2023年1月11日水曜日

第一興商事件・東京高判R4.6.29・ジャーナル129-40

外部階段で足を滑らせた転倒と安全配慮義務違反 肯定

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会社は、本件ビルにおいて本件店舗を経営し、調理担当従業員をして食材の運搬、調理等の業務に従事させていたところ、その業務上の必要から、いわば職場の一部として本件階段を常時使用させるとともに、本件サンダルを使わせていたものといえる。

しかるに、本件階段は、本件ビルの屋外に設置された外階段であって、雨よけ等の屋根がなく、雨に濡れる場所にあったところ、会社は、調理担当従業員をして、食材やごみを運搬するなどのため、3階店舗の玄関で土間に降りさせ、本件サンダルを履かせて本件階段を降りさせていたものである。

このような状況の下、控訴人の前任者Pは、平成28年ないし同29年頃、会社の用意したサンダルを履いて本件階段を降りていた際、雨で濡れた本件階段で足を滑らせて転倒し、本件店舗の現場責任者であるQ店長は、その直後に現場を見て、Pの転倒の事実を把握していたものである。

また、本件事故の直前に、Rは、ごみを出しに行くため、本件サンダルを履き、発砲スチロール等を両手に持った状態で本件階段を降り始めたところ、滑ったものの転倒せず、その後は慎重に本件階段を降りたにもかかわらず、再び滑って転倒し、でん部を階段の角にぶつけているし、本件事故のあった月の翌月にも、Sは、本件サンダルを履いて本件階段を降りた際、足を滑らせて転倒している。

このような事情の下では、本件事故時において、調理担当従業員が、降雨の影響によって滑りやすくなった本件階段を、裏面が摩耗したサンダルを履いて降りる場合には、本件階段は、調理担当従業員が安全に使用することができる性状を客観的に欠いた状態にあったものというべきである。

それにもかかわらず、会社は、調理担当従業員に、降雨の影響を受ける本件階段を、その職場の一部として昇降させるとともに、裏面が摩耗した本件サンダルを使わせていたものである。

しかるところ、雨で濡れた階段を裏面が摩耗したサンダルで降りる場合には、滑って転倒しやすいことは容易に認識し得ることである上、本件事故が発生する以前に、本件店舗の現場責任者(Q店長)も、調理担当従業員であるPが本件階段で転倒した直後に現場を見て、同人が転倒した事実を把握していたというのであるから、会社は、上記の場合において、業務中の調理担当従業員が、本件階段で足を滑らせて転倒するなどの危険が生ずる可能性があることを、客観的に予見し得たものというほかない

そして、会社において、そのような危険が現実化することを回避すべく、本件事故発生以前において、本件階段に滑り止めの加工をしたり、降雨の際は滑りやすい旨注意を促したり、裏面が摩耗していないサンダルを用意したりするなど、労働者を含む調理担当従業員が、本件階段を安全に使用することができるよう配慮する措置を講ずることは、会社自身が、本件事故発生以後においてではあるが、実際に行った措置であることに照らしても、十分可能であったというべきである。

そうである以上、会社は、本件事故時において、上記のような危険が現実化することを回避すべく、上記のとおり、調理担当従業員に対して本件階段の使用について注意を促したり、本件階段に滑り止めの加工をしたりするなどの措置を講じ、控訴人を含む調理担当従業員が、本件階段を安全に使用することができるよう配慮すべき義務を負っていたものと解するのが相当であるところ、会社において、本件事故時、上記の義務を履行するために、何らかの安全対策を採っていたことを認めるに足りる証拠はないから、会社は、労働者に対する安全配慮義務に違反したものといわざるを得ない。

そして、本件階段への滑り止めの加工等の措置の性質・内容に、会社が、本件事故後上記のような安全対策を施した後は、本件階段で足を滑らせて転倒した調理担当従業員が存することが本件証拠上うかがわれないことも併せ考慮すれば、会社が上記義務を尽くすべく安全対策を採っていれば、本件事故の発生を防止することができたことが認められる

そうすると、会社は、上記安全配慮義務違反によって、労働者をして、本件階段で足を滑らせて転倒させ、その右手、腰部等に本件傷害を負わせたものというほかない。

以上によれば、会社は、労働者に対し、上記安全配慮義務に違反したことによる損害賠償義務を負担するものというべきである。

会社反論と裁判所の否定

会社は、労働者においては、本件事故時、自らの足元を十分に注意して見て足を運ぶという注意を怠っており、本件事故の直接の原因は、控訴人の不注意にある旨主張する。

→ しかし、労働者において、本件事故時、上記注意を怠っていたことを前提としても、これを、過失相殺を基礎付ける事情として考慮することはともかく、労働者が上記注意を怠ったことから当然に、会社の安全配慮義務違反が否定されるものではない。

会社は、いわゆる業務起因性が認められる労働災害であっても、当該事故や負傷についての使用者の安全配慮義務違反が認められるかは別の問題であるし、厚木労働基準監督署又は静岡労働局作成の書面(甲42、43)は、そもそも想定されている場面が大きく異なる(室内など本来的に濡れない場所と、本件階段のように屋外にある階段とでは、床面の水を除去すべき必要性は大きくなる。)旨主張する。

→ しかし、いわゆる業務起因性と安全配慮義務違反の有無とが別の問題であるとしても、前記説示のとおり、本件においては会社による安全配慮義務違反が認められるものである。また、本件では、会社は、その業務上の必要から調理担当従業員に本件階段を常時使用させていたものであり、屋外であるか屋内であるかは前記説示を左右するものではない。さらに、前記説示のとおり、本件における安全配慮義務の内容としては、本件階段に滑り止めの加工をしたり、降雨の際は滑りやすい旨注意を促したり、裏面が摩耗していないサンダルを用意したりするなどの措置を採ることが考えられるものであり、床面の水を除去する措置が問題となるものではない。

会社は、労働者ら従業員に対し、本件サンダルの使用を義務付けているものではないこと、甲4サンダルは労働者が本件事故時に着用していた本件着用サンダルとは認められず、また、甲4の写真も本件事故直後に撮影されたものではないこと、甲4サンダルをみても凹凸の存在がはっきりと確認できることを指摘し、本件サンダルが会社の安全配慮義務違反を根拠付けることはない旨主張する。

→ しかし、前記説示のとおり、会社は、調理担当従業員に対し、その業務上の必要から本件階段を常時使用させるとともに、本件サンダルを使わせていたものである以上、会社が、本件サンダルの使用の義務付けまではしていないとの理由で、前記説示の安全配慮義務違反を免れるものではない。また、甲4サンダルは、会社が本件店舗に備付けていた2、3足のサンダル(本件サンダル)のうちの一足を、労働者が本件事故の約1週間後に持ち帰ったものであるところ、上記2、3足のサンダルが、サンダルごとにその性状が異なっていたこと等をうかがわせる事情は認められず、甲4サンダルも、本件着用サンダルの性状を示すものと合理的に推認することができる。また、甲4サンダルは、労働者が上記のように持ち帰ったサンダルを、その約10箇月後である令和元年6月に撮影したものであるところ、その間に使用がされ、又は何らかの改ざんが施されたことをうかがわせる事情は認められない。さらに、甲4サンダルの裏面には、確かに凹凸はあるものの、かかと部分やつま先部分の凹凸が薄くなっており、摩耗している状態となっていることが認められる。

会社は、本件事故時、他の従業員が転倒した事例は把握しておらず、また、労働者の主張を前提にしたとしても、平成28年頃から平成30年9月にかけて計4名の従業員が各1回転倒したという程度であり、その転倒原因についても、いずれも、本件階段の状態をよく認識せず、足元を十分に注意して見て足を運ばなかったことがうかがえる旨主張する。

→ しかし、前記説示のとおり、本件事故が発生する以前に、本件店舗の現場責任者であるP店長が、Qが本件階段で転倒した直後に現場を見て同人の転倒の事実を把握した以上、仮に会社内部において同現場責任者からの報告が上がっていなかったとしても、会社が、従業員の転倒事例を把握していなかったとしてその安全配慮義務違反の責任を免れることはできない。また、前記説示のとおり、本件事故を含めその前後において、判明しているだけでも、労働者を含む4名もの調理担当従業員が本件階段で転倒しており、また、証拠(甲24、39、原審における証人Aの証言、原審における控訴人本人の供述)及び弁論の全趣旨によれば、調理担当従業員以外の者が本件階段で転倒した事実がうかがわれることにも照らすと、従業員等の安全に配慮すべき立場にある会社において、本件階段における転倒の危険性を軽視することは許されないものというべきである。さらに、少なくとも4名もの調理担当従業員が転倒していることについて、その全ての転倒事例が従業員側の不注意によって発生したものとは通常は考え難いし、仮にこれらの者に不注意があったとしても、そのことから直ちに、会社における安全配慮義務違反が否定されるものともいえない。

被控訴人は、本件階段は屋外にあり、また屋根がないことから、雨が降れば床面が濡れることは一見して明らかであり、また、本件サンダルを履いていれば、靴を履いている場合に比して足元が安定しないことは、一般的に認知されている事項であるから、被控訴人において調理担当従業員に対し格別の指示や教育をすることは必要なかった旨主張する。

→ しかし、調理担当従業員において、会社が主張する上記事項を十分認識し得たとしても、会社においても同様に、上記事項を十分に認識し得たというべきである。そして、会社は、前記説示のように、本件ビルにおいて本件店舗を経営し、調理担当従業員をして食材の運搬、調理等の業務のために、本件階段を常時使用させるとともに、本件サンダルを使わせていたものである以上、調理担当従業員らの使用者として、同従業員の安全を確保するために、上記のような認識に対応する安全対策を採るべき義務を免れるものではない。

その他、会社は、被控訴人による安全配慮義務違反は存しない旨を種々主張するが、そのいずれをみても、前記説示を左右するに足りるものではない。

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地裁は請求棄却・高裁で逆転

過失相殺4割

損害額

(障害慰謝料140万円+休業損害96万2202円+後遺障害逸失利益329万7598円+後遺障害慰謝料110万円)=675万9800円

675万9800円×0.6(4割過失相殺)=405万5880円

405万5880円-112万8848円(労災保険給付金)=292万7032円

弁護士費用29万円

合計321万7032円

+29万円(弁護士費用)

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