2023年1月24日火曜日

バイオスほか(サハラシステムズ)事件・東京地判H28.5.31・労判1275-127

 派遣法33条違反の契約の有効性 無効と判断

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労働者派遣法は,労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を構ずるとともに,派遣労働者の保護等を図り,もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする(1条参照)。そして,労働者派遣法33条1項は「派遣元事業主は,その雇用する派遣労働者との間で,正当な理由がなく,その者に係る派遣先である者に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない。」と,同条2項は「派遣元事業主は,その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者との間で,正当な理由がなく,その者が当該派遣労働者を当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならない。」とそれぞれ規定するところ,これらの規定の趣旨は,派遣元事業主と派遣労働者との間又は派遣元事業主と派遣先との間で,派遣元事業主との雇用関係の終了後に派遣労働者が派遣先であった者に雇用されることを制限する趣旨の契約を締結することが無制限に認められることになると,派遣労働者の就業の機会が制限され,憲法22条により保障される派遣労働者の職業選択の自由が実質的に制限される結果となって,労働者派遣法の立法目的にそぐわなくなることから,派遣元事業主と派遣労働者の間又は派遣元事業主と派遣先との間において,そのような契約を締結することを禁止し,もって派遣労働者の職業選択の自由を特に雇用制限の禁止という面から実質的に保障しようとするものであって,労働者派遣法33条に違反して締結された契約条項は,私法上の効力が否定され,無効であると解される

 もっとも,その一方で,派遣先であった者が派遣労働者であった者を無限定に雇用できることとすると,派遣元事業主が独自に有し,他の事業主は有しない特殊な知識,技術又は経験であって,派遣労働者が派遣就業をする上で必要であるため当該派遣元事業主が特別に当該派遣労働者に習得させたものがある場合にも,雇用契約終了後は当該派遣労働者が派遣先と雇用契約を結んでそうした特殊で普遍的でない知識等を勝手に利用することが可能となる結果,特殊で普遍的ではない知識等を有することによる当該派遣元事業主の利益が侵害される事態が発生しかねない。そこで,労働者派遣法33条は,そうした知識等を有することによる当該派遣元事業主の利益を保護するといった正当な理由がある場合に限り,上記の雇用制限の禁止を解除することとしたものと解される

 以上によれば,上記の雇用制限をすることは原則として禁止され,これに反して結ばれた雇用制限条項は無効であるが,当該雇用制限条項を設けることに正当な理由があることの主張立証があった場合に限り,例外的にその禁止が解除されて当該雇用制限条項の効力が認められることになると解される。

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原告の主張(平成24年9月11日付け原告準備書面1,平成25年6月24日付け原告準備書面4等参照)によっても,被告P2がCTC社から受けた研修は,CTC社がその従業員に対する教育のために実施していたのと同様のものであって,CSJ社のコンピュータシステムの保守点検業務を想定した個別具体的な研修であり,元来はCTC社が有償で実施するものであったというのであるから,原告以外の使用者の下であっても習得可能なものであったといえ,原告独自の普遍的でない知識等を習得させるものでないことは明らかである。そうすると,そのような研修を被告P2が受ける間の給与を原告が支払い,研修のための費用を実質的に原告が負担したとしても,直ちに本件禁止条項Aを設けることにつき正当な理由があるということはできない

 また,被告P2がCTC社のデータベースへのアクセス権限を付与されてOJTを受けたことについても,原告の主張(平成24年11月28日付け原告準備書面2参照)によれば,当該権限はCTC社が付与したものであって,また,当該権限によって閲覧できる情報は,メーカーから販売されている製品を購入して保守契約に関わる料金を支払えば他の者でも閲覧可能なものであるというのであるから,被告P2が当該権限を利用して何らかの知識等を習得したとしても,そのことから直ちに原告独自の普遍的でない知識等を習得したと認めることはできず,本件禁止条項Aを設けることにつき正当な理由があると認めることはできない。

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原告は,本件雇用禁止合意が雇用禁止期間を比較的短期間に限定するほか,被告会社との関係においてのみ制限を課すものである上,原告の書面による事前の承諾がある場合には雇用禁止の制限を除外しており,一律に労働者の職業選択の自由を奪うものでなく,同自由に対する制約が必要最小限度である反面,被告P2らについて,原告からの派遣先の派遣就業場所や業務内容と,被告会社からの派遣先のそれらとが同一であることに鑑みれば,被告会社との関係において原告の企業利益を保護する必要性が格段に高いなどと主張する。

 しかし,退職後6か月間の雇用禁止期間が短期間であるとはにわかに認めることができないし,労働者派遣法33条2項は,派遣元事業主と,その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者との関係,本件に則していえば,原告と被告会社との関係を規律していることに照らして,被告会社との関係においてのみ制限を課すことそれ自体が正に問題とされているのであって,この点に関する原告の主張が失当であることは明白である。その上,原告の主張によっても,保護されるべき原告の企業利益の内実が何であるのか必ずしも判然としないといわざるを得ない。

 そして,むしろ,上記2ないし4において説示したとおり,被告会社が被告P2らを雇用することを禁止することに正当な理由を認めることはできないことに照らせば,他に特段の主張立証もないのに,本件雇用禁止合意をすることに正当な理由を認めることはできないというべきである。

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