2023年3月31日金曜日

メットライフ生命保険事件・大阪地判R4.10.27・ジャーナル132-47

営業社員のノルマ不達成解雇 有効

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2 争点1(本件解雇の有効性)について

(1)本件解雇の合理性

ア 解雇事由該当性

前記前提事実によれば、CT社員であるXに適用されるYの就業規則においては、半年間の査定AAPが300万円を下回ることという一義的に判断し得る事由が解雇事由として規定されているところ、Xの2020年下半期の査定AAPは75万0064円であり、Xには、就業規則44条1項6号所定の解雇事由があると認められる。

イ 本件規定の必要性・合理性

(ア)CT社員は、生命保険の営業を行うため、Yの事務所ごとに学歴や経歴不問で採用され、基本給は月額10万円であり、給与の中心は販売した保険料に応じた歩合給である成績手当や継続手当等によって構成されることが予定されていたことが認められる。そして、CT社員は、所定労働時間は定められていたものの、事務所に出社して勤務することが義務付けられている時間は限定されており、各従業員は、いつ、どこで仕事を行うかについて相当の裁量が与えられていたことが認められる。 

このようなCT社員の採用条件、給与体系及び職務内容に照らせば、CT社員は、Yにおいて、もっぱら保険の募集を行うことが予定されていたというべきである。そして、Yは、保険の募集を行うCT社員に対して、売上げの如何に関わらず、月額10万円の基本給や最低賃金確保のための保障給を支払うこととしていたから、CT社員が一定の水準の売上げを挙げなければ、Yはその給与等を支払うことができないこととなる。したがって、CT社員が所定の期間内に一定の売上げを挙げられないことを解雇理由として定める本件規定には、合理的必要性があると認められる

(イ)そして、本件規定の定める本件基準は、半年間で査定AAPが300万円というものであるところ、Yにおける主力商品は査定AAP算定のための係数が2と設定されており、月額保険料2万円の保険契約を新たに成約した場合の査定AAPは48万円となるとされているから、前記基準は、主力商品に該当する月額保険料2万円の保険契約を半年間で7件成約すれば満たす水準のものである。

また、Yには全体で約4000人のCT社員がいるとされているところ、2020年下半期のY全体の新規獲得契約の保険料は年額換算で約372億円であったから、同期間における新規獲得契約の年額保険料は、概算でCT社員一人当たり約930万円程度ということとなり(=約372億円÷4000人)、獲得できる保険契約の大半について、査定AAP算定で用いられる係数が1よりも大きいことに照らすと、本件基準は、CT社員一人当たりの平均的な査定AAPよりも相当低い水準に設定されているということができる。

また、査定期間は6か月間であり、1、2か月間といった短期間に偶然的に生じた結果のみに左右されることなく、期間中に自らの査定AAPを把握して対応しようと試みることが可能と考えられる程度の期間が設定されている。

これらの事情に照らせば、本件基準は、その額及び期間ともに合理的な範囲内のものということができる。

(ウ)以上によれば、本件規定及び本件基準には必要性・合理性があると認められ、これを適用してされた本件解雇にも客観的に合理的な理由があると認められる。

(2)本件解雇の相当性

ア Xは、本件雇用契約の締結前に受けた面接において、担当者のDから、本件規定の存在や解雇事由について具体例を交えた説明を受けていたことが認められ、Xは、一定の期間内に所定の売上げを挙げなければ解雇されることを認識した上で、本件雇用契約を締結したことが認められる。

イ また、本件雇用契約は、もっぱら保険の募集を行うことを想定した契約であり、学歴や経験を問わず、事業所単位で締結されるものであって、歩合給を中心とした給与体系が採用されており、売上げが挙げられないときは解雇され得る代わりに、売上げが多額に上れば経験年数等に関わらず高額の収入が得られる内容であったことが認められる。

ウ そして、Xは、2016年上半期にも本件基準を下回り、その際は本件規定に基づく解雇をされなかったが、その際、当該取扱いは1回限りである旨を告げられていたことが認められ、2020年下半期はそれにもかかわらず本件基準を下回ったものである。

エ Xの査定AAPの推移を見ると、2014年以降は、2018年下半期を除いて、いずれの期間においても査定AAPが350万円以下にとどまっており、2020年下半期の成績が例外的に低かったという見方をすることもできない。また、Xの2020年下半期の査定AAPの数値は約75万円にとどまり、本件基準をごく僅かに下回ったというものでもない

オ これらの事情を考慮すれば、本件解雇が社会通念上相当性を欠くものとも認められない。

(3)小括

 以上によれば、本件解雇は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当性を欠くものとはいえず、有効である。

(4)Xの主張に対する検討

ア 解雇事由の重大性等について

(ア)Xは、2020年下半期の成績が本件基準に達しなかったことは労働契約の履行に支障を生じさせるようなものではなく、反復・継続的に本件基準を下回っていたものでもない旨や、Xが2020年下半期に本件基準を下回ったのは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって営業活動に支障が生じたことが原因であり、解雇事由が重大であるともいえない旨を主張する。

(イ)しかし、Yにおいて、CT社員はもっぱら保険契約の募集を担当することが予定されていたところ、Yが、営業成績の如何に関わらず基本給や保障給を支払う義務を負う雇用契約を継続するに当たり、従業員に対して一定の売上げを挙げることを条件とすることに必要性、合理性が認められることは、前示のとおりである。

また、Xは、2016年上半期にも本件基準を満たさなかったことがあり、その他の期間も査定AAPが350万円を下回る程度の結果が続いていたから、2020年下半期の結果が例外的なものと見ることはできないし、Yにおいては、全社でも大阪オフィスでも、2020年下半期は前年の同期間と同等の売上げを記録しているから、新型コロナウイルス感染症の感染拡大がXの成績に影響を与えたとしても、2020年下半期の成績がやむを得ないものであったと評価することはできない。

イ 事前の指導や注意等について

(ア)Xは、本件解雇にあたり、Yが事前の注意、警告、教育指導をしていない旨を主張する。

(イ)しかし、本件解雇がされた2021年1月の時点において、Xはアリコ及びYに10年近く勤務していたのであり、その間、営業成績の向上に関して自ら教育指導を受ける機会は十分にあったと考えられる。また、査定AAPの値は自らのコンピュータ等で確認できたことが認められ、Xは、2020年下半期に成績手当を受給していないから、期間中の新規獲得保険契約の保険料が低調であったことは、期間中に容易に理解し得たと考えられる。現に、Xは、2020年11月頃には、危機感を感じていたことが認められ、Xは、査定AAPが本件基準を下回る見通しであることを事前に把握していたものと認められる。

以上によれば、Xの前記主張を採用することはできず、これによって本件解雇が権利濫用に当たるということはできない。

ウ 職種変更について

(ア)Yは、本件雇用契約に職種限定の合意はなく、Yは、Xに対し本件解雇の前に職種変更を検討すべきであった旨を主張する。

(イ)確かに、Yの就業規則には転勤、職務及び職場の変更を命ずることができるものとされているから(就業規則37条)、Yは就業規則上、配置転換をする権限を留保していたものと認められる

しかし、CT社員の給与は、月10万円の基本給と最低賃金を確保するための保障給のほかは、獲得した保険料に応じた手当が中心とされ、また、CT社員は直行直帰が幅広く認められるなど、比較的自由な営業活動を行うことが認められる。仮にCT社員を、保険の募集を行わない部署に配置転換すれば、労働時間管理は厳しくなるのに対して、賃金は基本給月額10万円及び最低賃金法所定の賃金が支払われる程度にとどまることとなるのであって、その不利益の程度は大きいということができる。そして、Xは、保険営業を行うCT社員の募集に応募して本件雇用契約を締結した者である上、前記のとおり2020年11月頃には強い危機感を感じていたことが認められるが、上司に対して配置転換の要望を出していない

このような配転がもたらす労働条件への影響及びXの要望がなかったことを踏まえると,Yが本件解雇前にXを配置転換しなかったことを考慮しても、本件解雇が権利濫用に当たると解することはできない。

エ 小括

その他、Xの主張を検討しても、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き、又は社会通念上相当性を欠くものとして、権利濫用に当たり無効になるとは認められない。 

3 結論

以上によれば、本件解雇は有効であったと認められるから、Xの請求にはいずれも理由がなく、争点2については判断を要しない。

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タイガー魔法瓶事件・大阪地判R4.10.28・ジャーナル132-44

ハラスメント損賠請求 棄却 下記は男女差別に関する主張(いずれも否定)

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 (オ)本件行為Eについて

証拠(甲8、9、乙5、証人P9〔7、8、14、17頁〕、X本人〔12、13、34、35頁〕)及び弁論の全趣旨によれば、

Y会社のお客様相談室においては、顧客宅への訪問対応をする可能性のある社員について、顧客対応時の責任者という意味で形式上「室長」と名刺に記載することとしており、男性社員は顧客宅への訪問対応をする可能性があったために「室長」とされ、女性社員は顧客宅への訪問対応をしないため「室長補佐」とされていたこと、

そのため、男性社員には「室長」、女性社員には「室長補佐」という肩書の名刺が配布されていたこと

が認められる。

前記認定によれば、Y会社のお客様相談室においては、事実上、男性社員に「室長」、女性社員には「室長補佐」という肩書の名刺が配布されていたことが認められるものの、その理由は、男性社員は顧客宅への訪問対応をする可能性があったために責任者という意味で形式上「室長」と名刺に記載されていたにすぎず、かかる理由が不合理であるとまではいえない上、「室長」と「室長補佐」は形式的な肩書の差異にすぎず、具体的な待遇面の差異があったとは認められないことからすると、かかる取扱いをもってXの権利利益が侵害されたとはいえず、また、男女差別を助長するものであったとはいえないから、職場環境配慮義務違反があったとはいえない。

したがって、本件行為Eにつき不法行為又は債務不履行は成立しない。

(カ)本件行為Fについて

証拠(甲4、6の1、28、乙5、証人P9 8、9、15、17頁、X本人18、40~42頁、YP3本人11、20頁)及び弁論の全趣旨によれば、打

合せ議事録(甲4)に、Y会社のコールセンターにおいて仕様変更連絡書の「男性回覧」を行っている旨記載されていること、

P7は、東京お客様相談室との情報交換会を行うに当たり、品質保証グループの各メンバーに対し、議題を送信したところ、その送信先はいずれも男性社員であったものの、同会の後、同会の議事録が同じメンバーに配信され、その後、Xを含む4名の女性社員にも配信されていること

が認められる。

前記認定によれば、Y会社において「男性回覧」なるものが行われていたことがうかがわれるものの、その詳細は不明である上、かかる「男性回覧」によってXが具体的な不利益を受けたとは認められない。また、前記認定によれば、東京お客様相談室との情報交換会の議題が男性社員にのみ送信されたことが認められるが、その理由は必ずしも明らかではなく、また、同会の議事録が男性社員にのみ配信されたのは、議題が送信されたメンバーと同一のメンバーに対して配信されたからにすぎず、殊更女性を除外したことによるものとまでは認められない

そうすると、これらをもってXの権利利益が侵害されたとはいえず、また、男女差別を助長するものであったとはいえないから、職場環境配慮義務違反があったとはいえない。

したがって、本件行為Fにつき不法行為又は債務不履行は成立しない。

(キ)本件行為Gについて

証拠(甲1、22、28、乙5、証人P9〔7、8、15頁〕、X本人〔18、19頁〕)及び弁論の全趣旨によれば、

カスタマー手当は、特定職務を担う社員に支給される職務手当の一種であり、顧客宅への訪問対応をする可能性がある者に支給されていたこと(2017年の就業規則の変更により「カスタマーサービスチームの該当者」に支給する旨の規定が置かれている。)、

クレーム対応等で顧客宅を訪問した場合、高圧的・威圧的態度をとられることが多く、従業員の安全確保の観点から、顧客宅への訪問対応をするのは男性社員のみとしていたこと、

そのため、カスタマー手当も事実上男性社員にのみ支給されていたこと

が認められる。

前記認定によれば、Y会社において、事実上男性社員にのみカスタマー手当が支給されていたものの、その理由は、従業員の安全確保の観点から、顧客宅への訪問対応をするのを男性社員のみに限っていたことに基づくものであり、かかる理由は合理的であるといえるから、かかる取扱いをもってXの権利利益が侵害されたとはいえず、また、男女差別を助長するものであったとはいえないから、職場環境配慮義務違反があったとはいえない。

したがって、本件行為Gにつき不法行為又は債務不履行は成立しない。

(ク)本件行為Hについて

証拠(甲26、28、乙5、証人P9〔8、17、18頁〕、X本人〔17、18頁〕)及び弁論の全趣旨によれば、

Y会社において、社員が当日の自らの予定を記載するための社内掲示板が男性社員と女性社員とで分けられていたこと

が認められるものの、当不当の問題は別にして、かかる取扱いをもってXの権利利益が侵害されたとはいえず、また、男女差別を助長するものとはいえないから、職場環境配慮義務違反があったとはいえない。

したがって、本件行為Hにつき不法行為又は債務不履行は成立しない。

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ライフマティックス事件・大阪高判R4.12.22・ジャーナル132-28

地位確認請求、ハラスメント損賠等の中で、有期ではなく無期+試用との主張が排斥

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2 本件労働契約における期間の定めは試用期間であるか有期雇用期間であるか等(争点1)について

(1)Y会社は、本件労働契約は有期労働契約である旨主張するのに対し、Xは、最高裁1990年6月5日第三小法廷判決(民集44巻4号668頁)<神戸弘陵学園事件>の判旨に照らし、本件労働契約における期間の定めは試用期間である旨主張する。

上記最高裁判決は、開設後間もなく一時に大量の教員を採用する必要があった学校法人が、教員経験のない者を新規に教員として採用した場合において期限付職員契約書を作成して採用された常勤講師の契約関係について争われた事案につき、使用者が労働者を採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、上記期間の満了により上記雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、上記期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である旨判示している。

ところで、Y会社は、ソフトウェアの企画、開発、販売等の事業を行う会社であり、Xは、ソフトウェア開発エンジニアとして採用されたものであるところ、前記1で補正した上で引用した原判決認定事実(以下単に「認定事実」という。)(1)イで認定したYCのXに対する採用通知メールにおける説明によれば、Y会社において労働契約に期間を設けた趣旨・目的は、主としてXの適性を評価・判断するためのものに当たると認められる。しかしながら、

YCは、Xの採用時点のソフトウェア開発スキルの程度等から有期雇用を前提としての採用が相当であると考えてその旨Y会社代表者に説明して採用の承認を求めたこと(認定事実(1)ア)、

そのような経緯から、本件労働契約に係る契約書には、有期雇用であるとの明確な文言がある上、雇用期間を6か月間とし、5か月目に相互の確認ないし意向の合致により正社員登用又は有期雇用期間での終了を相互に確認するとの明示の定めがあったこと(前記第2の3で補正した上で引用した原判決前提事実〔以下単に「前提事実」という。〕(2)イ)、

YCは、Xに対し、採用通知メールにおいて、有期雇用6か月間であることを伝えるとともに、6か月間の勤務を評価し、Xの意向も確認した上、双方の意向が合致すれば、正社員(無期雇用)に採用する旨説明していること(認定事実(1)イ)、

Xも、Y会社に入社後、自らが有期雇用である旨発言し、そのことを認識していたこと(認定事実(4)イ、オ)

が認められる。そして、

雇用期間開始に先立って本件労働契約が締結され、さらに本件労働契約締結に先立って採用通知メールで有期雇用6か月間などの採用条件の説明がされていること

が認められることを考慮すれば、本件労働契約締結の際、期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意がXとY会社との間に成立していたと認めるのが相当である。

 そうすると、本件労働契約における期間の定めは有期雇用期間であると認められる。

(2)Xは、本件労働契約における期間の定めが試用期間であることを示す事情として、

〔1〕XがE支社において他の従業員と同じソフトウェア開発業務に従事していたこと、

〔2〕Y会社が行う労務管理は他の従業員に対するものと同じであったこと、

〔3〕Y会社は、期間満了時である2019年9月30日、Xについて再雇用に関する契約書作成の手続をすることもしていないこと

などの事実を挙げる。しかしながら、

Xは、Y会社にソフトウェア開発エンジニアとして採用されたのであり、本件記録からうかがわれるE支社の規模等に照らすと、上記〔1〕、〔2〕の点は、それのみでは本件労働契約における定めが試用期間であることを推認させるものとはいえない。

そして、上記〔3〕の点については、上記(1)のとおり、本件労働契約においては、5か月目に正社員登用の手続をするかどうかの確認の手続が本来予定されていたこと、それにもかかわらず、その手続がされなかったのは、Xが2019年7月29日以降出勤せず、同年8月29日には休職扱いとなったことにより、手続を行う機会がなかったことによるものとみられることからすると、この事情も、上記(1)の認定を覆す事情ということはできない。

(3)Xは、就業規則7条1項、労働基準法93条<就業規則の最低基準効>、労働契約法12条<同>により、契約書の記載にかかわらず、本件労働契約における期間の定めは試用期間となる旨主張する。

しかしながら、就業規則7条1項の規定は、新規採用者について6か月の試用期間を置く趣旨の定めである(前提事実(8)ア)ところ、就業規則(甲2)には、「1年以内の期間を定めて雇用される者」(第2条(2))や「期間を定めて雇用した者」(第66条(2))等の文言があり、Y会社においても、有期労働契約の存在が予定されているといえるから、就業規則7条1項は、あくまで期間を定めない労働契約の扱いについて定めたものと解され、同条がおよそ有期労働契約を許容しない趣旨を定めたものと解することはできない。また、そうであるとすれば、Xが本件労働契約締結に先立ってY会社の就業規則の交付を受けていたか否かは結論を左右しない。

(4)Y会社の転職サイト(甲44)には、求人募集として、雇用区分・正社員、試用期間6か月との記載があり、認定事実(1)ウのとおり、YCは、2019年3月24日、Xに対し、通常入社として書類手続を行う旨の記載があるメール(甲45)を送信したことが認められる。しかしながら、前記(1)で説示したとおり、本件労働契約は有期雇用である旨を明示してこれを前提とする採用条件を定め、YCは採用通知メールで有期雇用を前提とする採用条件を説明しており、Xも自らが有期雇用である旨認識していたことが認められるところ、上記転職サイトは求人募集を広告したものに止まり、Xの採用条件自体を示したものとはいえないし、また、上記電子メールには「6か月有期雇用となっている」とも記載されており、Xが指摘する部分は書類手続について説明したにすぎないものと解される。そして、YCがXに対して本件労働契約における期間の定めが試用期間である旨説明したことをうかがわせる証拠もない。そうすると、上記転職サイトの記載や上記メールの送信をもって、本件労働契約における期間の定めが試用期間であると認めることはできない。そして、Xが指摘するその余の事情を総合しても、前記(1)の認定を覆すに足りない。

(5)なお、認定事実(4)ス、セ、チのとおり、Y会社代表者は、2019年9月24日、Xに対し、東京本社転勤について、同年11月までXの判断を待つ旨発言し、同年10月3日及び同月18日には、Xとの間で、Xの職場復帰を前提とするやり取りをしたことが認められ、これらの事情は、同年10月以降も雇用が継続することを想定した対応のようにも思われる。もっとも、このような対応は、Xが、E支社でのセクシャルハラスメント等の被害を訴えて、同年7月29日以降出勤できない状況となり、5か月目である同年9月に行われるべき同年10月以降の雇用継続の適否の点についての確認手続を行うことが困難となったというXの現状に配慮し、再度の有期雇用による採用の可能性(認定事実(4)ケで提示した電子メール〔乙20〕の方針は、このような趣旨を示したものとみるのが合理的である。)を留保したものであるとみることができる。そうすると、このような配慮がされたからといって、直ちに本件労働契約が有期雇用契約から無期雇用契約に転化したということはできないし、また、これをもって、本件労働契約における期間の定めが試用期間であることを裏付ける事情となるとまではいえない。

(6)以上によれば、本件労働契約は6か月間の有期労働契約であると認められるから、本件労働契約は雇用期間満了日である2019年9月30日の経過により終了し、その時点でXはY会社を退職したこととなる。

なお、前記(5)で説示したとおり、Y会社代表者が2019年9月以降にXに対して再雇用の可能性を留保する趣旨の対応を取ったことが認められるが、このような対応は、Xの現状に配慮したものであり、雇用期間満了後の再雇用を確約したとはいえないから、これをもって、Y会社の黙示の再雇用の意思表示であるとまではいえない。

7)そうすると、Xの労働契約上の権利を有する地位の確認請求は、争点2ないし4及び7について判断するまでもなく、理由がない(なお、争点8の判断も上記請求に係る結論には影響しない。)。

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2023年3月13日月曜日

近鉄住宅管理事件・大阪地判R4.12.5・ジャーナル131-2

 普通解雇の無効を主張した 解雇無効

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(1)新型コロナウイルス対策の不履行について

Yの業務はマンションの管理等であるところ、新型コロナウイルス禍においては、Yが管理するマンションの住民に不安を与えないようにすることが業務の遂行において必要であるといえ、Yが従業員に対して、感染防止対策の徹底を求める通知を繰り返し発出し、マスク着用等の徹底を求めていることも、その表れであるといえる。

そうすると、Yの従業員としては、使用者であるYの指示に従って、業務を遂行する際には、新型コロナウイルス感染防止対策を徹底しながら職務を遂行する義務を負っていたことになる。

ところが、本件マンションの住民から、Xに関して、「マンション内や通勤途中でお見かけした時は、マスクをされていません」、「いつお見かけしても、マスクをされていない」との連絡がなされているところ、その文言に照らせば、同住民は、Xがマスクを着用しないことが常態化していると認識していたこと、Xの主張・供述を前提としても休暇を取得していた令和3年5月6日に本件マンションの管理事務所を訪問した際もマスクを着用していなかったこと、管理事務所でマスクを外しており、着け忘れた状態で管理事務所の外に出たこともあること(X本人尋問調書4頁)、通勤途中にたばこを吸うためにマスクを外していたこともあること(X本人尋問調書19頁)などからすれば、Xは、本件マンションで管理員として業務を遂行する際や、通勤の際に、日常的にマスクを着用していなかったことがうかがわれる。そうすると、Xは、本件マンションの管理員として職務を遂行する際に、使用者であるYからの業務上の指示に従っていなかったことになる。

しかし、

① Xが過去にもYから同様の行為について注意を受けていたというような事情はうかがわれないこと、

② 潜在的には認定事実(2)の連絡をした住民以外にもマスクを着用しないXについて不快感や不安感を抱いた本件マンションの住民がいたことがうかがわれるものの、現実にYに寄せられた苦情は1件にとどまっていること、

③ Xの行為が原因となって、本件マンションの管理に係る契約が解約されるというような事態は生じていないこと、

④ E課長もXに対してマスク未着用に関する注意をしていないことを認めており、ほかに、YがXに対してマスク未着用に関する注意をしたことを認めるに足りる証拠もないこと、

⑤ Xが新型コロナウイルスに感染したことで、本件マンションの住民あるいはY内部において、いわゆるクラスターが発生したというような事態もうかがわれないこと

などからすれば、新型コロナウイルス対策の不履行に関する一連のXの行動が規律違反(パートタイマー就業規程45条2号)に当たるとはいえるものの、同事情をもって、Xを解雇することが社会通念上相当であるとまではいうことができない。

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Xは、…配転を拒否したら解雇されたことは、単に配転命令や解雇の無効にとどまらず、違法な行為である旨主張し、X本人もこれに沿う供述をする。

仮に、令和3年6月2日に、本件マンションからの配転命令が発令され、同配転命令が無効であるとしても、直ちに不法行為法上も違法となるものではなく、別途、不法行為法上、違法であるかについて検討が必要である。

既に説示したとおり、新型コロナウイルス禍においては、管理するマンションの住民に不安を与えないようにする必要があること、本件マンションの住民から、Xがマスクを着用していないことが常態化している旨の連絡(苦情)がなされたことに照らせば、Xを本件マンションから異動させるという判断をすることは首肯できるものである。

そして、Xの年齢に照らせば、配転命令の発令時点において定年までの期間が約6か月しかなく、管理員として継続的な業務を行うことができない状態であったことになるから、ほかのマンションの管理員に配転することができず、清掃員に配転するとの判断をすることも首肯できるものといえる。そうすると、配転命令について、業務上の必要性があったということができる。

また、不当な動機・目的があったことを認めるに足りる証拠もない。

そして、清掃員の具体的な業務内容は専門的な清掃ではなく、日常清掃であり、特殊な器具を用いたり、特殊な技能が必要となるものではなく、日常的な清掃の範囲にとどまり、肉体的負担が大きいものとはいえないこと,転居を要するものではないことなどからすれば、管理員から清掃員への配転が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとはいえない。

以上からすると、確かに、管理員から清掃員に配転されることで、月額賃金が減少することとなることなどから、配転命令が無効となることはあり得るものの、一見して明白に不当であることが明らかであるとはいえない。そうすると、Yによる配転命令が発令されていたと仮定しても、同命令について、不法行為法上、違法な行為であるとまでは評価することができない。 

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月額賃金減少による配転命令無効はあり得る。

高松テクノサービス事件・大阪地判R4.9.15・ジャーナル131-26

 反社会的勢力との関係を理由とする解雇 有効

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ア 解雇の必要性・合理性

前記認定事実のとおり、建設業界では、歴史的経緯から、反社会的勢力排除への取組を行っており、Yにおいても、Yが施主等との取引相手との間で取り交わされる覚書や契約書には、Yの使用人や従業員が反社会的勢力と不適切な関係を有しないことを約する旨の規定が置かれ、これに違反することは契約の解除事由とされていたことが認められる。

すると、Xが暴力団幹部と交友関係を維持していると知りながら、Xを雇用し続けることは、Yにとって、施主等の取引先との間で締結し又は締結する契約全般について、解除される危険を生じさせるものであって、Yは、Xを解雇しなければ、事業の遂行自体に支障が生ずる状況にあったと認められる。

イ 解雇の相当性

Yにおいて反社会的勢力を排除する取組がされており、その従業員が反社会的勢力と関わりを持つことが許されないものであったことは、Yで働くXも当然理解していたと考えられるところ、前記認定事実のとおり、Xは、Cのことを暴力団の幹部であると知りながら、令和2年1月まで交友関係を維持していたことが認められる。

また、Xは、自らの自動車保険の保険金請求にCを関与させたことが認められる。他人への金銭の請求である保険金請求手続を行うに当たって、暴力団幹部と相談をするなどして関与させることは、私的な飲食といった行為と比べても、反社会的勢力との関わりとして避けるべき程度の高い行為であったということができる。

そして、Xは、詐欺未遂罪を被疑事実としてCとの共犯として逮捕、勾留されながら、本件解雇に至るまで、Y担当者に対し、Cとの関係について具体的な説明をしなかった。

ウ 小括

以上のとおり、Xは、Cが暴力団幹部であることを知りながら交友関係を維持して保険金請求手続に関与させ、詐欺未遂罪を被疑事実としてCと共に逮捕及び勾留をされながら、Cとの関係について具体的な説明をしなかったのであって、Yは、このようなXとの間の雇用関係を維持すれば、取引先との契約全般について解除される危険を負う状況にあったと認められる。

すると、Yに、Xを解雇する以外の選択をすることができたとはいえず、Xの本件交友等及びその後の経緯に照らして、これが社会通念上相当でないともいえないから、本件解雇は就業規則35条1項4号所定の解雇事由である「その他のやむを得ない事由」に当たり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上の相当性を欠くものとも認められない。

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2023年3月10日金曜日

NECソリューションイノベータ(配転)事件・大阪地判R 3.11.29・労判1277-55

 事業場閉鎖にともなう関西→東京の転勤命令を拒絶し懲戒解雇 有効

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Xは,G1ビル内での勤務が可能であったから本件配転命令には業務上の必要性がなかった旨主張した。

排斥理由1

平成30年7月当時,Yグループ全体を通じて間接業務の効率化・集約化が図られ,更にこれが継続していた状況にあった → G1ビルに入居するYグループの企業において,他部署ないし他企業から余剰人員を受け入れていく状況にあったということはできない(むしろ減員していく状況にあった) → そうすると,原告のH1への出向を解除したとしても,原告を配置することが可能な部署が被告に出現する状況にあったとはいえない

排斥理由2

Xにおいて企業秩序を維持して就労していこうとする意思や態度を看取することはできないこと と Xが入社以来約16年間もの長期間資格が昇格していないこと と 平成30年度の賞与において人事考課が影響する個人別業績賞与が標準支給額より二,三割低額であったことなど

→ 原告の勤務態度には問題があり,事務処理能力や人事評価も低いものであったというほかない → そうすると,原告を配属することが可能な部署自体が相当限定されることとなる → 他方G1ビルに入居するYグループの企業において経営企画部や人事部などの部門が存在するとしても,人事配置は,適材適所で行う必要がある → 仮に,原告が主張するとおり,G1ビル内に,原告が過去に経験した部門が存在するとしても,直ちに同部門に原告を配属することができるとは解されない

以上からすれば,K1事業部長が,G1ビル内の間接部門への配転が可能な部署があるかについて具体的な検討を行っていないことなどを併せ考慮しても,本件配転命令の業務上の必要性がなかったことになるものでもない。

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Yは、Xが訴訟で証拠提出したXの長男及び母親に係る診断書や通院状況に関する資料は本件配転命令発出前にはYあるいはH1に提出されていなかったものであり,Xが申告しなかったためYとしては知悉することができなかったものであるから判断事情として考慮すべきではない旨主張した

Xの個人的な事情について,Y又はH1がXの協力を得ることなく調査することができる範囲には自ずから限界がある。他方で,自身に関する個別事情を最もよく把握しているXにおいて,配転命令に応じることが困難な具体的な事情を説明することは基本的に容易であり,かつ相当というべきである

→ Yが,本件配転命令以前に,Xが本件訴訟において提出しているような医師の意見書や診断書等の内容を認識していないのは,XがYから述べる機会を与えられなかった,あるいは上記書類を提出する機会がなかったことによるのではなく,Y又はH1が,Xに対し,玉川事業場への配転に応じることができない理由を聴取する機会を設けようとしたにもかかわらず,Xが自ら説明の機会を放棄したことによるものというほかない。

→ そうすると,Y又はH1が,Xに対して,医師の意見書や診断書の提出を求めるなどの必要な調査を怠ったということはできないのであって,本件配転命令に際し,Y又はH1が医師の意見書・診断書等の原告の長男及び母親の具体的な状態を認識することができなかったのはXが招いた事態であるから,Y又はH1が,本件配転命令を発出した時点において認識していた事情を基に,本件配転命令の有効性を判断することが相当というべきである。

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YあるいはH1が,本件配転命令の発出の際に認識していた事情としては,

①原告の長男が自家中毒に罹患しており,体調を崩した場合には学校から連絡があり,病院に連れて行く必要があること,

②原告の母親が,介護の必要はないものの高齢であり,月二,三回は体調不良になること

①について

小学校に通学している児童が,授業中や休憩中に体調を崩したとして,保護者が届け出た連絡先に学校から連絡があり,その程度によっては迎えに来ることを求められることは,一般的な出来事であって,特段珍しいことではなく,通常の事情と解される。

②について

母親は高齢ではあるものの,Xの主張を前提としても,介護認定を受けて介護を要するような状態にあるものではなく,また,持病等についても,加齢による一般的なものを超えるものではないから,単身で居住すること,あるいはXと共に転居することが物理的・現実的に不可能と目されるような障害があったということはできない。

親は高齢であり,慣れ親しんだ環境で生活したいとの思いを抱くこと自体は自然といいうるものであり,その意味において心理的な障害があるということはできる。また,長男についても,転校することとなれば,環境に変化が生じることから心理的な障害があるといい得るところである。

しかし,そのような事情は,転居を伴う配転の場合には通常生じ得る事情である。また,Yにおいては,転居を伴う配転の場合,借上社宅制度や転任費用補助の制度の利用が可能であるところ,Xにおいて,単身赴任をするか,長男と共に転居し,母親が単身で居住することとするか,あるいはXが長男及び母親と共に転居するかについて何ら制限されておらず,自由に選択することができたものである(一般的な転居を伴う配転の場合と同様,原告が家族・親族と協議して検討・判断すべきものである。)。

そして,Xの主張する事情を全て考慮したとしても,現住所地から通院できる医療機関においてのみ受けることのできる特別な治療をうけなければ長男の生命等に重大な結果が生じかねないような特段の事情のない本件においては,本件配転命令につき,通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるということはできない。

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仮に資料を前提としても濫用でない

長男の自家中毒について

通院回数(連日の通院を含む。)
平成27年 7回
平成28年 7回
平成29年 12回
平成30年 14回
平成31年1月から本件配転命令が発令された同年3月1日までの間 2回
平均 1か月1回程度

自家中毒はいつ症状が発症するか不明であり,定期的に通院すれば足りるというものでは必ずしもないことからすれば,学校から長男の体調が思わしくない旨の連絡があった際に,原告が急きょ退社して,対応することも想定される

しかし

長男の体調は基本的に点滴治療により改善していること,自家中毒は,一般的には,成長に伴って症状が改善されていくもので,6歳をピークとして2ないし10歳に症状が出るが,思春期頃には治ることが多いとされているところ,長男は,本件配転命令の時点で約11歳であること,原告が提出した医師の意見をみても,転居について,「可能であるなら避けることがのぞましい」,「あくまでも想像の範疇を超えることはできないが,患児にとって心的ストレスとなるようであれば,発作頻度が増加する等の症状悪化につながる可能性は否定できない」,「本人の病状に悪影響を与える恐れがあると考える」などというものにとどまっている

Xが従事していた職務の内容はスタッフ業務であり,その内容に照らせば,原告が急きょ不在となったとしても,ほかの従業員による代替等によって対応が可能であると解され,原告自身も,翌日に回せる仕事は翌日に回し,急ぎの仕事は同僚に任せるという対応をしていた旨供述している

長男の看病のために有給休暇とFF休暇では休暇の日数が足りず,無給となる欠勤を余儀なくされた年度があったというような事情はうかがわれない

Xも本件配転命令の直近5年に原告が長男の関係で取得した休暇は,有給休暇とFF休暇の範囲内で収まっていることを自認している

→ 本件配転命令に応じたとしてもXや母親あるいは関係者(必ずしも親族に限らない。)において対応可能な範囲のものと解される

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Xは、懲戒委員会に労働組合の代表者がいないから懲戒解雇無効と主張

懲戒処分をする場合,法令上,懲戒委員会を開催することを義務付けたり,特定の者を構成員にすることを定めているものではない。

また,Yは内規により懲戒処分をする場合懲戒委員会を開催することを定めているものの,労働組合の代表者を懲戒委員会の構成員とすることを義務付けるような規定は存しない。

しかるところ,懲戒権は,使用者が企業の存立・運営に不可欠な企業秩序を定立し,維持する権限を有することによるものであり,懲戒委員会を設定するか否かやその構成をどのようにするかは基本的に就業規則等に定めることにより使用者が自由に決めることができるものである。

そうすると,懲戒委員会の構成に労働組合の代表者が入っていないとしても,そのことをもって,懲戒委員会の構成ないし本件懲戒解雇の手続に瑕疵があったとはいえない。

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本件懲戒解雇は,Xが本件配転命令に応じなったことを理由とするものである

本件配転命令は有効

そして 被告の就業規則においては業務上必要がある場合には配転を命じることがあること,職務上の指示命令に反して職場の秩序を乱した場合には,懲戒解雇事由に該当するとされている

前記認定したとおりの経過を経て配転命令がなされたにもかかわらず,同命令に応じないという事態を放置することとなれば,企業秩序を維持することができないことは明らか

→ 本件懲戒解雇は,客観的に合理性があり,かつ社会通念上も相当なものといえ,懲戒権の濫用に当たるということはできない

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