研修校において、別紙履修科目一覧記載の各科目を履修し、修士課程を修了したことは、原告のキャリア形成に有益であることは否定し難く、本件研修は、被告以外での勤務において通用する知識、経験や資格の獲得に寄与したというべきである。

また、本件消費貸借契約は、労働契約とは別に、書面により締結されたものであり、その詳細は規程及び規則に定められているところ、本件消費貸借契約に基づく貸金返還債務は、社員の申し出による合意退職、休職期間の満了、諭旨解雇又は懲戒解雇の事由がない限り、復職後5年を経過した時点で免除される(規程10条2項)のであるから、免除までの期間が不当に長いとはいえず、免除の基準が不合理であると評価することもできない。

そして本件消費貸借契約に基づき返還すべき本件研修費用の金額(合計952万7533円)は、米国の大学における修士課程の修了に要する授業料や教材費、住居費等の合計額として、本件研修への応募や延長を申し出た時点で十分に予測し得る範囲にとどまっているといえるし、原告の収入額(月額50万7200円、年収829万9285円)に照らしても、返還を求めることが不当に高額であるとまではいえない

以上のとおり、

〔1〕本件研修は、応募や辞退、研修テーマ・研修機関・履修科目の選定が原告の意思に委ねられていたこと、

〔2〕本件研修は、汎用性が高い内容を多く含むものであり、原告個人の利益に資する程度が大きいこと、

〔3〕貸与金の返済免除に関する基準が不合理とはいえず、返済額が不当に高額であるとまではいえないこと

からすると、本件消費貸借契約が労働契約関係の継続を強要するものであるとは認められない。

したがって、本件消費貸借契約は労基法16条に違反するとはいえない。

原告の反論と裁判所の否定

本件研修期間中、

〔1〕海外勤務者と同等の待遇で給与の支払を受けていたこと
〔2〕業務課題を提出し、業績評価を受けたこと → 被告における社外研修制度の下では、社外研修生は、研修期間中休職と扱われ(規程7条2項)、労務提供に対する対価としての給与が支払われないため、被告は、社外研修生の生活保障の観点から、海外勤務者に対する給与と同等の給付(ただし、規程8条(2)ただし書所定の手当を除く。)を行うとともに、社外研修生に対して賞与と同等の給付を行うために業績評価を行っていたと認められる

〔3〕Eラーニングを義務付けられていたこと → 原告が本件研修期間中に受講したEラーニングは、休職中の者を含む全社員を対象とし、服務規律遵守を目的とした、毎月十数分程度のものにとどまる。

〔4〕セメスターごとに大部にわたる報告書を提出していたこと → 原告が被告から報告書の記載内容について指示されたり、訂正を求められたりした形跡はうかがわれない上、報告書が被告における業務に直接に用いられたと認めるに足りる証拠もない(なお、甲56の1・2によれば、原告が被告に提出した報告書の一部が、陸上設計室の課長が主催する専門委員会と称する会合において共有されたことがうかがわれるものの、本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても、同会合がいかなる性格を有するものであるか、明らかでない。)。

〔5〕新型コロナウィルスの感染拡大を受けた緊急帰国について指示を受けたこと → 休職期間の延長や社員の安全確保に関わる人事管理の観点からされたものにすぎない。

 したがって、原告が主張する上記各事情を踏まえても、本件研修を原告による労務の提供と同視することはできず、原告の主張を採用することはできない。

原告は前記に加え、〔1〕米国からの帰国に際しての被告の一連の対応をきっかけとして、被告との信頼関係が失われ、本件退職に至ったこと、〔2〕被告が仮差押えを申し立てたことなどをも主張するが、原告が主張するこれらの事情は本件消費貸借契約の効力を左右する事情であるとはいえず、採用の限りでない。

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免除期間5年で、年収+アルファの返還請求が認められている

本件は相殺合意による相殺も認めている

ヨツバ117事件・大阪地判R4.7.8・ジャーナル129-36

事業場外労働みなし制度の適用否定

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本件についてみると、

原告が時間外労働を行ったと主張している22か月のうち20か月についてはタイムカードが存在すること

被告の就業規則では、始業及び終業時にタイムカードの打刻が義務付けられていること

被告の従業員服務規程でも外回りから戻ってきた際にタイムカードの打刻が義務付けられていること

被告の事務所にも「帰って来たら必ずタイムカード押して下さい」との掲示がなされており、タイムカードの打刻が求められていること

などからすれば、被告ではタイムカードの打刻が義務付けられており、原告は、タイムカードが残存する月以外の月についてもタイムカードを打刻していたことがうかがわれる。

そして、

タイムカードは打刻した時刻を客観的に記録するものであること

原告のタイムカードをみると、一部手書きの時刻もあるものの、おおむね出勤時刻及び退勤時刻が打刻されていること(甲4の1~20)

からすれば、

被告とすれば、原告のタイムカードの打刻内容を確認することで、原告の労働時間を把握することが容易に可能であったということができる。

また、ポイント加減一覧表の記載内容に照らせば、被告では1日3回の売上報告を行うことが義務付けられていたことがうかがわれるところ(なお、報告が義務付けられていたかの点をさておくとしても、1日3回の電話による売上報告が行われていたこと自体は被告も自認している。)、被告は、同報告により営業担当の従業員がどのような活動を行っているか把握することができ仮に、報告内容に疑問を抱いたり、詳しい内容を知りたいのであれば、報告の際やあるいは翌日朝に事務所に出社した際に追加の報告を求めることも可能であったといえる。

そして、

原告を含む営業担当の従業員は毎日業務日報を提出していたこと

からすれば、同業務日報の内容を踏まえて、報告内容を検討することも可能であったといえる。

なお、被告の主張を前提としても、1日3回の報告のうち最後の報告は終業時になされていたことになるから、被告は従業員の終業時刻を把握することも可能であったことになる。

さらに、原告の業務内容が消火器の販売・交換というものであることからすれば、訪問件数や訪問先所在地などを確認すれば、どの程度の時間を要するかについて、ある程度把握することも可能であったといえる。

被告の反論と裁判所による否定

〔2〕売上報告は義務付けていない → 被告は、報告がなされなくてもペナルティを与えたことはない旨主張するところ、報告がなされなかったとしても、ポイント加減一覧表の記載に基づき当然に賃金から控除できることになるものではないから(賃金を控除するのであれば、減給の懲戒処分等が必要となる。)、報告懈怠を理由に原告を含む従業員の賃金から控除がなされていなかったとしても、被告が原告を含む従業員に対して報告を求めていた(被告の指揮監督が及んでいた)ことが左右されるものではない

〔3〕原告が営業業務に従事している際に上司の同伴はなかった → 仮に、被告が主張するとおり、原告が営業業務に従事している際に上司が同行していないとしても、入社直後であればともかく、一定の経験を経れば、従業員が単独で営業業務に従事することは珍しい事態ではなく、被告とすれば、業務上の必要があれば、適宜の方法で報告を求めることも可能であったといえる。

〔4〕原告に対して、具体的な訪問先を指示していない → 仮に、被告が主張するとおり、被告が原告に対して個別具体的な訪問先を指示していないとしても、営業担当の従業員が、上司等から個別具体的な訪問先の指示を受けるのではなく、自らの活動・判断で営業先を開拓し、訪問するということは、営業担当の従業員として、一般的な業務遂行体制であるといえる。

〔5〕原告に対して携帯電話を貸与していなかった → 仮に、被告が主張するとおり、被告が原告に対して携帯電話を貸与していないとしても、適宜の方法で連絡を取ったり、報告を求めることは可能であり、実際、本件においても、既に説示したとおり、義務付けられていたか否かをさておくとしても、原告を含む被告の営業担当の従業員は1日3回の売上報告を電話で行っていたものであるから、被告の方から原告を含む従業員に連絡をとることは可能であったといえる。

以上からすると、被告が主張する〔1〕ないし〔5〕の事実をもって、原告に対する被告の指揮監督が及んでいないことになったり、被告が原告の労働時間を把握することが困難なものとして、「労働時間を算定し難いとき」に当たるものではなく、証人が、「会社として、従業員の労働時間はどうやって把握していたのですか。」という質問に対し、「できないです。事務員とかって、ずっと会社にいてる者以外は。」と答え、「できないというか、把握しようとはしてなかった、できなかったっていう認識ですか。」という質問に対し、「そうですね。要は、結果さえ出してくれればいいので、営業は。外に出てる間っていうのは、確認しようがないので。」と答えていることをも併せ考慮すれば、結局のところ、被告が主張する事情は、被告が、従業員の労働時間を管理する方策を講じようとすれば可能であったにもかかわらず、そのような措置を講じず、労働時間の管理を怠っていたことを自認するにすぎないというべきである。

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タイムカード義務付けと打刻の実績があれば同じ結論が導ける

使用者が、タイムカードは労安衛法上の状況の把握のためのものである、という主張をしたとして、それは意味がないか? 算定可能性が要件なのであれば、意味はないようにも思われる

川崎テクノリサーチ事件①・大阪地判R4.7.22・ジャーナル129-30

賃金減額合意の無効

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本件賃金減額(令和元年7月分以降)は、原告の月額賃金を合計27万円から22万円に引き下げるものであり、賃金の減額幅は約2割にも上るから、本件賃金減額が原告に与える不利益は相当大きいものであった。

原告は、令和元年6月26日に行われた被告代表者及びCとの話合いの結果、最終的には本件賃金減額に同意したものの、上記の話合いの過程において、被告代表者は、原告に対し、原告の勤務成績及び勤務態度の不良を理由として、原告を正社員からアルバイトに変更する旨の打診をしていた。原告は、自身の地位を正社員からアルバイトに変更することによって日本の在留資格が取り消される可能性についての懸念を抱いたため、被告代表者からの上記の打診を拒絶したところ、これを受けて、被告代表者から本件賃金減額に係る提案がされるに至った。上記の経緯に照らせば、原告にしてみれば、仮に本件賃金減額に係る被告代表者からの提案を拒絶すれば、被告との間の本件労働契約の存続そのものが危ぶまれ、ひいては、日本の在留資格を取り消されるおそれがあるのではないかとの危惧を抱いたとしてもやむを得ない

なお、本件全証拠によっても、原告が被告代表者に対して無償でもよいので正社員たる地位を継続させてほしい旨述べたとの事実を認めることはできない。

本件賃金減額により原告が被る不利益の内容及び程度並びに原告が本件賃金減額に同意するに至った経緯等に鑑みれば、原告の上記同意が原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいい難い

これに関し、被告は、減額後に異議が述べられなかったことや減額後の業務量や責任の程度等にも照らせば、本件賃金減額について原告の自由な意思に基づく同意があったといえる旨主張する。

しかし、本件全証拠によっても、本件賃金減額後の原告の業務量及び責任の程度が本件賃金減額前のそれに比べて約2割も低下したとの事実を認めることはできないし、前記で説示した経緯にも照らせば、本件賃金減額後に原告が被告代表者に対して抗議をしなかったとしても無理はないというべきである。

よって、本件賃金減額につき、原告による有効な同意があったものと認めることはできない

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学校法人早稲田大学事件・東京地判R4.5.12・ジャーナル129-48

書類選考不通過理由説明義務違反(不法行為)の不成立

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(1)労働契約締結過程における信義則上の義務について

本件公募は、アジア太平洋研究科の研究科専任教員採用人事内規に則り、〔1〕応募者から自薦書、履歴書、教育研究業績リスト等を提出してもらい、〔2〕審査委員会において、応募者の中から採用条件を充たしている者を選び出した上で、その中から、募集分野と応募者の研究分野の適合、研究の質的水準、授業遂行の能力と意欲、研究科業務への適性、人格見識などについて精査して、原則として複数の候補者を選抜し、当該候補者を対象として面接審査及び模擬授業を行って採用予定者を1名に絞り込み、〔3〕人事研究科運営委員会において当該採用予定者の採否を決定し、〔4〕被告において、人事研究科運営委員会が承認した採用予定者との間で労働契約を締結することが予定されていたことが認められる。

原告は、本件公募に応募したが、書類選考の段階で不合格になった。原告と被告との間で、原告を専任教員として雇用することについての契約交渉が具体的に開始され、交渉が進展し、契約内容が具体化されるなど、契約締結段階に至ったとは認められないから、契約締結過程において信義則が適用される基礎を欠くというべきである。

原告の主張は、原告が本件公募に応募したというだけで、信義則に基づき、被告に本件情報開示・説明義務が発生するというに等しく、採用することができない。

(3)個人情報の適正管理に関する義務について

職業安定法5条の4は、労働者の募集を行う者に対し、その業務に関し、募集に応じて求職者等の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用することを義務付けているが、求職者等に対する個人情報の開示に関しては、何ら規定していない。したがって、職業安定法5条の4は、本件情報開示・説明義務の法的根拠とはなり得ないというべきである。

個人情報保護法28条2項は、個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示を求められたときには、遅滞なくこれを開示しなければならないと定めるとともに、同項2号において、個人情報取扱事業者が開示義務を負わない例外として、「当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」を挙げている。そして、個人情報保護法における個人データとは、個人情報データベース等を構成する個人情報(特定の個人を識別することができる情報)をいい(個人情報保護法2条1項、6項)、個人情報データベース等とは、個人情報を含む情報の集合物であって、特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの、又は、特定の個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成したものとして政令で定めるものをいう(同条4項)。

原告が被告に対して開示を求めたとする別紙2記載の情報についてみると、同1記載の情報及び同4記載の情報のうち原告に言及がない部分が原告の個人情報に当たらないことは、明らかである。

また、別紙2の2及び3記載の情報並びに別紙2の4記載の情報のうち原告に言及する部分は、原告を識別可能であることから原告の個人情報に該当するものがあるとしても、本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても、これらの情報が個人情報データベース等を構成していることをうかがわせる事情は何ら認められないから、個人情報保護法28条2項に基づく開示の対象となる保有個人データであるとは認められない。

さらに、仮に、別紙2の2及び3記載の情報並びに別紙2の4記載の情報のうち原告に言及する部分が保有個人データに当たるとしてもこれらの情報を開示することは、個人情報保護法28条2項2号に該当するというべきである。すなわち、被告は、採用の自由を有しており、どのような者を雇い入れるか、どのような条件でこれを雇用するかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるところ、大学教員の採用選考に係る審査方法や審査内容を後に開示しなければならないとなると、選考過程における自由な議論を委縮させ、被告の採用の自由を損ない、被告の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがあるからである。したがって、被告は、個人情報保護法28条2項2号により、これらの情報を開示しないことができる

なお、厚生労働省政策統括官付労働政策担当参事官室の平成17年3月付け「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針(解説)」は、「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」に該当するとして非開示とすることが想定される保有個人データの開示については、あらかじめ、必要に応じて労働組合等と協議の上、その内容につき明確にしておくよう努めなければならないとしていたが(甲28の1、乙14)、これは、あくまでも努力義務を定めたものであって、上記協議をしていないからといって、使用者が、「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」に該当する保有個人データを非開示とすることができなくなるわけではない。

以上によれば、職業安定法5条の4及び個人情報保護法は、いずれも、本件情報開示・説明義務の法的根拠にはなり得ないというべきである。

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契約交渉が具体化していたら、説明義務が発生する可能性があるか。

埼玉県立病院機構事件・さいたま地判R4.7.29・ジャーナル129-28

始業時刻前の就労を認定

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原告は、業務マニュアルにおいて前の勤務帯の者からの申し送りを受ける前にすることとされる業務(受け持ちの患者について電子カルテを確認し、行動計画を立て、薬剤等の準備をする業務)について、所定の始業時刻から始めると、申し送りの時刻までに終わらせることができないことを理由に早く出勤して業務に着手していた。

原告が電子カルテを確認するために使用するパソコンは、ナースステーションに設置された共有のものであり、このパソコンを業務外で利用することが許されていたとはいえないことからすれば、始業時刻前に原告がパソコンを使用すれば、上長である看護師長や他の看護師は、即時、容易に、原告が始業時刻前にマニュアル所定の業務を行っていることを知ることができるはずである。

平成30年2月1日から平成31年5月7日までの原告のパソコンのログイン履歴(甲8)をみても、原告はほとんど全ての勤務日において、所定の始業時刻より前に、当日最初のログインをしている。

そうであれば、看護師長は、原告が常態として始業時刻より前に業務を開始していることを知っていたと認めるのが相当である。

これに対し、看護師長が、原告に対し、始業時刻前に業務をすることについて禁じたり、やめるように指導をしたりした形跡はない

そして、看護師長は、命令簿における時間外勤務命令の決裁権者であるところ、長期間にわたり、ほぼ毎勤務日、何らの異議を述べずに始業時刻前の労務の提供を受入れていたものであることからすれば、これらの業務は、被告(がんセンター)の黙示の指揮命令の下で行われたものと評価するのが相当である。

被告は始業時刻前の業務を命令したことはない旨主張するところ、確かに、原告の命令簿をみても、早出の時間外勤務が命じられた日はほとんどない。しかし、がんセンターにおいては、新人研修などの行事の準備のために早出を命じるときには命令簿により時間外勤務命令を出していたが、それ以外の早出については命令簿が作成されることはほとんどなかったものと認められ(証人A)、原告も早出残業についての申請の仕方は知らなかったと述べることからすれば、命令簿による明示の命令がないことをもって、始業時刻前の労務提供について、被告による指揮命令外のものであるということはできない

以上から、原告のパソコンのログイン時刻(甲8)又は所定の始業時刻のいずれか早い方を実際の始業時刻と認める

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・マニュアルに沿うため、という理由
・頻度と態様
決裁権者は始業時刻前業務を知っていた

禁止・指導なし(ほぼ毎勤務日)

命令簿は形骸化しているから、命令簿がないこと自体は重視されない

→ 黙示の指揮命令がある

川崎テクノリサーチ事件②・大阪地判R4.7.22・ジャーナル129-30

普通解雇有効

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遅刻欠勤について

原告につき、平成30年6月の入社当初より、始業時刻直前の出勤や遅刻等のために始業時刻と同時に業務を開始することができないという問題が見られたため、被告が平成31年4月以降に原告の勤怠管理を厳格化させたところ、その後、令和2年1月までの約10か月間における原告の遅刻及び欠勤の回数は、合計27回に上った。このように、原告の遅刻及び欠勤の頻度は、被告の業務の円滑な遂行について悪影響を与えるのに十分なものであったといえる。 

被告代表者は、原告が令和2年1月8日に寝坊を理由に始業時刻の午前9時から40分もの時間が経過するに至るまで何の連絡もしないまま午前中に欠勤したことを受けて、同月9日、原告に対し、口頭で注意を与えたものの、原告は、その約1週間後である同月17日、再度、寝坊を理由に遅刻した。原告は、本件懲戒処分を受けて本件始末書を作成するに当たり、遅刻及び欠勤につき、「事前に遅刻や欠勤の理由を伝えて、貴社の承認を得た上でのことなので、反省することない。」と述べ、反省及び改善の意思が無いことを明らかにした。上記の原告の対応等に鑑みれば、原告には、度重なる遅刻及び欠勤につき、改善の見込みがないものと判断されてもやむを得ない。

これに関し原告は、寝坊や体調不良を理由とする遅刻に関しては性質上事後報告となっていたものの、それ以外の私用による遅刻及び欠勤については被告の承認を得ていたから特段問題はないはずであるし、寝坊を理由とする遅刻についてはうつ病に伴う不眠症が原因であって原告に酌むべき事情があり、こうした遅刻について、原告に改善の見込みがなかったとはいえない旨主張する。

しかし、別紙1「遅刻及び欠勤一覧」の記載からも明らかであるとおり、「私用」を理由とする遅刻には、事前に被告の承認を得ていたわけではないものも多数含まれているところ、仮に被告が原告による上記の遅刻を事後的に有給扱いにすることを認めていたとしても、上記の遅刻によって被告の通常の事業活動が阻害される結果となったことは明らかである。また、原告は、遅刻又は欠勤に先立って有給休暇の届出をした場合であっても、就業規則の定めに従って14日前までにその届出をしたことはなく、直前に届出をすることが多かったのであって、これにより被告の通常の事業活動が阻害されていたことに変わりはない。

また、仮に原告が何らかの精神疾患を発症しており、そのために寝坊が多くなっていたものであるとしても、当該精神疾患が業務上のものであると認めるに足りる証拠はなく、そうである以上、被告に対して事前に連絡することなく遅刻を繰り返していた点につき、原告に酌むべき事情があったとはいえない

以上のように、原告が多数回にわたって遅刻及び欠勤を繰り返していたことにより、被告の通常の事業活動が阻害されていたことは明らかであり、これに関して原告に酌むべき事情があったとはいえないところ、それにもかかわらず、原告は、前記のとおり、遅刻及び欠勤につき、「貴社の承認を得た上でのことなので、反省することない。」などと述べて自らの態度を改める意思がないことを明らかにしていた。上記の経緯に鑑みれば、被告において、原告には遅刻及び欠勤を繰り返す傾向を改善する意思がないものと判断するに至ってもやむを得ないというべきであり、これに反する原告の主張を採用することはできない。

勤務態度不良・協調性欠如

原告は、始業時刻直前に出勤したり遅刻したりするために、始業時刻と同時に業務を開始させることができないことも多かった。また原告は、ミーティングにおいて被告代表者及び他の従業員らの面前で居眠りをしたり、被告の社内でメルカリ等のサイトにアクセスして私物を被告の事務所に送付させたりすることもあった。このように、原告の勤務態度には、被告入社当初より、多数の問題点が見られた。これを踏まえて、原告の同僚であったEは、原告の入社当初より、被告における勤務に臨む姿勢等に係る原告に対する指導を繰り返し行っていた。

そして、原告が被告に入社してから約9か月が経過した頃、Eが原告を食事に誘った際、原告は、Eに対し、被告に在籍する目的は日本の在留資格を取得するためであるとの趣旨の発言をした。また、同時期頃、Eが原告に対して「もっと謙虚にならないと周りの人から信頼を得られないよ。誰からもアドバイスをしないようになってしんどくなるよ。」とのメッセージを送信したにもかかわらず、原告は、上記のEからの真摯な助言について、「あほなことを言ってるんだな。」としか受け止めず、自身の態度や行動を全く改めようとはしなかった。

上記各事実は、原告には、同僚からの助言を真摯に受け止めて、被告における業務に真面目に取り組もうとする姿勢が欠如していたことを示すものであるといえる。

原告は被告の業務で中国に出張したことを奇貨として、現地において日本の硬貨を安価で仕入れ、帰国後にこれを銀行で交換して差額を利得するとの要領による硬貨取引を行い、上記硬貨取引を行うために勤務日の午前中に銀行に赴き、そのために遅刻し又は休暇を取得していたものであるところ、原告が上記の理由により遅刻し又は休暇を取得した回数は、令和元年5月から同年11月までのわずか半年の間だけで合計16回に上っていた。したがって、原告による硬貨取引は、本業である被告における業務の遂行につき、少なからず影響を与えていたといえる。

また原告は、被告が顧問先に対して配布するKTR通信と題する冊子に掲載するために、上記硬貨取引に係る原稿を作成したものの、上記原稿の内容は、為替規制を回避するために人を雇って税関を突破したなど、被告代表者がその適法性について疑問を呈するのも当然といえるようなものであり、そのため、被告代表者は、原告の作成した原稿をKTR通信に掲載することを見送るに至った。

原告が上記の要領による硬貨取引から得た利益の額については証拠上必ずしも明らかでないものの、原告が行った硬貨取引に係る上記の各事実は、少なくとも、原告が被告の業務を軽視し、被告の業務について非協力的な態度を有していたことの表れであるといえる。

原告は、適応障害を理由とする休職期間中に友人に会いに行くとの理由で上海に出掛けた上、帰国時に検疫のためにホテルに隔離されることになった際、被告代表者に対し、自身がホテル内でくつろぐ写真やホテルの内装写真等を添付した上で、「飛行機降りた途端、政府に無差別ハイジャックされまして、14日間貸切の5星ホテルの個室に全員隔離検疫されています。」とのメールを送信した。また、原告は、被告代表者から休職期間の満了日が休職開始日から3か月後の令和2年5月21日までである旨を伝えられた際には、同人に対し、「え?6ヶ月じゃなかったですか?もうちょっと3ヶ月くらい優雅に紅茶飲みたいですよ。」とのメールを送信した。上記のような原告の態度は、被告代表者に対する配慮を欠くものであることが明らかである。

原告は、被告代表者に対して送信した上記各メールは、中国では上司と部下との関係が日本よりもフランクであることを背景とする単なるジョークであって、原告なりにユーモアを利かせたものにすぎず、それをもって原告の姿勢が不真面目であると評価することはできない旨主張する。

しかし、原告が被告代表者に対して送信した「え?6ヶ月じゃなかったですか?もうちょっと3ヶ月くらい優雅に紅茶飲みたいですよ。」とのメールは、休職期間が自分の予想よりも短かったことを捉えて、休職中の原告に対して休職期間の終期を通知してきた被告代表者に向けられた、被告の対応を揶揄するメッセージと捉えられても仕方がない。文面上相手を揶揄するものであるように見えるメッセージを単なるジョークとして軽く受け流すことができなかった責任を、当該メッセージの受け手である被告代表者に帰責させ、自らの行動によって誤解を与えてしまったたことを一切顧みようとしない原告の態度そのものに問題があるといわざるを得ない原告の主張する中国と日本との文化的背景の差異は、原告の態度の問題性に係る上記の結論を左右するものではない

加えて原告は、令和2年5月29日に本件懲戒処分を受けた際にも、被告代表者に対し、現在の自分の手取りは1500万円くらいあるので、職は要らないがビザが必要だとの趣旨の発言をしていた。

当時の原告の収入に係る上記発言の真偽の程は定かではないが、いずれにせよ、原告の上記発言は、被告の業務ないし被告代表者の立場に対する配慮を著しく欠くものであることが明らかである。

このように原告は、被告の業務を軽視し、他の被告の従業員らの助言を真摯に受け止めようとせず、被告代表者に対しても著しく配慮を欠く言動を繰り返していたものであり、被告在籍中における原告の勤務態度及び協調性には著しい問題があったものといわざるを得ない。

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2023年1月10日火曜日

ヤマサン食品工業事件・富山地判R4.7.20・労判1273-5

 締結済みの定年後再雇用契約の、開始前の解除の有効性

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高年法改正により、継続雇用を希望する定年到達者全員を65歳まで継続雇用することが義務付けられたのであり、その趣旨は、老齢厚生年金の受給開始年齢までの収入を確保することにあると解される。

そして、

「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」の内容をも踏まえると、

心身の故障のため業務に堪えられないと認められることや、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等の就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する場合に限り、例外的に継続雇用しないことができる

が、

労使協定又は就業規則において、これと異なる基準を設けることは、平成24年改正後の高年法の趣旨を没却するものとして、許されないと解するのが相当である。

以上に検討したところによれば、

被告における継続雇用制度は、平成24年改正の趣旨を踏まえ、基準年齢に達するまでは、本件労使協定に定める基準を適用することなく、解雇事由又は退職事由に該当する事由がない限り再雇用し、基準年齢に達した後は、本件労使協定に定める基準を満たす者に限って65歳まで再雇用する旨定めるものと解釈すべきである

これに対し、被告は、

高年法は私法上の効力を有するものではなく、事業主に個々の労働者に対する再雇用義務を直接課すものではない旨主張する。

しかし、

本件においては、被告に、継続雇用制度に関する就業規則や労使協定が存在している上、原告と被告との間で本件合意が締結されているのであり、上記就業規則及び労使協定並びに本件合意を解釈するに当たり、高年法の趣旨を考慮することが許されないものではない

本件解除は無効である。

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契約内容は既に決まっていた事案(地位確認請求認容)。

竹中工務店ほか2社事件・大阪地判R4.3.30・労判1274-5

 労働者供給による不法行為の成否

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職業安定法44条の趣旨に鑑みれば、同条に違反する行為は、民法709条の違法性を帯びる行為というべきである。

被告らの対応には相当でない部分があったと言わざるを得ない。

もっとも、

本件労働局通知を受けて以降、被告らは、直ちに本件作業所における原告の就労状態を確認し、原告の配席や原告に対する業務指示の方法、対価の定め方等、請負の形式に沿わない部分を改め、違法状態を是正しようと努めていることが認められる。

かえって、

原告は、本件作業所で稼働して10日ほどで労働局に偽装請負の申告をする一方で、自ら積極的に被告の課長に業務上の質問を行い、業務指示を仰ぐなど、原告の方から積極的に業務上の指示関係が形成されるような言動を行い、自ら進んで労働者派遣形態での業務従事の外形の作出に関わっていたほか、

本件労働局通知や大阪労働局の訪問調査の内容に関して誓約書に違反する方法も用いて証拠を収集するなどし、違法状態を是正し健全な労働関係を形成する方向で働きかけを行うというより、違法な事実を作出し探索せんとするような態度に出ていたものと認められる。

原告が被告らの対応に不信感や不快感を覚えたとしても、金銭賠償をもって補てんしなければならない精神的苦痛があるとまでは認められない。

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学校法人コングレガシオン・ド・ノートルダム(抗告)事件・福岡高決R4.2.28・労判1274-70

北九州市から福島市への配転命令に対する保全の必要性

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使用者は、前件控訴審判決確定後も、労働者を●●学園において勤務させることなく、労働者に▲▲学園での勤務を命ずる本件配転命令を発したのであり、

●●学園でP科教諭として勤務することを望んでいた労働者において、本件配転命令が不本意なものであり、福島市に転居した上で使用者代表者のいる▲▲学園で勤務することは労働者に身体的又は精神的負担を負わせるものであることは否定できない。

しかし、

本件配転命令に基づく異動の前後で賃金の減少は認められず、給与規定により赴任旅費や住宅手当も支給されるから、転勤や転居による経済的負担についても大きいとはいえず身体的負担についても同様である。

また、

▲▲学園におけるP科教諭としての業務は●●学園における業務と大きく異なるものとはいえず、その業務内容において労働者に何らかの不利益を負わせるものともいえないことからすれば、本件配転命令による労働者の精神的苦痛が多大なものであるとは解し難い

以上のことからすれば、

本件配転命令により労働者に著しい損害又は急迫の危険が生じるとは認められない。

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金銭支給は身体的負担を緩和すると考えられている?

阪神高速トール大阪事件・大阪地判R3.3.29・労判1273-32

規則上の セクシュアルハラスメント該当性

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本件において、原告(男性)がP主任(女性)に対し、平成26年及び平成27年頃、少なくとも3回、使用後はトイレの便座を上げるよう伝えたことは原告も認めるところである。

原告は、本件発言には性的な意味が含まれないから就業規則14条1項の「性的言動」(セクシュアルハラスメント)には当たらない旨主張する。

しかしながら、

本件マニュアルには、「女性だから・・・」という性別により役割分担すべきとする意識に基づく言動を言います、と定められていること

に照らせば、

本件就業規則14条1項の「性的言動」(セクシュアルハラスメント)には、「女性だから・・・」と性別により役割分担すべきとする意識に基づく言動も含まれると解される。

しかるところ、

原告がA部長及びB部長に対して「男性トイレを使うのに下したものをなんで上げてくれないのかなどといった話を繰り返した」こと、「Pさん、基本、男性用やから、男性用使わしてもらんやからー、下したもんは、上げといてよ」などと発言していることに照らすと、

本件発言は、女性が男性も使用するトイレを使用した場合には、後に使用する男性のために便座を上げるべきという、性別により役割分担すべきとする意識に基づく言動に他ならないと認められ、

本件就業規則14条1項の「性的言動」(セクシュアルハラスメント)に該当する。

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マニュアルに記載がなかったらどうなっていたか。

本件発言は不相当ではあるが、これは「性別により役割分担すべきとする意識に基づく言動」に他ならないといえるのか。もう一歩つなぐ言葉(職場における男性中心価値観)が必要ではないか。職場における不当な男性中心価値観に基づいた不当な性別役割分担意識による発言。