2023年2月28日火曜日

STyテクニカル工業事件・千葉地判R4.3.3・労経速2499-49

有期契約(1年)での試用期間解雇 → 有効 ※やむを得ない事由を要求しない

*******

職種 事務

期間の定め あり 1年ごとの契約更新

試用期間 3か月 試用期間満了後に本採用

給与 時給1000円 毎月末締め 翌々月5日払い(銀行が休業の場合は翌営業日)

******

被告は、事務を担当していた正社員が65歳になり退職したことから、欠員補充の目的で求人を出し、原告は、これに応募して被告に入社した。

応募に際し提出された原告の履歴書には、三級ファイナンシャルプラン技能士等の資格を取得し、宅地建物取引士試験にも合格していること、事務経験が3年ほどあり、電話応対、契約書類の作成、請求書の作成等をしていたこと等が記載されていた。また、職歴として、平成16年6月から平成29年10月までの稼働歴(アルバイトを含む。)が記載されていた。なお、前職(a社)での稼働歴は記載されていなかった。

******
原告は、10月15日から12月25日まで、原則として月曜日、水曜日、金曜日の9時から16時まで、土曜日の9時から15時まで、被告の事務所でパート事務員として稼働した。火曜日又は木曜日に勤務したのは、10月15日、同月17日、11月5日及び11月21日の4日のみであり、12月は、月曜日、水曜日、金曜日のみの稼働であった(乙1)。

******

原告の前任者は、見積書の転記、領収書のファイル、作業員名簿や安全書類の作成、請求書に関する準備書類と請求書の本証の作成等を担当していた。B〔原告の上司〕は、原告の稼働開始に当たり、まずは見積書の転記及び領収書のファイルを行わせることとし、原告が作成した書類をBが確認して、ミスをその都度指摘し、次回の改善につなげるよう指導することとした(証人B、乙9)。

******

原告は、Bが見直しや訂正を指示した後も、作成日付や数量の誤り、工種の転記の一部脱落等を訂正していない状態で、見積書をBに提出することがあった。原告は、入社1か月後(11月20日)の時点で、数量や書式の誤り、修正漏れのほか、被告の名称及び住所を記載すべき欄に「甲川定価 15.300円」「千葉 定価」「TEL定価 3,500円」等と記載された状態の見積書を、見直した後の完成物としてBに提出した(原告本人〔22〕、乙4の1〔1、5、8〕、乙4の2)。

原告は、Bから領収書を渡される都度、交通費の小口精算帳簿に入力し、月に数回印刷してBに提出していたが、その際、実際と異なる現場名を記載したまま(「北浦和」「国分寺西」「東品川」等を「虎ノ門」、「立飛」を「ふじみ野」、「レイクタウン」を「人形町」、「日野」を「旭丘」、「目黒」を「碑文谷」等多数。10月ないし12月)、あるいは依頼元の企業名の記載を落としたまま(10月及び11月)提出することがあった(原告本人〔32、33〕、乙3)。

******

Bは、当初、原告が仕事に慣れていないためにミスが出ているものと考え、指導箇所を後から見直せるよう、赤字で訂正を入れ、その理由を口頭で説明したり、事務室内にあるホワイトボード(社員の外出予定が現場名と共に記載されている。)の写真を撮って印刷し、一つ一つチェックを入れつつ小口精算帳簿に入力するよう指導したりしていたが、原告は、上記のとおり、入社後1か月を経ても同じような入力ミスを繰り返し、Bから訂正を指示されても1回で反映させることができない状態が続いた。

被告代表者とBは、12月頃から、原告に書類の作成業務を任せることはできないと考えるようになった(証人B〔2ないし5〕、乙9)。

******

Bは、11月下旬ころ、被告代表者に対し、原告とはこれ以上一緒に仕事をするのは難しい等と伝えた。被告代表者も、12月初旬には本採用は難しいと感じていたが、試用期間いっぱいの様子を見た上で判断しようと考え、Bにもその旨を伝えた(証人B〔7〕、被告代表者本人〔2、7〕)。

******

原告は、単純な書類作成にもミスを頻発させ、Bによる指導や訂正指示にも拘わらず、同様のミスを繰り返していたことが認められる原告が、一見して明らかなミスや、(Bに尋ねたり、事務室内のホワイトボードの記載を直接見たりすることによって)容易に防ぎ得るミスも放置したまま、Bに書類を提出していること(認定事実(2)ア(イ)、(ウ))からすれば、原告が、一般に特別な能力を必要としない事務員として採用されていることを考慮しても、その作業能率は明らかに不良である(就業規則第29条1項⑤)といえる。

******

上記の原告の作業能率の不良は、採用決定の時点で知ることが期待できない事実であるところ、原告が、ミスの原因としてBの指示や配慮の不足を挙げるなど、自身の注意不足を省みたり、Bにかかる負荷を考えたりする姿勢に乏しいこと(原告本人〔2ないし6〕)、Bは、自らの仕事に加え、原告がしなかった原告の前任者の担当業務を引き受けていたこと(同(2)ウ)等も併せ鑑みれば、原告の作業能率の不良は、これを前提とすれば、欠員補充を目的としていた本件労働契約が締結されることはなかった事情であるといえる。本件解雇は、原告が原告の夫の請求に関与したことを契機に時期が早められたものと推認されるが(認定事実(2)イ(エ))、原告の作業能率の不良の程度及びそれに対する姿勢に鑑みれば、残りの試用期間を勤務しても要求水準に達することが困難であったといえるから、本件解雇は、就業規則29条1項⑤に規定する解雇事由があり、留保解約権の趣旨及び目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会的に見て相当であるというべきである。

******


シティグループ証券事件・東京地判R4.5.17・労経速2500-29

 中途採用者の試用期間解雇 → 有効

*******

被告の就業規則が解雇の事由として「試用期間中の者について、社員として不適格と認められたとき」を定めていること、本件雇用契約が3か月間の試用期間を定めていること、本件解雇が当該試用期間の満了直前に上記就業規則の規定を根拠としてなされたこと(前提事実(3)、(4)、(7)、(8))に照らすと、本件雇用契約における試用期間の定めは契約の解約権を留保したものであって、本件解雇は当該留保解約権の行使としてなされたものと認められる。

そして、かかる解約権の行使としての解雇であったとしても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、当該解約権を濫用したものとして無効と解されるが、通常の解雇よりも広い場合において許容されると解するのが相当である(最高裁判所昭和48年12月12日大法廷判決・民集27巻11号1536頁参照)。

*******
原告は、本件雇用契約に基づく勤務を開始して日が浅く、職場の実情等を十分把握しているとは到底認められない中で、

沖縄拠点のアセットサービス課長として協働すべき立場にある東京拠点のアセットサービス課長であるE課長について、「●」などとアセットサービス課長としての適格性を頭から否定する内容のメールを、両者の上司であるB部長に送信し(認定事実(2))、

他部署の職員について、「●」などとその能力等を否定的に評価する内容のメールをアセットサービス課の職員全員が受信する態様で送信したり、

「●」などと非難する内容のメールを多数の職員が受信する態様で送信したりした(認定事実(6)ウ)ばかりでなく、

取引先の担当者に対し、「●」などと通常の受け手をして高圧的との印象を抱かせるメールを送信した(認定事実(4))。
*******
また、原告は、本件雇用契約に基づく勤務を開始して日が浅く、b社における運用等が定まった背景や経緯などを十分把握しているとは到底認められない中で、

「●」などとb社における運用等に問題がある旨を強い口調(筆致)で主張し、周囲の職員が経緯や現状などを説明しても(認定事実(3)イ、(6)イ、(7)イ)、自らの主張を繰り返すばかりでb社における運用等が定まった背景や経緯などを把握することに意を尽くさなかった(認定事実(3)ウ、(6)ウ、(7)ウ)。
*******
このような原告の言動に対し、周囲の職員が困惑・反感を示したため(認定事実(3)エ、(8)、(9))、原告の上司であるB部長は、原告に対し、受け手に配慮したコミュニケーションが必要であることを繰り返し指導した

が(認定事実(8)、(10)イ・エ・カ)、

原告は、自らの主張が正しいことをいうばかりで上記指導に耳を貸そうとしなかった(認定事実(10)ウ、オ、キ、(12))。

また、原告は、顧客との契約に当たる証券サービス本部と連携することなく、単独で取引先と打合せを行い、一方的に「昨日、当行は、本邦初の『株主総会の電子化』に向けて、株式会社fと共に、着手することになりました。」などと表明して、証券サービス本部等の不信感を強めている(認定事実(14)、別紙1番号15)

*******
以上のような経過から、原告の上司や人事担当者は、原告の沖縄拠点のアセットサービス課長としての適格性に疑問を持ち、沖縄拠点への赴任を保留して、本件人事面談において改善を求めた(認定事実(11)、(15)、(16)、(18)、(20))。

それでも、原告は、「●」とのメールを送信して従前の主張を繰り返した(認定事実(17)、別紙1番号18)。

また、原告と周囲の職員との信頼関係が改善することはなく(認定事実(21)イ、別紙1番号27・28)、むしろ上司であるB部長との信頼関係が損なわれていった(認定事実(19)ウ、別紙1番号24)。

*******
以上によれば、

原告には、他者を理解することに意を用いることなく、また相手方の受け止め方を配慮することなく、自らの見解を一方的に主張する性向が認められ

かかる性向は、本件訴訟の原告本人尋問における原告の発言状況〔反訳書9頁等〕にも表れているというべきである。)、

上司の指導によってもその性向は改まらなかったものであって、

沖縄拠点のみならず東京拠点の関連部署と連携を図りつつ部下職員の指導・監督に当たるべき管理職として資質を欠くものというほかない。

そして、被告においてかかる原告の性向を採用前に認識することは困難であったといえるから、

本件解雇は、本件雇用契約の留保解約権の行使として客観的に合理性を欠き、社会通念上相当と認められない場合に当たるとはいえず、有効であると認められる。
*******
<以下、原告の主張を採用しない、とする部分>

原告は、被告は人事面談1がなされた9月25日の時点で原告の解雇を事実上決めており、本件解雇は実質的に試用期間中途の解雇であって、試用期間満了時の解雇と比してより高度の合理性・相当性が求められる旨を主張するが、被告が人事面談1の時点で原告の解雇を事実上決めていたことを認めるに足りる証拠はない。

原告は、本件雇用契約における賃金は年額850万円にとどまる上、原告の職務も実質的には管理職ではなく、本件解雇について被告の裁量を広く認めるべき事情はない旨を主張するが、前提事実(2)・(3)及び証拠(甲1、乙1、23)によれば、被告はもともと沖縄拠点のアセットサービス課において勤務する管理職でない職員を募集していたのに対し、原告の職歴に注目して管理職たる課長として採用したものであり、部下職員4名の指導・監督に当たるべき管理職の職務を担っていたことは明らかである。

原告は、(2)アからウまでで指摘した原告の言動がいずれも業務上必要なやり取りにとどまる旨を主張するが、当該言動が一般的な受け手をして困惑・反発させるに足りるものであることは明らかであり、その認識を欠くこと自体、原告のコミュニケーションにおける問題であるというほかない。原告本人は、メールで記載した事項について口頭で補足して説明していた旨を供述するが(反訳書50頁等)、(1)で説示したとおり他の職員から原告に対する困惑の声が上がっていたことからすれば、仮にかかる説明をしていたとしても、それが功を奏していなかったものというべきであって、原告のコミュニケーションに問題があったことを左右するものではない。

なお、原告は、b社の税務処理について繰り返し指摘していたことについて、税務上違法な処理がなされていた疑いが濃厚であったにもかかわらず被告が原告の問題提起に対し適正な回答をせずにいたため、管理職としての責任から指摘を続けた旨を主張する。しかし、(2)イで説示したとおり、原告は自らの見解を強い筆致で主張し(認定事実(10)ア、別紙1番号8)、問題点を整理するよう指示を受けても、税務部に追及的な質問のメールを送り付けるのみで(認定事実(12)、別紙1番号14①)、実情や問題点の把握に意を用いる態度を示さなかったのであって、仮にb社の当該税務処理が適切でなかったとしても(当裁判所がかかる認定をするものではない。)やはり原告のコミュニケーションに問題があったことを左右するものではない。
*******

甲社事件・千葉地判R4.3.29・労経速2502-3

職場環境調整義務違反を認め慰謝料80万円認容 → 調整のためには周りに原告の症状を知らせる必要があるが、それは許されるのか?まずは原告に、周りに話しても良いかを尋ねるべきではないか?それとも安全配慮義務の履行という面からは義務として同意なくしても実施すべきということか?

*******

原告は,本件出来事に関連して,●●●SV,●●●SV,●●●SVにより,一連のパワハラを受け,うつ症状を発症し,増悪した上,●●●,●●●UM,●●●SV,●●●,●●●,●●●を始めとする他の出演者により,出演者間の「カースト」に基づいた職場における常習的ないじめの一環としてのいじめを受けて,著しい精神的苦痛を受けたと主張するところ,

●●●SVの発言について,本件出来事の後,セキュリティ部のオフィスで行われた原告との面談において,●●●SVの側から,労災申請への協力を求める原告の心の弱さを指摘するものともとれる発言があったという限度において認めることができることは,上記2(2)のとおりである

が,

●●●SVの発言,●●●SVの発言については,これを認めるに足りる的確な証拠がなく,認めることができない。

●●●SVの発言についても,社会通念上相当性を欠き違法となるとまでいうことはできない。

●●●の発言,●●●UMの発言,●●●SVの発言,●●●の発言,●●●の発言,●●●の発言についても,それらの発言がされたことを認めるに足りる的確な証拠がなく,一部認めることができる発言等(上記2(5)の●●●UMの発言,●●●の平成29年11月22日の発言)についても,それが社会通念上相当性を欠き違法となるとまでいうことはできない。

もっとも,

原告は,これらのパワハラ及び職場における常習的ないじめがあったことを前提として,被告が,原告の仕事内容を調整する義務に違反し,職場環境を調整する義務に違反したと主張するものである。

そして,原告の仕事内容を調整する義務の違反については,

(1) 原告は,本件出来事の後,うつ症状が発症し,過呼吸の症状が出るようになったが,来期の契約締結の可否に影響を与えることを慮り,できる限り人に知られないようにしていたこと,

(2) ●●●医師ら及びハートクリニック●●●の医師は,休職の上,療養に専念することを勧めたが,原告は,出演者雇用契約の継続にこだわり,出演者としての就労を継続しながら治療を受けることを望んでいたこと,

(3) 被告は,原告が出演者としての就労を継続することを前提として,なるべくゲストに接することがないように配慮したポジションである本件配役を配役したものであること

からすると,被告が原告の仕事内容を調整する義務に違反したとまでいうことはできない

が,

職場環境を調整する義務の違反については,

(4) 原告は,過呼吸の症状が出るようになったことから,配役について希望を述べることが多くなったところ,過呼吸の症状が出るようになったことを原告ができる限り人に知られないようにしていたこともあり,他の出演者の中には,原告に対する不満を有するものが増えたのであって,原告は職場において孤立していたと認めることができるところ,

(5) 出演者間の人間関係は,来期の契約や員数に限りがある配役をめぐる軋轢を生じやすい性質があると考えられること,

(6) 原告は,本件出来事の後,うつ症状が発症し,過呼吸の症状が出るようになった後も,来期の契約締結の可否に影響を与えることを慮り,できる限り人に知られないようにしていたが,原告の状況は,遅くとも平成25年11月28日及び12月18日の面談により,●●●部長,●●●MGRの知るところとなったこと

によれば,

被告は,他の出演者に事情を説明するなどして職場の人間関係を調整し,原告が配役について希望を述べることで職場において孤立することがないようにすべき義務を負っていたということができる。

ところが,

被告は,この義務に違反し,職場環境を調整することがないまま放置し,それによって,原告は,周囲の厳しい目にさらされ,著しい精神的苦痛を被ったと認めることができる

から,

被告は,これによって原告に生じた損害を賠償する義務を負う。

原告は,被告の職場環境を調整する義務の違反によって,著しい精神的苦痛を受けたと認めることができるところ,この苦痛に対する慰謝料は80万円とするのが相当である。

原告は,報酬を支払うことを約して本件訴えの提起及び追行を原告代理人に委任したと認めることができるところ,その報酬のうち被告の職場環境を調整する義務の違反と相当因果関係があるのは8万円と認めるのが相当である。


2023年2月27日月曜日

酔心開発事件・東京地判R4.2.25・労判1276-54

 未払残業代請求、不法行為損賠請求 → 未払一部認容、不法行為棄却

******************

原告は、故意に割増賃金の支払を怠っていた被告が消滅時効を援用するのは権利の濫用であると主張するが、消滅時効制度は故意に義務の履行を怠っていたものを時効の援用権者から排除する仕組みをとっておらず、また、本件全証拠を検討しても、被告が原告による権利行使を殊更に妨げたとも認められないことからすると、被告が本件割増賃金請求について消滅時効を援用することが権利の濫用に当たると認めることはできない。

また、原告は、当時、割増賃金の請求を委任していた前代理人らが催告を適時に行わなかったために消滅時効が完成してしまったのであり、それにもかかわらず被告が消滅時効を援用するのは、前代理人らの拙劣な対応の咎を原告に押し付けることによって不当に利得を得るものであって、公序良俗に反するなどとも主張するが、原告側の事情を理由に被告が時効の利益を受けることが制限される理由はない。この点に関する原告の主張は、独自の主張と言わざるを得ず、採用しない。

******************
したがって、原告の請求のうち割増賃金請求は、88万8788円及びうち88万3409円に対する平成31年4月20日から、うち5379円に対する同月28日から各支払済みまでそれぞれ賃確法6条1項所定の年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がない。

なお、原告は、弁護士費用相当額も割増賃金の未払という債務不履行と相当因果関係のある損害である旨を主張するが、割増賃金の場合にはあらかじめ契約及び労働基準法37条等の規定によって割増賃金算定の前提条件が定まっていることなどに照らすと、特段の事情が認められない本件においては、弁護士費用相当額をもって上記債務不履行と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

******************
被告は、原告ら従業員に対し、毎年、健康診断を案内し、受診をするよう呼び掛けていた旨を主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

被告が原告に対し定期健康診断を実施していたと認めることはできず、これは、労働安全衛生法66条1項に違反するが、本件全証拠を検討しても、原告がこれによって損害を被ったことを認めるに足りる証拠はない。

この点、原告は、前記1(4)のとおり、平成30年夏頃にレビー小体型認知症を発症したことが認められるが、同疾病の発症機序等は不明であり(甲32)、定期健康診断の不実施と原告の上記疾病の発病との間に相当因果関係があると認めることはできない。

******************
この点、被告は、原告の言動から就労意思を欠いているとみなさざるを得ず、本件労働契約を終了させることにしたが、解雇扱いにするのを気の毒に思い、温情で、退職扱いにする趣旨で本件離職票を作成、送付したものである旨を主張する。しかしながら、被告の主張によっても、原告が退職の意思表示をしていないことに変わりはなく、被告が本件離職票を作成、送付した意図が本件労働契約を終了させることにあった以上、解雇をしたものと認めるのが相当である。

そして、前記前提事実(4)、前記1の認定事実(4)から(9)まで及び弁論の全趣旨によれば、原告は、同年3月29日以降、就労することが困難な状態にあり、被告が本件労働契約を終了させると判断したことについて、相応の理由があったことは窺われる。しかしながら、他方で、証拠(甲19の1・2、44、証人I)によれば、原告及び原告妻は、被告に対し、体調不良を理由に欠勤せざるを得ない状態にあることを伝えつつも、被告を退職する意思はないことを明らかにしていたことが認められるから、被告としては、原告に対し、休職制度の利用や有給休暇取得等の手続をとることを案内すべきであったというべきであるが、本件全証拠を検討しても、被告がそのような案内や手続を十分に行ったとは認めることができない。そして、被告は、平成31年4月30日の面談において、原告が雇用継続を求める意思を示していたにもかかわらず、本件就業規則上定められた休職の措置もとらずに、本件離職票を受け取らせるという方法で解雇を通知したものであることに照らすと、上記解雇は違法であると言わざるを得ない

被告が原告に本件離職票を受け取らせることによって行った解雇は、違法と評価され得るものの、当時、原告のレビー小体型認知症の症状は既に相当程度進行しており、上記解雇以前から既に就労が困難な状態にあったことや、そのため、原告は解雇後、被告を退職することを受け入れていること(弁論の全趣旨)からすると、上記解雇によって経済的損害が発生したと認めることはできない。また、上記解雇は、本件離職票を受け取らせることによってされたものであり、必ずしも相当な方法によるものとはいえないものの、名誉感情等を不当に侵害するような違法な態様で行われたわけではなく、特別な精神的苦痛を被らせたものと認めることもできない

******************

2023年2月10日金曜日

遺族補償給付等不支給処分取消請求事件・東京地判R4.5.30・労経速2499-49

増悪の場合には特別な出来事が必要

******

原告は、①本件認定基準のみならず、その前提となった委託研究やその他の医学的知見を総合的に踏まえた上で、業務と自殺との相当因果関係の有無を判断すべきであること、②精神障害発病後に職場の心理的負荷を受けた場合に症状が増悪することは明らかであり、業務による心理的負荷はうつ病エピソードの症状を悪化させ、うつ病エピソードの症状の悪化は、自殺の危険性を増加させるものであるから、精神障害を発病しており平均的労働者の範疇に属さない労働者であったとしても、平均的労働者でも精神障害を発病するような強い心理的負荷を受けた場合には、その後の悪化について業務起因性が肯定されるべきであることを指摘した上で、健常者でも精神障害を発病するような心理的負荷の強度が「強」に該当する業務上の出来事が認められる場合であっても、「特別な出来事」がなければ、精神障害の悪化について一律に業務起因性を否定することは相当でない旨主張する。

しかし、既に発病した精神障害が悪化した場合には,心理的負荷が「強」に該当する業務上の出来事が認められたとしても、直ちにそれが精神障害の悪化の原因であると判断することは医学上困難であること(上記(3)②③)からすると,既に発病した精神障害の悪化についての業務起因性を肯定するためには「特別な出来事」を要するとする考え方が不合理であるとはいえない

また,専門検討会報告書は,法学及び医学の専門家による議論を経て専門検討会が取りまとめたものであり(前記前提事実(6)ア),議論の過程において、精神障害の悪化について業務起因性を肯定するためには「特別な出来事」の存在を要求せず、心理的負荷の強度が別表1の「強」に相当する程度の出来事があれば足りるとする意見があったことを理由として,専門検討会の最終的な結論に基づき策定された本件認定基準が不当であるということはできない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

******

療養補償給付不支給決定取消請求事件・福岡地判R4.3.18・労経速2499-9

業務外精神障害が相当程度安定していた後の増悪につき、必ずしも特別な出来事を求めない

******

[増悪には特別な出来事が必要とするのが基準] 

かかる判断基準は,ストレス―脆弱性理論の考え方と整合的であり,行政処分の迅速かつ画一的な処理という認定基準の趣旨からしても一定程度の合理性を有するものといえる。しかし,認定基準に裁判所の判断が拘束されるものではないことは上述のとおりであり,専門検討会報告書上も,精神障害で長期間にわたり通院を継続している者<ママ>の,症状がなく(寛解状態にあり),または安定していた状態で,通常の勤務を行っていた者の事案については,「発病後の悪化」の問題としてではなく,治ゆ(症状固定)後の新たな発病として判断すべきものが少なくないことや,発病時期の特定が難しい事案について,些細な言動の変化をとらえて発病していたと判断し,それを理由にその後の出来事を発病後のものと捉えることは適当でない場合があることに留意する必要があるとされており,そもそも当該事案が「発病後の悪化」であるかの特定自体に一定程度の困難が伴うことがうかがわれ,かかる事情如何によって判断基準が大きく異なるのは,業務を要因とする労働者の疾病等に対して公正な保護を実現するという労災保険法の趣旨(同法1条)に悖るというべきであるから,裁判所としては,上記の専門検討会報告書の考え方を踏まえた上で,当該労働者の具体的な病状の推移や具体的な出来事の内容等を総合考慮し,相当因果関係の認定を行えば足りるものと解される。

したがって,一旦業務外の要因によって精神障害を発病したと認められる労働者がその後精神障害を発病ないし悪化した事案の相当因果関係判断についても,後者の発病ないし悪化の時点で前者の発病が寛解に至っていたか否かで形式的に異なった基準を適用するのではなく,発病ないし悪化時点での当該労働者の具体的な病状の推移,個別具体的な出来事の内容等を総合考慮した上で,業務による心理的負荷が,平均的労働者を基準として,社会通念上客観的にみて,精神障害を発病させる程度に強度であるといえ,業務に内在する危険が現実化したと認められる場合には,当該発病ないし悪化についても業務との相当因果関係を認めて差し支えないものと解される。

******
上記(1)のとおり,本件悪化前には,心理的負荷を「強」とすべき出来事があったと認められ,業務による心理的負荷が,平均的労働者を基準として,社会通念上客観的にみて,精神障害を発病させる程度に強度であったというべきである。

また,上記2のとおり,本件悪化以前に原告が寛解に至っていたとまでは認められないものの,平成27年2月頃の時点で原告の病状は相当程度安定していたこと,原告には,同年2月下旬頃から,病状悪化の兆候が見られるところ(認定事実2(4)イ),この頃は丁度,Jが業務から離れることとなり原告の業務量が増大し始めた又は増大することが現実的に予想されるようになった時期であり,原告の症状が顕著に悪化したといえる同年4月2日は,まさに15日間の連続勤務の最終日であり,原告の病状は業務上の負担に応じて悪化に向かっていることからすると,本件悪化は,原告の病状が自然的に増悪したものではなく,まさに業務に内在する危険が現実化したものと認められる。

したがって,本件悪化については,業務との相当因果関係(業務起因性)が認められるというべきである。

2023年2月8日水曜日

日本振興事件・大阪地判R4.6.17・ジャーナル130-38

内定取消による不法行為損賠請求 → 内定成立を否定して棄却

******

 原告は業務課長Eが平成29年10月6日に原告に対して本件業務に係る労働条件を提示して労働契約締結の申入れを行い、原告がこれを承諾したことによって、原告と被告との間に労働契約が締結され、被告による採用内定が成立した旨主張

確かに、業務課長Eは原告に対し遅くとも同月中旬頃までに本件業務の大まかな業務内容及び労働条件を説明して本件業務を紹介し、その後も原告とのやり取りを続け、原告が博多行きの新幹線乗車券を購入することを許可し、かつ、原告が同年11月1日から業務を開始することができるように、被告の九州支店との間で調整を行っていた

しかし

① 契約書取交し事実を認めることができない

② 労働条件明示書面の交付事実を認めることができない

③ 原告を採用する旨をメールで通知したとの事実を認めることができない

かえって

④ 原告は内定成立主張日の2週間以上後に近隣の勤務地における求人情報について業務課長Eに対して質問 → 労働契約締結の確定的な意思表示の合致と矛盾

⑤ 原告は同日業務課長Eに対し「ちなみに朝倉市は何か決まりました?」とのメッセージを送信 → 本件業務の業務内容ないし労働条件等が確定的に定まっていなかったことが推認 → 労働契約締結の確定的な意思表示の合致に疑問

⑥ 採用内定通知の発出なし

加えて、

⑦ 原告は平成29年10月24日業務課長Eに対し、本件業務には「今のところ」行くつもりである旨述べ、「今の所は言うのは雇用条件や詳細睨まんと分からんって意味ですよ。」とのメッセージを送信 → 原告は本件業務に従事する気はあるものの労働条件が明示された書面を交付されるまでは実際に本件業務に従事することになるかどうかは分からないとの趣旨と解釈される

⑧ 業務課長Eは原告が本当に福岡県朝倉市まで来る意思があるのか否か確認しようとし10月26日原告に対し架電・メッセージのやり取りをしたが原告は着任予定日の前日である同月31日の日中に福岡入りすることを拒否し同月30日には業務課長Eに対し福岡での就労には応じられない旨述べるに至った

→ こうした経緯に鑑みれば、本件業務の着任予定日であった平成29年11月1日が目前に差し迫っていた同年10月下旬頃の時点においてもなお、原告が被告に対して同年11月1日から福岡県朝倉市において本件業務に従事する意思を確定的に明示していたとは認め難い

結論 以上のとおりであって、本件に係る事実関係を前提とすれば、原告と被告との間において本件業務に係る労働契約を締結する旨の確定的な意思表示の合致があり、被告による採用内定が成立していたとの事実を認めることはできず、これに反する原告の主張は採用できない。


フジアール事件・東京地判R4.5.13・ジャーナル130-40

元従業員に対する損賠請求(誹謗中傷) 一部認容

******

引用元メールを併せ読むと、原告P3総務部長が被告に対し入社以来の感想レポートの提出を求めたことにつき、被告の4月分及び5月分の通勤交通費並びに6月支給分の賞与の支払要求に応じることを優先するよう促すとともに、原告P3総務部長と他の従業員(P7)に対し、「若者の人生破壊し慣れてて、感覚狂ってるかもしれませんが、大人として恥ずかしい振る舞い気をつけないと、死ぬときに枕元誰もいなくなりますよ。」と反駁したものと認められる。

このような原告P3総務部長に対する人格攻撃は、被告が原告会社に対し賞与等の支払を請求している状況にあり、その支払を促す目的があったとしても、その表現が過度に侮蔑的であること、後続する同種行為とあいまって立て続けに侮辱を繰り返した行為の一環と認められること等を踏まえれば、社会通念上許される限度を超えて、原告P3総務部長を侮辱し名誉感情を害する内容と評価することができる。

******

前段は、被告が自らの退職手続に際して、原告P3総務部長に対し、周囲にいる他の従業員にも聴取可能な態様で、「そんなんだから奥さんと子供に逃げられるんだ。」という家庭内の問題に関する内容を含む批判的かつ侮蔑的発言に及んだ行為であり、後段は、原告P3総務部長に対し、同人の自宅に押し掛けて実力行使に出る可能性を示唆した行為である。<「こいつの家を知っているから、何かしてやろうと思えばいつでもできる。今まで何もなかったということは、これからもないかもしれないが、そういうことだ。」>

これらの発言は、被告の退職とは何ら関係のない原告P3総務部長の家庭内の問題を引合いに出して原告P3総務部長を侮辱しその名誉感情を侵害するとともに、自宅の平穏を害されるかもしれないという恐怖感を生じさせる行為であり、被告と原告会社との間に未払賃金等の問題が存在していたことを踏まえても原告P3総務部長が甘受すべき理由は何ら認められず、社会通念上許される限度を超えた行為というほかない。のみならず、前段の発言を耳にした他の従業員らに対しては、原告P3総務部長がその人間性ゆえに別居を余儀なくされたという、社会的評価の低下を招く事実を摘示する行為ということができる。

******

被告が労働基準監督署に対し、原告会社の「未払い残業代請求」、「長時間労働の組織的隠蔽」、「求人票関係・面接時の意図的に誤認を与える内容と話」の3点に関して陳情したこと、これを受けて原告会社にはいずれ労働基準監督署からの指導が入ると思われること等を、「なんでこんな頭悪いのか不思議です。」、「スペック、コンプライアンス、人としてのモラル、総務の全てが低いが故、フジにとって最も都合の悪い結果を誘因しました。」、「同じミスを意図的に繰り返し、反省もなく、人の人生設計を容易に破壊するP6 P7または一部役員は相当に常軌を逸しています。」、「P6 P7やその上は罪を償ってほしいです」、「P6に1200万円、P7に700万円以上も年収払う価値はありません。」、(原告P3総務部長は)「普通の会社の総務ならクビになるレベルです。」等の侮蔑的表現を交えて原告P3総務部長の人格を否定し、宛先である原告P3総務部長及びP5のみならず、その他の従業員25名にもcc送信して拡散した行為と認めることができる。

これにより、原告会社は総務部門に頭の悪い不適格な人物を配置して、残業代不払いや長時間労働の組織的隠蔽を行い、求人に際し誤認を与えて従業員の人生設計を破壊する会社であるとの印象を、cc送信先や伝播可能性のある不特定多数の第三者に与え、その社会的信用を低下させる行為ということができる。

また、原告P3総務部長に対しては、1200万円という年収額を引合いに出してその価値がない、普通の会社なら解雇されるレベルであるなどと、cc送信先の目にも触れる形で侮辱する点において、同人の名誉感情を社会通念上許される限度を超えて侵害するとともに、cc送信先や伝播可能性のある不特定多数の第三者において、同人が総務部門の責任者として適格性を欠く人物であるという社会的評価の低下をもたらすことが認められる。

******

被告が労働基準監督署から、原告会社が被告に対する未払い残業代と賞与の過払分を相殺する意向を示したとの状況説明を受けたとして、これにつき「法学部1年目にも嘘だと判断つくような頭の悪いセリフ」と評したうえで、「P3 P7 P2氏は、炎上したいんですかね。。。なんて頭の悪い総務なんですかね。。。。」との所感を述べるものである。

かかる表現は、誤った法的見解を批判する目的であるとしても、「頭の悪い」、「炎上したいんですかね」という侮蔑的な表現を重ねて、cc送信先の目にも触れる形で原告P2常務取締役及び同P3の人格を攻撃するものであり、前後に繰り返された同種行為とあいまって立て続けに侮辱を繰り返した行為の一環であること等を踏まえれば、社会通念上許される限度を超えて同人らを侮辱して名誉感情を侵害し、その社会的評価を低下させる行為ということができる。

また、原告会社に対しても、法的知識の乏しい総務部門を置く原告会社が給与支払につき労働基準法に反する処理をしているとの印象をcc送信先に与えることで、伝播可能性のある不特定多数の第三者を含め原告会社の社会的信用を低下させる行為と認めるのが相当である。

******

原告会社の総務部に宛てて、フジテレビが被告の入構記録を労働基準監督署に提出する意向である旨を伝えるとともに、「未払いを支払うように、促し、柔らかい手段から順番に取っていますが、いまだに頑なな態度をとるのは、アホとしか言いようがありません。」、「最悪、週刊誌に各種、やりとりと音声データ売りますか?総務省の知人経由で、通信関係の管轄行政に情報出しますか?取引先にすべてのやりとり流しますか?」と、被告の未払賃金請求に早急に応じなければ、週刊誌や原告会社の取引先に交渉過程の音声データ等の情報を流出させる旨告知するものである。

被告が原告会社に対し未払賃金の支払を要求している状況を踏まえても、上記のように週刊誌や賃金未払と無関係の取引先に、音声データを含む社内の情報を流出させることを示唆してその支払を促すことは、社会通念上許される限度を超える違法な行為と評価するのが相当である。

******
原告会社が依然として被告の支払要求に応じないことにつき、総務部門を担当する原告P3総務部長及びP5に対し、「話を入れる対象を広げていきたいと思います。」として、厚生労働省と東京労働局に被告に対する未払賃金の問題につき通報する旨告知するとともに、それでも支払に応じない場合には「スキャンダラスな情報」を港区及び週刊誌に流出させることを予告するものである。

これも上記キと同様、被告と原告会社の間に未払賃金の問題が存在することを踏まえても、「スキャンダラスな情報」という原告会社にとって不名誉なものと推測される内容不明の情報を流出させることを示唆する行為は、社会通念上許される限度を超える違法な行為と評価するのが相当である。

******

原告P3総務部長に対し、被告が裁判に持ち込めば地位確認や100万円単位の賃金請求が認容されるとして、被告の「言い値」での賃金支払を要求するとともに、「フジテレビから国民を守る党作られたいですか?」として、なお支払に応じない場合には、広く国民に向けてフジテレビを批判する活動に打って出ることを予告するものである。

被告は、原告会社を期間満了により退職したに過ぎず、上記のような地位確認や「100万円単位の賃金請求」が認められる可能性は低いことに加え、現実に特定のテレビ放送事業者への批判を展開する政治団体が国会に議席を得た事象が存在すること等を踏まえれば、上記行為は不当な金銭要求として違法との評価を免れない。

******
原告P3総務部長及びP5に対し、「このままなら、あらゆる取引先の総務や現場の職の方々に、色々な書類送って、電話して、労働実態の記録を取ります。」、「味の素や、受賞パーティー先、展示会関連」、「番組関係であれば、書類や記録をもって、プロダクションにも問合せします。」、「未払いも高々20万円ぐらいにしかなりませんが、強硬な態度ならそのまま、弁護士に依頼します。判例は公開されるので、社長名も世に出ます。」として、なお支払に応じない場合には自ら関係先に直接証拠資料の提供を求め、弁護士に依頼して裁判による解決を図ることを予告するものである。

以上の内容は、被告の未払賃金請求につき進展がない状況が続いた場合の対応や予想される結果を予告するものであるが、原告会社にとっては迷惑であっても、被告の権利行使へ向けた活動として許容される余地がないとは言い切れず、直ちに違法とまでは評価し難い
******
原告P3総務部長に対し、同人が「マセラッティ程度のイタ車に目を輝かせる成金志向」で、「風俗ばっか行って、あまつさえ部下のP11さんの入社祝いに風俗連れていき、嫁と子どもに愛想つかされて離婚寸前の」人物であり、「フジアールの総務は銀行の一般職の女の子たちより、常識ありませんよ。」として、その趣味や性的指向、家庭内の問題といった私生活上の情報を引合いに出しつつ人格を攻撃し、総務担当者として必要な常識を欠くと述べるものである。

被告と原告会社の間に未払賃金等の問題が存在することを踏まえても、かかる口汚い誹謗中傷を甘受すべき理由は何ら存在しないから、原告P3総務部長を社会通念上許される限度を超えて侮辱し、その名誉感情を侵害する行為と認めることができる。
******
原告P3総務部長に対し、「良い年こいたおじさんが、呼び出されてるでしょ。」、「普通ない、大企業グループの子会社、総務部長が呼び出されるとか。学校の先生に呼び出される子ども。未だに大人になりきれない、嫁と子に逃げられるのはそういうところ。」、「悪いことしたら、謝る。それが当たり前。P6さん、P2さん、P7さん、大人になろ。子供のまま大人になってて恥ずかしいよ。」、「この文面、そのまま色んなグループ会社に送っても良いよ。」、「早慶マーチでこんなレベル低い人なんて、見たことないよ」と、原告P2常務取締役及び同P3の学歴や原告P3総務部長の家庭内の問題を引合いに出しつつ、同原告らが子どものように未熟でレベルの低い者である旨、侮蔑的言辞を重ねてその人格を攻撃するものである。

これは、原告P2常務取締役及び同P3に対し、過度に侮辱的な表現により、未払賃金等の問題と何ら関係のない同原告らの学歴や原告P3総務部長の家庭内の問題を持ち出しつつ、社会通念上許される限度を超えて侮辱し、その名誉感情を侵害するとともに、cc送信先や伝播可能性のある第三者における同原告らの社会的評価を低下させる行為と認めるのが相当である。

また、原告会社に対しても、その社会的信用を低下させる行為であるとともに、原告の要求に応じなければ、今後同様の文面を関係会社に拡散することを予告するものであり、未払賃金等の問題の解決を促す目的があると仮定しても、社会通念上許される限度を超える違法な行為と評価するのが相当である。
******
原告P3総務部長及びP5を宛先とし、さらには原告会社の取引先等の社会社を含む関係者合計270名をcc送信先として、「爆弾投下」と称し、一般人には理解し難い趣旨不明の言説を織り交ぜつつ、被告の退職に際しての原告会社関係者の対応への不満、被告からの賃金支払要求に6か月経過してなお応じないことへの批判、故意により誤解を与える求人をして被告に土建屋のような業務をさせたことが違法であり刑罰に値すること等を述べたうえで、原告会社の総務部門には「世間から大きく常識がずれている、また反社会的な思考の人間が大変多い」、「僕のような、武家華族、職業軍人の家系の人間に対して、部落のエリア、部落の名字の人間が数多くいる、フジアール。」、「部落出身者が多い企業で、出身地の情報教えるとか、キチガイ差別主義者ですよ。」、「P2、P6、P7氏、3名が、業界も、道義も、法律も、仕事も分からないで座って無駄金取ってるこんな状況が業界から嫌われる最大要因でしょ。」、「世の中、早稲田出てここまで頭おかしい奴見たことありませんから。能力低すぎ。」、「P12さん事件の直後で、こういった労務雇用関係の問題、コンフリクトを発生させるフジアールの経営、総務はキチガイとしかいえません。」等と、原告P2常務取締役及び同P3をはじめとする原告会社の経営者及び総務部門担当者が反社会的で学歴に見合わない無能な集団であるとしたうえで、原告会社には高貴な出自の被告と釣り合わない被差別部落出身者が多数在籍し、社内で被差別部落出身者の出自に関する情報が流布されているとの事実を摘示して原告会社を非難するものである。

原告会社との関係では、被告の上記行為は、取引先等の関係者を含め270名にcc送信され、伝播可能性の第三者を含む相当な広範囲にわたって、その社会的信用を著しく失墜させるものである。なお、被差別部落出身者に対する差別が未だに根強く残存する現代社会の実情を踏まえれば、「部落のエリア、部落の名字の人間」が被告会社内に多数存在する旨の事実摘示が原告会社の社会的信用を低下させることは明らかである。

また、「日本の全メディアや2ちゃんねる、Yahoo!、新華社、スプートニク、ロイター、フォーブス、WSJ、あらゆるところに出してもかまいません。」として、なおも被告の要求に応じない場合には国内外のあらゆる報道機関に原告会社に関する情報を暴露することを予告するものであり、上記シ同様、社会通念上許される限度を超える違法な行為というべきである。

さらに、原告P2常務取締役及び同P3に対しては、学歴等を引合いに出しつつ、「頭おかしい」、「キチガイ」と、これに先立つ同種行為と同様の誹謗中傷を執拗に繰り返すものであり、社会通念上許される限度を超えて侮辱し、その名誉感情を侵害するとともに、取引先等の関係者を含むcc先や、伝播可能性のある第三者における社会的評価を低下させる行為ということができる。

******総括対個人

原告P2常務取締役及び同P3に対し、侮蔑的言辞を重ねて人格攻撃や誹謗中傷を繰り返した行為(原告P2常務取締役につき上記(1)カ、シ、ス、原告P3総務部長につき同ウ~カ、サ~ス)は、被告と原告会社との間に未払賃金等の問題が存在することを踏まえても、社会通念上許される限度を超えて同人らの名誉感情を侵害する違法な行為と評価するのが相当である。また、原告P3総務部長に対しては、自宅に押し掛けて生活の平穏を妨害する可能性を示唆して恐怖感を与えた点(上記(1)エ)においても違法な行為との評価を免れない。

さらに、上記のように侮蔑的な人格攻撃等を、他の従業員や、取引先を含む原告会社の多数の関係先に対して拡散することにより、原告P2常務取締役及び同P3の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損したことも明らかである。

以上につき、特に原告P3総務部長に対する関係では、行為の頻度や執拗さに加え、性的志向や家庭内の問題というプライバシーを屈辱的な態様で暴露する点において、その違法性は高い

******総括対法人

被告の行為(上記(1)オ、カ、シ、ス)により、原告会社は社会的信用を毀損されたことは明らかである。特に、上記(1)スにおいて、原告会社の従業員にとどまらず、取引先を含む関係者270名に対しcc送信して拡散した点、被告自身の差別意識を露骨に強調する文脈で原告会社に被差別部落出身者が多数在籍していることを摘示し、あるいは原告会社内で部落差別を助長する行為が行われているかのような印象を与えた点は、被告と原告会社との間に未払賃金等に関する問題が存在したこと等を踏まえても、何ら正当化する余地はなく、原告会社が厳しい社会的非難を受ける結果にもつながりかねない、極めて違法性の高い行為と評価するよりほかない。

さらに、被告が原告会社に対し、自身の要求に応じなかった場合の措置として、権利行使との関連性が明らかでない社内情報を流出させることを示唆するなどした行為(上記(1)キ~ケ、シ、ス)は、原告会社との間に未払賃金等の問題が存在したことを前提にしても、社会通念上許される限度を超えた違法行為との評価を免れない。

******個人損害
上記2(2)アに指摘した各点に加え、被告のメールに関して宛先やcc送信先以外の第三者からの問合せが相次ぐ(原告P3総務部長本人)など、情報の伝播が現に生じていること、原告P2常務取締役及び同P3の原告会社役員又は幹部職員としての社会的地位、その他一切の事情(なお、原告P2常務取締役及び同P3が懲戒処分等を受けたこと(弁論の全趣旨)は、被害者である同原告らが被告の行為につき法的責任を問われる合理的理由がないことに照らすと、これを相当因果関係のある結果と位置付けて慰謝料の考慮要素とすることは相当でない。)を総合勘案すると、被告の違法な行為による原告P2常務取締役及び同P3に対する名誉毀損及び名誉感情の侵害、原告P3総務部長に対する平穏に生活する権利の侵害に対する慰謝料として、原告P2常務取締役につき10万円<+弁護士費用1万円>、原告P3総務部長につき30万円<+弁護士費用3万円>を認めるのが相当である。

******法人損害

①警備費用

原告会社は令和元年12月9日から同月13日までの5日間本社入口前に警備員1名を配置し費用として17万8200円を支出

上記認定に係る被告の言動には、原告会社に押し掛けて実力行使に及ぶことを想起させる文言等は含まれていないものの、原告会社への攻撃的言動を短期間に立て続けに繰り返した末に、本件メール〔12〕の送信にあたっては、通常人には到底理解し難い独特の言説が大半を占める長文による激しい誹謗中傷を、取引先を含む関係者270名という広範囲に拡散するに及んでおり、従前にも増して被告の攻撃性が先鋭化したと評価し得る。そして、被告が退職後もなお入構証の返還に応じていなかった状況にも鑑みると、警察署への相談結果も踏まえ上記期間中に本社入口前に警備員1名を配置したことは、被告の違法な行為との間に相当因果関係があるというべきであり、上記警備費用は本来必要がなかった支出を強いられたものとして、損害と認めるのが相当である。

②人件費

原告会社は従業員等が本件への対応に要した時間に賃金単価を乗じた金額(合計82万1000円)につき、「本来必要がなかった支出」であると主張する。

しかし

原告P2常務取締役の報酬は月割での支払、従業員の賃金は月給制であること(弁論の全趣旨)からすれば、本件への対応の有無を問わず所定の月額賃金等は支払われたはずである。

確かに、本件への対応を要した結果、多忙になったことは推認されるが、そうであるからといって、当該月額賃金等の一部が「本来必要がなかった支出」であるとは認め難いし、残業代等により、月額賃金等を超える支出が生じたことを認めるに足りる証拠もない

したがって、従業員等の人件費に関する原告会社の主張は理由がない。

③無形損害

上記2(2)イに指摘した各点のほか、原告会社のフジテレビ関連会社としての社会的地位、情報の伝播が現に生じていること(上記(1))、その他一切の事情を総合勘案すると,被告の違法な行為によって原告会社に生じた非財産的損害(無形損害)として50万円を認めるのが相当である。

<+弁護士費用7万円>

******
被告は、上記第2の2(3)【被告の主張】のとおり、本件行為は原告らの違法行為を阻止すべく正義感と信念に基づいて行った行動であり、違法性が阻却される旨主張する。

しかし、被告の一連の行為において摘示された事実や、被告の言説の前提となる事実についての真実性又は真実と信ずるにつき相当の理由があることの証明はない。また、悪口雑言の限りを尽くして原告P3総務部長ら原告会社の総務担当者の人格を執拗に攻撃し、通常人には到底理解し難い独特の言説を自己の感情のままに延々と展開するなど、その表現全般を見れば、およそ公益目的による行為とは認め難く、意見や論評としても許容される範囲を逸脱していることは明らかである。その他、本件の全事情に照らしても、被告の行為につき違法性阻却事由となり得る事情は何ら認められない
******

2023年2月7日火曜日

関西新幹線サービック事件・大阪地判R4.6.23・ジャーナル130-36

出勤指示が違法であるとする不法行為損賠請求 棄却

******

本件出勤指示1は、被告会社が、原告P1に対し、「5組」「1組」といった、一定の内容の新幹線車両の清掃業務を行うことを命ずるものであり、本件出勤指示2は、原告P2に対し、「5組」「検C」といった同様の清掃又は修繕業務を命じるものであったことが認められる(認定事実(6))。被告会社の就業規則によれば、従業員の業務内容(勤務)は、被告会社が指定するものとされているから(甲1(24条))、被告会社には、原告P1に対し、労働契約上、業務の具体的内容を決定する人事上の裁量権を有するものと解される(最高裁判所第二小法廷昭和61年7月14日判決・集民148号281頁参照)

すると、被告会社が従業員に対して一定の業務への従事を指示することが、他の従業員との間で不利益な取扱いをするものとして、不法行為上、違法性を有するのは、被告会社が一定の業務への従事を指示することによって前記裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと評価されることを要するものと解するのが相当であり、この判断に当たっては、〔1〕当該業務指示に係る業務上の必要性、〔2〕当該業務に従事することによって当該従業員に生ずる不利益の程度、〔3〕従業員間における業務内容に関する負担又の相違の有無、程度及び合理性といった観点から検討するのが相当である。

******

本件出勤指示1及び2は、本来は不要な業務をあえて原告らに割り当てたのではなく、被告会社の業務上の必要に基づいて発せられたものということができる。

本件出勤指示1及び2は、本件事業所への出勤を命じるものであり、電車等による通勤を要するものであるが、これは、本件事業所に勤務する従業員に対して一定の業務を命じた場合、等しく必要となる行為であって、新型コロナウイルス感染症が拡大していた令和2年4月から6月であったことを考慮しても、これを特別な負荷と評価することまではできない

******

被告会社が人事権を行使して各従業員に対して業務の具体的内容を割り当てるに当たっては、各従業員の労働時間内における勤務の成果や態度のみを考慮し得るのではなく、勤務時間外における言動や家族事情その他の幅広い事情を考慮することができると解される。前記の課題の内容に照らすと、従業員は、これに取り組むことにより、資質の向上や知識の定着を期待するできるものであって、被告会社が、自宅待機を命じる者の人数が限られる場合において、自宅待機中に、課題を作成して自ら資質の向上や知識の定着といった能力の開発を行うことが期待できる者に対し、優先的にこれを割り当てることとしたことには、一定の合理的理由があったということができる。

原告らが、労働契約上、自宅待機を命じられるべき権利を有していたものではないこと、課題提出者にも自宅待機が命じられることがあったこと及び課題の分量や所要時間が乏しいものであったこと等を考慮すると、本件運用が従業員間に一定の業務上の負担の相違を生じさせるものであったとしても、その相違の程度が著しいということはいえず、従業員間の公平を害するものということもできない

******

確かに、本件出勤指示1及び2がされた令和2年6月は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が問題となっていた時期であり、本件事業所への出勤は、一定の感染の危険がある行為であったといえる。

しかし、仮に原告らに対して自宅待機を命じれば、原告らが行うべき業務を処理するため、別の従業員が出勤することを要し、感染の危険にさらされることとなる関係にある。また、電車による通勤は、社会通念上、新型コロナウイルス感染症への感染の危険性が特に高い行為であるとは認められないところ、前記(1)で検討したところによれば、本件出勤指示1及び2がされた時期、本件事業所では1日当たり100人程度の出勤を要する業務が発生し、本件出勤指示1及び2を受けて出勤した原告らも、本件事業所において実際に業務に従事したことが認められるのであって、被告会社が、原告らに対し、不要な出勤を求めたということはできない。


2023年2月6日月曜日

MARUWA事件・名古屋地判R4.8.26・ジャーナル130-30

民事労災損賠請求(解離性大動脈瘤を原因とする急性心筋梗塞により死亡) 認容 

******

出張のうち東京やβのMQ社への出張のように長時間の移動がある場合には、移動時間も業務によって拘束されているというべきであるから,移動を開始した時刻を始業時刻、移動が終了した時刻を終業時刻とすることとするが、移動は公共交通機関を利用して行われており、移動中に何らかの業務に従事しなければならなかったという事情を認めることはできず、移動中は時間を自由に利用することが保障されていたといえるから、移動時間は労働時間に含めず、休憩時間とすることとする。

******

亡P5の発症前の時間外労働時間は、発症前1か月が69時間59分で、発症前2か月間から6か月間の1か月当たりの時間外労働時間も最大で発症前2か月間の75時間32分であり、認定基準の〔2〕の水準には至らないが、移動時間を労働時間に計上していない出張を毎月数日間連続で繰り返しており、その期間も少なくとも発症前1年間は続いて疲労を蓄積させていたことからすれば、亡P5の死亡と業務との間に因果関係を認めるのが相当である。

この点、被告は、亡P5が健康診断において軽度の血液脂質異常と高血圧を指摘されていること、亡P5に喫煙の習慣があったことを主張するが、血液脂質異常も高血圧も軽度のものであり、喫煙の習慣を含めて、これらが亡P5の解離性大動脈瘤の発症の要因となったと認めるに足りる証拠はないから、前記認定は左右されない。

******

亡P5は、総務室長として総務室が担当する総務業務を行っており、MQ社の経理業務の応援も被告の指示命令によって行っていたと認めることができる。また、認定事実(1)によれば、亡P5は、管理本部の他の部署と一緒に本社1階フロアで勤務し、被告代表取締役の席とも近接していたのであるから、被告代表取締役及び亡P5の上司に当たる管理本部長らは、亡P5が長時間勤務を行い、毎月数日間連続して出張を繰り返していたことを認識していたと認めることができる。

******

被告は、〔1〕亡P5は、総務室長として総務室を統括する立場にあったから、自らを含めた総務室に所属する者の勤務状況などを被告代表取締役に申告するなどして業務軽減のための措置をとる職責があり、自らの業務が過重になっていたのであれば、部下に対し業務を任せることも可能であった、〔2〕亡P5は、健康診断において軽度の血液脂質異常を指摘され精密検査を受けるように、平成25年の健康診断では胃腫瘍が疑われ胃内視鏡検査を受けるようにそれぞれ指導がなされ、死亡する47日前には胸を押さえるしぐさをして兄から病院に行くように言われていたにもかかわらず、一度も病院で検査を受けることはなく、喫煙、運動、食生活等の生活習慣の見直しもしなかったことから、亡P5に過失があったと主張する。

 しかしながら、使用者は、雇用する労働者に対し、従事する業務を定めることができ、労働者は、使用者から定められた業務を軽減するように求めることが容易ではないといえるから、労働者が自ら関わる業務について業務が過重になっていた場合に申告することが業務上義務付けられていたとか、使用者に対し、自らが関わる業務量について誤った認識を与えたといった事情がない限り、使用者に対し業務軽減を求めなかったことについて、労働者に過失があったと認めるのは相当とはいえない。本件において、総務室長であった亡P5は、総務室の勤務状況を把握すべき立場にあったといえるが、使用者や上司である被告代表取締役や管理本部長に対し、過重業務になっていた場合に業務の軽減を求めることを業務上義務付けられていたと認めることはできない。また、部下を含む他の従業員もそれぞれ担当業務があることから、無条件に部下に仕事を割り振ることはできないのであり、本件において、亡P5が部下に対し自らの業務を任せ、業務を軽減させることができたことを認めるに足りる証拠はないから、亡P5が部下に対し業務を任せなかったからといって、亡P5に過失があったということはできない

******
証拠(甲8・5、55頁)及び弁論の全趣旨によれば、亡P5は、死亡時、原告P1及び原告P3と同居し生計を同一にして、一家の支柱として経済的に家族を支えていたと認められる。被告は、亡P5に対し、長時間勤務に加え、長期間にわたる連続した出張を繰り返させ、過重労働をさせていたにもかかわらず、本件においては、閑職にあって、誰からも注意や指示をされることなく自由きままな社内生活を送っていたなど、亡P5の名誉を害し、原告ら遺族の心情を逆撫でする主張を繰り返している
 以上のような事情を踏まえると、慰謝料は3000万円とするのが相当である。
******

テレビ宮崎事件・福岡高判R3.11.10・金商1657-44

株主総会決議を受け取締役会が行った退職慰労金算定による損賠請求(会社、代取)

一審認容+控訴棄却

******

控訴人Bは、複数の専門家により構成された本件調査委員会の最終報告書の内容を信頼したにすぎないから、取締役としての善管注意義務違反はなく、本件株主総会決議の委任の範囲または本件内規の解釈適用を誤った過失があるとはいえないと主張するが、これらの主張に理由がないことは、原判決第5の4及び5のとおりである。

[被告cは,被告会社の取締役会の議長として,原告の退任慰労金の支給についての審議を行い,本件取締役会決議を成立させている(前記第2の2(5),第4の4)が,本件取締役会決議は,本件内規の解釈適用を誤り,CSR費用等の支出についてまで特別減額をしたものであり,本件株主総会決議の委任の範囲を誤り,与えられた裁量を逸脱ないし濫用したものである(前記3)。

 本件取締役会決議は,原告と利害関係のない弁護士等で構成された本件調査委員会が相応の期間を費やして原告からの聴取りを含む調査を実施し,取りまとめた詳細な最終報告書を踏まえたものである(前記第2の2(4),(5),第4の3,4)が,この最終報告書が本件内規の解釈適用を誤ったものでないかについては,被告会社の取締役会が独自に判断すべきものである

 そうすると,被告cは,被告会社の職務を執行するに当たり,故意ないし重大な過失があったとまでは認められないものの,本件株主総会決議の委任の範囲又は本件内規の解釈適用を誤った過失があったと認められる。]

******

<認定>本件調査委員会も被告会社の取締役会も被告cも本件株主総会決議を前提として原告の退任慰労金の額を算定ないし決定するに際し,本件内規を解釈適用していたことは明らか → それでも過失は否定されない(重過失は否定)

******

2023年2月3日金曜日

F・TEN事件・大阪地判R4.8.29・ジャーナル130-27

本社営業部長の管理監督者該当性 肯定

瓦・屋根材・壁材販売卸及び施工等を業とする株式会社

******

職務内容、権限及び責任の重要性

・原告は、被告において上から3番目の地位にあった

・原告は、主要部門であるルート営業部の売上目標を立てている

・韓国での重役会議兼バカンス(代表者、専務、後継者、原告)に行く

・取引先600社に発行する市場・メーカー動向レポートの最終確認をする

・部門長会議のアジェンダ作成、司会進行・開会挨拶(他の挨拶・報告担当は代表者、専務のみ)→正に経営者と一体的な立場

・原告は、営業の根幹である商品の値段決定等に関する権限を有しており、さらに、被告の売上げの約40%に係る極めて重要な取引相手との取引について価格交渉を行っている。

・原告は、取引会社の担当者が参加するゴルフコンペを開催したり、取引相手や業界団体が開催する高額の飲食を伴う各種会合に参加したり、高額な旅行に参加する予定となっていたところ、以前は被告代表者が参加することもあったが最近は原告が参加していたというのであって、対外的に原告が被告を代表する立場にある人物として扱われていたことをうかがわせる

・原告は、被告従業員提出の退職届という重要な書類を受け取りそれをひとまず預かるなどの判断をしている

・原告は、従業員から提出された禀議書等の各種書類について決裁権限を有していたこと、従業員から交通事故や出社に関する報告を受けていたこと,賞与引当金に関して監査役とやり取りをし、賞与引当金の範囲内で部下の具体的な賞与額を決定していたこと、自らに係る仮払金処理を支出当日に申請・処理していること → 労務管理や経費処理について、一定の権限を有していたことがうかがわれる

******

労働時間裁量

・原告は、タイムカードについて、出勤時にはおおむね打刻しているものの、退勤時には打刻していない

・平日に開催されたゴルフコンペに参加している

・ETC履歴を見ると、原告が就業規則において営業職の終業時刻として規定されている午後5時より早い時刻に自宅近くのICを通過している(調査嘱託の結果)

・午後5時より早く退社する場合であっても、理由を聞かれていない

→ 労働時間について一定の裁量を有していたといえる

******

待遇

・原告、P10取締役、P3の月額給与・報酬のうち原告が最も高い(約2万円程度ではあるが、取締役より高い)

・年収で見ても600万円から670万円という金額

・原告の下位に配置されているP3と比較すると、平成28年及び平成30年では100万円程度原告の方が多い(差が小さい平成29年は本社ルート営業部の業績が悪い時期であることが影響)

・また原告は運転代行を利用することが認められていた

→ 年収で比較した場合P10取締役の方が原告より高額になることなどを考慮しても管理監督者としてふさわしい待遇であったと評価することができる。

原告は、賃金センサスの「全男性」、「50歳から54歳」の年収額と比較すると、原告の年収が平均賃金を下回るから、管理監督者として十分な待遇ではない旨主張する。しかし、賃金の額は企業の規模によって異なるものであって、大企業と中小企業との間に賃金格差があることに照らせば、賃金センサスの「全男性」の年収額をもって、原告の待遇が管理監督者としてふさわしくないものの証左であるということはできない。

******

以上を総合考慮すれば、原告は、管理監督者の地位にあったと認めることができる。

******