2023年3月31日金曜日

メットライフ生命保険事件・大阪地判R4.10.27・ジャーナル132-47

営業社員のノルマ不達成解雇 有効

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2 争点1(本件解雇の有効性)について

(1)本件解雇の合理性

ア 解雇事由該当性

前記前提事実によれば、CT社員であるXに適用されるYの就業規則においては、半年間の査定AAPが300万円を下回ることという一義的に判断し得る事由が解雇事由として規定されているところ、Xの2020年下半期の査定AAPは75万0064円であり、Xには、就業規則44条1項6号所定の解雇事由があると認められる。

イ 本件規定の必要性・合理性

(ア)CT社員は、生命保険の営業を行うため、Yの事務所ごとに学歴や経歴不問で採用され、基本給は月額10万円であり、給与の中心は販売した保険料に応じた歩合給である成績手当や継続手当等によって構成されることが予定されていたことが認められる。そして、CT社員は、所定労働時間は定められていたものの、事務所に出社して勤務することが義務付けられている時間は限定されており、各従業員は、いつ、どこで仕事を行うかについて相当の裁量が与えられていたことが認められる。 

このようなCT社員の採用条件、給与体系及び職務内容に照らせば、CT社員は、Yにおいて、もっぱら保険の募集を行うことが予定されていたというべきである。そして、Yは、保険の募集を行うCT社員に対して、売上げの如何に関わらず、月額10万円の基本給や最低賃金確保のための保障給を支払うこととしていたから、CT社員が一定の水準の売上げを挙げなければ、Yはその給与等を支払うことができないこととなる。したがって、CT社員が所定の期間内に一定の売上げを挙げられないことを解雇理由として定める本件規定には、合理的必要性があると認められる

(イ)そして、本件規定の定める本件基準は、半年間で査定AAPが300万円というものであるところ、Yにおける主力商品は査定AAP算定のための係数が2と設定されており、月額保険料2万円の保険契約を新たに成約した場合の査定AAPは48万円となるとされているから、前記基準は、主力商品に該当する月額保険料2万円の保険契約を半年間で7件成約すれば満たす水準のものである。

また、Yには全体で約4000人のCT社員がいるとされているところ、2020年下半期のY全体の新規獲得契約の保険料は年額換算で約372億円であったから、同期間における新規獲得契約の年額保険料は、概算でCT社員一人当たり約930万円程度ということとなり(=約372億円÷4000人)、獲得できる保険契約の大半について、査定AAP算定で用いられる係数が1よりも大きいことに照らすと、本件基準は、CT社員一人当たりの平均的な査定AAPよりも相当低い水準に設定されているということができる。

また、査定期間は6か月間であり、1、2か月間といった短期間に偶然的に生じた結果のみに左右されることなく、期間中に自らの査定AAPを把握して対応しようと試みることが可能と考えられる程度の期間が設定されている。

これらの事情に照らせば、本件基準は、その額及び期間ともに合理的な範囲内のものということができる。

(ウ)以上によれば、本件規定及び本件基準には必要性・合理性があると認められ、これを適用してされた本件解雇にも客観的に合理的な理由があると認められる。

(2)本件解雇の相当性

ア Xは、本件雇用契約の締結前に受けた面接において、担当者のDから、本件規定の存在や解雇事由について具体例を交えた説明を受けていたことが認められ、Xは、一定の期間内に所定の売上げを挙げなければ解雇されることを認識した上で、本件雇用契約を締結したことが認められる。

イ また、本件雇用契約は、もっぱら保険の募集を行うことを想定した契約であり、学歴や経験を問わず、事業所単位で締結されるものであって、歩合給を中心とした給与体系が採用されており、売上げが挙げられないときは解雇され得る代わりに、売上げが多額に上れば経験年数等に関わらず高額の収入が得られる内容であったことが認められる。

ウ そして、Xは、2016年上半期にも本件基準を下回り、その際は本件規定に基づく解雇をされなかったが、その際、当該取扱いは1回限りである旨を告げられていたことが認められ、2020年下半期はそれにもかかわらず本件基準を下回ったものである。

エ Xの査定AAPの推移を見ると、2014年以降は、2018年下半期を除いて、いずれの期間においても査定AAPが350万円以下にとどまっており、2020年下半期の成績が例外的に低かったという見方をすることもできない。また、Xの2020年下半期の査定AAPの数値は約75万円にとどまり、本件基準をごく僅かに下回ったというものでもない

オ これらの事情を考慮すれば、本件解雇が社会通念上相当性を欠くものとも認められない。

(3)小括

 以上によれば、本件解雇は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当性を欠くものとはいえず、有効である。

(4)Xの主張に対する検討

ア 解雇事由の重大性等について

(ア)Xは、2020年下半期の成績が本件基準に達しなかったことは労働契約の履行に支障を生じさせるようなものではなく、反復・継続的に本件基準を下回っていたものでもない旨や、Xが2020年下半期に本件基準を下回ったのは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって営業活動に支障が生じたことが原因であり、解雇事由が重大であるともいえない旨を主張する。

(イ)しかし、Yにおいて、CT社員はもっぱら保険契約の募集を担当することが予定されていたところ、Yが、営業成績の如何に関わらず基本給や保障給を支払う義務を負う雇用契約を継続するに当たり、従業員に対して一定の売上げを挙げることを条件とすることに必要性、合理性が認められることは、前示のとおりである。

また、Xは、2016年上半期にも本件基準を満たさなかったことがあり、その他の期間も査定AAPが350万円を下回る程度の結果が続いていたから、2020年下半期の結果が例外的なものと見ることはできないし、Yにおいては、全社でも大阪オフィスでも、2020年下半期は前年の同期間と同等の売上げを記録しているから、新型コロナウイルス感染症の感染拡大がXの成績に影響を与えたとしても、2020年下半期の成績がやむを得ないものであったと評価することはできない。

イ 事前の指導や注意等について

(ア)Xは、本件解雇にあたり、Yが事前の注意、警告、教育指導をしていない旨を主張する。

(イ)しかし、本件解雇がされた2021年1月の時点において、Xはアリコ及びYに10年近く勤務していたのであり、その間、営業成績の向上に関して自ら教育指導を受ける機会は十分にあったと考えられる。また、査定AAPの値は自らのコンピュータ等で確認できたことが認められ、Xは、2020年下半期に成績手当を受給していないから、期間中の新規獲得保険契約の保険料が低調であったことは、期間中に容易に理解し得たと考えられる。現に、Xは、2020年11月頃には、危機感を感じていたことが認められ、Xは、査定AAPが本件基準を下回る見通しであることを事前に把握していたものと認められる。

以上によれば、Xの前記主張を採用することはできず、これによって本件解雇が権利濫用に当たるということはできない。

ウ 職種変更について

(ア)Yは、本件雇用契約に職種限定の合意はなく、Yは、Xに対し本件解雇の前に職種変更を検討すべきであった旨を主張する。

(イ)確かに、Yの就業規則には転勤、職務及び職場の変更を命ずることができるものとされているから(就業規則37条)、Yは就業規則上、配置転換をする権限を留保していたものと認められる

しかし、CT社員の給与は、月10万円の基本給と最低賃金を確保するための保障給のほかは、獲得した保険料に応じた手当が中心とされ、また、CT社員は直行直帰が幅広く認められるなど、比較的自由な営業活動を行うことが認められる。仮にCT社員を、保険の募集を行わない部署に配置転換すれば、労働時間管理は厳しくなるのに対して、賃金は基本給月額10万円及び最低賃金法所定の賃金が支払われる程度にとどまることとなるのであって、その不利益の程度は大きいということができる。そして、Xは、保険営業を行うCT社員の募集に応募して本件雇用契約を締結した者である上、前記のとおり2020年11月頃には強い危機感を感じていたことが認められるが、上司に対して配置転換の要望を出していない

このような配転がもたらす労働条件への影響及びXの要望がなかったことを踏まえると,Yが本件解雇前にXを配置転換しなかったことを考慮しても、本件解雇が権利濫用に当たると解することはできない。

エ 小括

その他、Xの主張を検討しても、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き、又は社会通念上相当性を欠くものとして、権利濫用に当たり無効になるとは認められない。 

3 結論

以上によれば、本件解雇は有効であったと認められるから、Xの請求にはいずれも理由がなく、争点2については判断を要しない。

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