地位確認請求、ハラスメント損賠等の中で、有期ではなく無期+試用との主張が排斥
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2 本件労働契約における期間の定めは試用期間であるか有期雇用期間であるか等(争点1)について
(1)Y会社は、本件労働契約は有期労働契約である旨主張するのに対し、Xは、最高裁1990年6月5日第三小法廷判決(民集44巻4号668頁)<神戸弘陵学園事件>の判旨に照らし、本件労働契約における期間の定めは試用期間である旨主張する。
上記最高裁判決は、開設後間もなく一時に大量の教員を採用する必要があった学校法人が、教員経験のない者を新規に教員として採用した場合において期限付職員契約書を作成して採用された常勤講師の契約関係について争われた事案につき、使用者が労働者を採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、上記期間の満了により上記雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、上記期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である旨判示している。
ところで、Y会社は、ソフトウェアの企画、開発、販売等の事業を行う会社であり、Xは、ソフトウェア開発エンジニアとして採用されたものであるところ、前記1で補正した上で引用した原判決認定事実(以下単に「認定事実」という。)(1)イで認定したYCのXに対する採用通知メールにおける説明によれば、Y会社において労働契約に期間を設けた趣旨・目的は、主としてXの適性を評価・判断するためのものに当たると認められる。しかしながら、
YCは、Xの採用時点のソフトウェア開発スキルの程度等から有期雇用を前提としての採用が相当であると考えてその旨Y会社代表者に説明して採用の承認を求めたこと(認定事実(1)ア)、
そのような経緯から、本件労働契約に係る契約書には、有期雇用であるとの明確な文言がある上、雇用期間を6か月間とし、5か月目に相互の確認ないし意向の合致により正社員登用又は有期雇用期間での終了を相互に確認するとの明示の定めがあったこと(前記第2の3で補正した上で引用した原判決前提事実〔以下単に「前提事実」という。〕(2)イ)、
YCは、Xに対し、採用通知メールにおいて、有期雇用6か月間であることを伝えるとともに、6か月間の勤務を評価し、Xの意向も確認した上、双方の意向が合致すれば、正社員(無期雇用)に採用する旨説明していること(認定事実(1)イ)、
Xも、Y会社に入社後、自らが有期雇用である旨発言し、そのことを認識していたこと(認定事実(4)イ、オ)
が認められる。そして、
雇用期間開始に先立って本件労働契約が締結され、さらに本件労働契約締結に先立って採用通知メールで有期雇用6か月間などの採用条件の説明がされていること
が認められることを考慮すれば、本件労働契約締結の際、期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意がXとY会社との間に成立していたと認めるのが相当である。
そうすると、本件労働契約における期間の定めは有期雇用期間であると認められる。
(2)Xは、本件労働契約における期間の定めが試用期間であることを示す事情として、
〔1〕XがE支社において他の従業員と同じソフトウェア開発業務に従事していたこと、
〔2〕Y会社が行う労務管理は他の従業員に対するものと同じであったこと、
〔3〕Y会社は、期間満了時である2019年9月30日、Xについて再雇用に関する契約書作成の手続をすることもしていないこと
などの事実を挙げる。しかしながら、
Xは、Y会社にソフトウェア開発エンジニアとして採用されたのであり、本件記録からうかがわれるE支社の規模等に照らすと、上記〔1〕、〔2〕の点は、それのみでは本件労働契約における定めが試用期間であることを推認させるものとはいえない。
そして、上記〔3〕の点については、上記(1)のとおり、本件労働契約においては、5か月目に正社員登用の手続をするかどうかの確認の手続が本来予定されていたこと、それにもかかわらず、その手続がされなかったのは、Xが2019年7月29日以降出勤せず、同年8月29日には休職扱いとなったことにより、手続を行う機会がなかったことによるものとみられることからすると、この事情も、上記(1)の認定を覆す事情ということはできない。
(3)Xは、就業規則7条1項、労働基準法93条<就業規則の最低基準効>、労働契約法12条<同>により、契約書の記載にかかわらず、本件労働契約における期間の定めは試用期間となる旨主張する。
しかしながら、就業規則7条1項の規定は、新規採用者について6か月の試用期間を置く趣旨の定めである(前提事実(8)ア)ところ、就業規則(甲2)には、「1年以内の期間を定めて雇用される者」(第2条(2))や「期間を定めて雇用した者」(第66条(2))等の文言があり、Y会社においても、有期労働契約の存在が予定されているといえるから、就業規則7条1項は、あくまで期間を定めない労働契約の扱いについて定めたものと解され、同条がおよそ有期労働契約を許容しない趣旨を定めたものと解することはできない。また、そうであるとすれば、Xが本件労働契約締結に先立ってY会社の就業規則の交付を受けていたか否かは結論を左右しない。
(4)Y会社の転職サイト(甲44)には、求人募集として、雇用区分・正社員、試用期間6か月との記載があり、認定事実(1)ウのとおり、YCは、2019年3月24日、Xに対し、通常入社として書類手続を行う旨の記載があるメール(甲45)を送信したことが認められる。しかしながら、前記(1)で説示したとおり、本件労働契約は有期雇用である旨を明示してこれを前提とする採用条件を定め、YCは採用通知メールで有期雇用を前提とする採用条件を説明しており、Xも自らが有期雇用である旨認識していたことが認められるところ、上記転職サイトは求人募集を広告したものに止まり、Xの採用条件自体を示したものとはいえないし、また、上記電子メールには「6か月有期雇用となっている」とも記載されており、Xが指摘する部分は書類手続について説明したにすぎないものと解される。そして、YCがXに対して本件労働契約における期間の定めが試用期間である旨説明したことをうかがわせる証拠もない。そうすると、上記転職サイトの記載や上記メールの送信をもって、本件労働契約における期間の定めが試用期間であると認めることはできない。そして、Xが指摘するその余の事情を総合しても、前記(1)の認定を覆すに足りない。
(5)なお、認定事実(4)ス、セ、チのとおり、Y会社代表者は、2019年9月24日、Xに対し、東京本社転勤について、同年11月までXの判断を待つ旨発言し、同年10月3日及び同月18日には、Xとの間で、Xの職場復帰を前提とするやり取りをしたことが認められ、これらの事情は、同年10月以降も雇用が継続することを想定した対応のようにも思われる。もっとも、このような対応は、Xが、E支社でのセクシャルハラスメント等の被害を訴えて、同年7月29日以降出勤できない状況となり、5か月目である同年9月に行われるべき同年10月以降の雇用継続の適否の点についての確認手続を行うことが困難となったというXの現状に配慮し、再度の有期雇用による採用の可能性(認定事実(4)ケで提示した電子メール〔乙20〕の方針は、このような趣旨を示したものとみるのが合理的である。)を留保したものであるとみることができる。そうすると、このような配慮がされたからといって、直ちに本件労働契約が有期雇用契約から無期雇用契約に転化したということはできないし、また、これをもって、本件労働契約における期間の定めが試用期間であることを裏付ける事情となるとまではいえない。
(6)以上によれば、本件労働契約は6か月間の有期労働契約であると認められるから、本件労働契約は雇用期間満了日である2019年9月30日の経過により終了し、その時点でXはY会社を退職したこととなる。
なお、前記(5)で説示したとおり、Y会社代表者が2019年9月以降にXに対して再雇用の可能性を留保する趣旨の対応を取ったことが認められるが、このような対応は、Xの現状に配慮したものであり、雇用期間満了後の再雇用を確約したとはいえないから、これをもって、Y会社の黙示の再雇用の意思表示であるとまではいえない。
7)そうすると、Xの労働契約上の権利を有する地位の確認請求は、争点2ないし4及び7について判断するまでもなく、理由がない(なお、争点8の判断も上記請求に係る結論には影響しない。)。
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