未払残業代請求、不法行為損賠請求 → 未払一部認容、不法行為棄却
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原告は、故意に割増賃金の支払を怠っていた被告が消滅時効を援用するのは権利の濫用であると主張するが、消滅時効制度は故意に義務の履行を怠っていたものを時効の援用権者から排除する仕組みをとっておらず、また、本件全証拠を検討しても、被告が原告による権利行使を殊更に妨げたとも認められないことからすると、被告が本件割増賃金請求について消滅時効を援用することが権利の濫用に当たると認めることはできない。
また、原告は、当時、割増賃金の請求を委任していた前代理人らが催告を適時に行わなかったために消滅時効が完成してしまったのであり、それにもかかわらず被告が消滅時効を援用するのは、前代理人らの拙劣な対応の咎を原告に押し付けることによって不当に利得を得るものであって、公序良俗に反するなどとも主張するが、原告側の事情を理由に被告が時効の利益を受けることが制限される理由はない。この点に関する原告の主張は、独自の主張と言わざるを得ず、採用しない。
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したがって、原告の請求のうち割増賃金請求は、88万8788円及びうち88万3409円に対する平成31年4月20日から、うち5379円に対する同月28日から各支払済みまでそれぞれ賃確法6条1項所定の年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がない。
なお、原告は、弁護士費用相当額も割増賃金の未払という債務不履行と相当因果関係のある損害である旨を主張するが、割増賃金の場合にはあらかじめ契約及び労働基準法37条等の規定によって割増賃金算定の前提条件が定まっていることなどに照らすと、特段の事情が認められない本件においては、弁護士費用相当額をもって上記債務不履行と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
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被告は、原告ら従業員に対し、毎年、健康診断を案内し、受診をするよう呼び掛けていた旨を主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
被告が原告に対し定期健康診断を実施していたと認めることはできず、これは、労働安全衛生法66条1項に違反するが、本件全証拠を検討しても、原告がこれによって損害を被ったことを認めるに足りる証拠はない。
この点、原告は、前記1(4)のとおり、平成30年夏頃にレビー小体型認知症を発症したことが認められるが、同疾病の発症機序等は不明であり(甲32)、定期健康診断の不実施と原告の上記疾病の発病との間に相当因果関係があると認めることはできない。
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この点、被告は、原告の言動から就労意思を欠いているとみなさざるを得ず、本件労働契約を終了させることにしたが、解雇扱いにするのを気の毒に思い、温情で、退職扱いにする趣旨で本件離職票を作成、送付したものである旨を主張する。しかしながら、被告の主張によっても、原告が退職の意思表示をしていないことに変わりはなく、被告が本件離職票を作成、送付した意図が本件労働契約を終了させることにあった以上、解雇をしたものと認めるのが相当である。
そして、前記前提事実(4)、前記1の認定事実(4)から(9)まで及び弁論の全趣旨によれば、原告は、同年3月29日以降、就労することが困難な状態にあり、被告が本件労働契約を終了させると判断したことについて、相応の理由があったことは窺われる。しかしながら、他方で、証拠(甲19の1・2、44、証人I)によれば、原告及び原告妻は、被告に対し、体調不良を理由に欠勤せざるを得ない状態にあることを伝えつつも、被告を退職する意思はないことを明らかにしていたことが認められるから、被告としては、原告に対し、休職制度の利用や有給休暇取得等の手続をとることを案内すべきであったというべきであるが、本件全証拠を検討しても、被告がそのような案内や手続を十分に行ったとは認めることができない。そして、被告は、平成31年4月30日の面談において、原告が雇用継続を求める意思を示していたにもかかわらず、本件就業規則上定められた休職の措置もとらずに、本件離職票を受け取らせるという方法で解雇を通知したものであることに照らすと、上記解雇は違法であると言わざるを得ない。
被告が原告に本件離職票を受け取らせることによって行った解雇は、違法と評価され得るものの、当時、原告のレビー小体型認知症の症状は既に相当程度進行しており、上記解雇以前から既に就労が困難な状態にあったことや、そのため、原告は解雇後、被告を退職することを受け入れていること(弁論の全趣旨)からすると、上記解雇によって経済的損害が発生したと認めることはできない。また、上記解雇は、本件離職票を受け取らせることによってされたものであり、必ずしも相当な方法によるものとはいえないものの、名誉感情等を不当に侵害するような違法な態様で行われたわけではなく、特別な精神的苦痛を被らせたものと認めることもできない。
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