2023年1月24日火曜日

学校法人常磐大学事件・水戸地判R4.9.15・ジャーナル130-14

パワハラによる1年間の停職懲戒処分の無効主張 無効と判断

****** 優越的地位の認定の実質性

パワハラとは、就労における優越的な関係を背景とする言動であり、業務上必要かつ相当な範囲を超えており、労働者に身体的又は精神的苦痛を与えるものを意味すると解されるところ、cは、本件学科において、学科長の役職にあり、本件規程15条1項に基づき、学科教員である原告を指導すべき立場にある。そして、たとえcにおいて原告が本件学科の最古参の教授であり、指導しづらいと感じていたとしても、当時、原告がそのような立場から事実上の影響力を行使できたなどという事情はうかがわれず(むしろ、平成28年度から原告に代わってcが学科長となり、原告は学科教員となったことから、本件大学での原告の立場は危うい状況にあったことがうかがわれる。)、これはあくまで心理的・心情的な事情に過ぎないものであるから、原告がcに対して優越的な関係にあったということはできない

****** 管理職を批判を甘受すべき立場

しかし、いずれのメールの内容も以上の限度に止まっており、学科の管理職者である学科長として学科員から学科の運営に関する質問や指摘、批判を受けることは基本的には甘受すべきものであり、cとしても、原告からの質問や指摘、批判に必要な限度で対応すれば足りるものである。また、関連する職員にも併せて送信することについても業務上関連する以上、不必要ないし不相当ということはできないし、それだけで学科長であるcが「さらし者」になるということも考え難い(cによれば、自身が再課程認定に向けて学科長としてなすべきことをしていたという認識であったから(証人c)、なおさら「さらし者」になるということは考え難い。)。「甚だ遺憾」、「責任回避」といった表現についても、学科長であったcの対応を批判する趣旨を超えるものではなく、パワハラには当たらないというべきである。仮に原告による度を超えた批判等があれば、cは、本件学科の管理職者である学科長の立場として原告に指導・注意して改善を促すべきであり、そのような指導・注意をしていないにもかかわらず(証人c)、学科の運営等に関して学科長を批判したことなどを理由に原告を懲戒処分にすることは、合理性を欠くものと言わざるを得ない。

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fに対するハラスメントは、仮にこれが事実であったとしても、本件懲戒処分の時点で既に約10年が経過しており、遅くとも本件懲戒処分の約8年前には当時の被告の学長もfの訴えを同人作成の手紙により認識していたが、これに対して何らかの対応をしたことはうかがわれない。

fの件について、少なくとも約8年間にわたり何ら調査、処分等がされていなかったにもかかわらず、本件に係るハラスメントの申立てをきっかけに突如として被告がこれを問題視することは、使用者として一貫性を欠く恣意的な対応と言わざるを得ず、これを停職という重大な処分の懲戒事由として主張することは失当というべきである。 

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原告も、学生に対して保育士になってほしくないとか、保育士に向いていない、学校を辞めたほうがいいなどと言ったことがあることを認めている。しかし、そのような発言をするのは学生が勉強を放棄していたり、注意を受入れなかったりするときにやる気を出させるような場合に限られる旨を供述しているところ、このような指導がされたからといって、威圧的であったり、侮辱的なものでない限り、許されない指導とまで断じることはできない(仮に被告としてこのような指導が適当でないと考えるのであれば、事前に原告に対してその旨を注意喚起すべきである。)。

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被告において、1年間の停職は、本件就業規則で定められている停職期間の上限であり、懲戒解雇、論旨解雇に次いで重い懲戒処分ということができ、これにより労働者は停職期間である1年間給与の支給を受けられないことになり、解雇に匹敵するような重大な影響を与えることから、そのような重大な懲戒処分が正当化されるには、それに見合うような事由が存在することを要するものと解される。

そして、パワハラが、暴力行為や暴言のように明らかに違法行為に当たる場合であればともかく、本件大学の教員や学生に対する指導等として過剰ないし不相当であるなどの程度に止まるものであれば、それを指導・注意して改善の機会を与えて、それにもかかわらず改善が見られないような場合にはじめて重大な処分に及ぶことが正当化されるというべきである。

本件において、cが、平成28年の1年間に5人の学生(gとhを含む。)と保護者から原告に関する訴えがあったため,当時の副学長同席の下、原告に対し、その旨を伝えて注意喚起をしたことが認められるが(乙2、証人c、原告本人)、この際、原告に対し、具体的にどのような指導・注意をしたかまでは明らかでない。また、その他の機会に、原告に対して個別に教員や学生に対する指導等につき指導・注意したとは認められない。そうすると、従前、原告に対して教員や学生に対する指導等につき改善を要する旨の指導・注意が十分にされていたということはできない

これに加えて、従前、原告に対して譴責や減給等のより軽微な懲戒処分やそれに満たない訓告等がされたこともなかったにもかかわらず、突如として1年間の停職という重大な懲戒処分をすることは、原告に対する不意打ちであり、合理性を欠くものと言わざるを得ない。 

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