出勤指示が違法であるとする不法行為損賠請求 棄却
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本件出勤指示1は、被告会社が、原告P1に対し、「5組」「1組」といった、一定の内容の新幹線車両の清掃業務を行うことを命ずるものであり、本件出勤指示2は、原告P2に対し、「5組」「検C」といった同様の清掃又は修繕業務を命じるものであったことが認められる(認定事実(6))。被告会社の就業規則によれば、従業員の業務内容(勤務)は、被告会社が指定するものとされているから(甲1(24条))、被告会社には、原告P1に対し、労働契約上、業務の具体的内容を決定する人事上の裁量権を有するものと解される(最高裁判所第二小法廷昭和61年7月14日判決・集民148号281頁参照)。
すると、被告会社が従業員に対して一定の業務への従事を指示することが、他の従業員との間で不利益な取扱いをするものとして、不法行為上、違法性を有するのは、被告会社が一定の業務への従事を指示することによって前記裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと評価されることを要するものと解するのが相当であり、この判断に当たっては、〔1〕当該業務指示に係る業務上の必要性、〔2〕当該業務に従事することによって当該従業員に生ずる不利益の程度、〔3〕従業員間における業務内容に関する負担又の相違の有無、程度及び合理性といった観点から検討するのが相当である。
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本件出勤指示1及び2は、本来は不要な業務をあえて原告らに割り当てたのではなく、被告会社の業務上の必要に基づいて発せられたものということができる。
本件出勤指示1及び2は、本件事業所への出勤を命じるものであり、電車等による通勤を要するものであるが、これは、本件事業所に勤務する従業員に対して一定の業務を命じた場合、等しく必要となる行為であって、新型コロナウイルス感染症が拡大していた令和2年4月から6月であったことを考慮しても、これを特別な負荷と評価することまではできない。
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被告会社が人事権を行使して各従業員に対して業務の具体的内容を割り当てるに当たっては、各従業員の労働時間内における勤務の成果や態度のみを考慮し得るのではなく、勤務時間外における言動や家族事情その他の幅広い事情を考慮することができると解される。前記の課題の内容に照らすと、従業員は、これに取り組むことにより、資質の向上や知識の定着を期待するできるものであって、被告会社が、自宅待機を命じる者の人数が限られる場合において、自宅待機中に、課題を作成して自ら資質の向上や知識の定着といった能力の開発を行うことが期待できる者に対し、優先的にこれを割り当てることとしたことには、一定の合理的理由があったということができる。
原告らが、労働契約上、自宅待機を命じられるべき権利を有していたものではないこと、課題提出者にも自宅待機が命じられることがあったこと及び課題の分量や所要時間が乏しいものであったこと等を考慮すると、本件運用が従業員間に一定の業務上の負担の相違を生じさせるものであったとしても、その相違の程度が著しいということはいえず、従業員間の公平を害するものということもできない
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確かに、本件出勤指示1及び2がされた令和2年6月は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が問題となっていた時期であり、本件事業所への出勤は、一定の感染の危険がある行為であったといえる。
しかし、仮に原告らに対して自宅待機を命じれば、原告らが行うべき業務を処理するため、別の従業員が出勤することを要し、感染の危険にさらされることとなる関係にある。また、電車による通勤は、社会通念上、新型コロナウイルス感染症への感染の危険性が特に高い行為であるとは認められないところ、前記(1)で検討したところによれば、本件出勤指示1及び2がされた時期、本件事業所では1日当たり100人程度の出勤を要する業務が発生し、本件出勤指示1及び2を受けて出勤した原告らも、本件事業所において実際に業務に従事したことが認められるのであって、被告会社が、原告らに対し、不要な出勤を求めたということはできない。
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