2023年1月11日水曜日

大成建設事件・東京地判R4.4.20・ジャーナル129-50

研修費用返還請求と労基法16条 違反しない

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労基法16条が、使用者に対し、労働契約の不履行について違約金を定め又は損害賠償額を予定する契約の締結を禁じている趣旨は、労働者の自由意思を不当に拘束して労働契約関係の継続を強要することを防止しようとした点にあると解される。したがって、本件消費貸借契約が労基法16条に反するか否かは、本件消費貸借契約が労働契約関係の継続を強要するものであるか否かによって判断するのが相当である。

本件についてこれをみると、

被告における社外研修制度の下では、応募・辞退は任意であると定められており、原告も、陸上設計室長らの勧めがあったとはいえ、自らの意思で本件研修への参加を決意したものであって、本件研修に参加するよう、強制されたり、指示されたりしたものではない。

また原告は、本件研修要領が定める目的に沿うように、研修テーマを自ら選定したのであって、研修テーマについて陸上設計室長らの指示を受けたものではない。

そして原告は、研修機関について、上長から具体的なアドバイスを受けたことはなく、自ら選定した大学を受験し、履修科目についても、自ら選択したものである。

さらに本件研修は、令和元年8月までの予定であったところ、同年5月に同年8月までに修士課程を修了することが困難であることが判明したとして研修期間の延長を希望したのは原告であり、延長に難色を示した上長と調整の結果、研修期間の延長が実現したものである。

次に、原告が本件研修において履修した科目には、インフラストラクチャーシステムマネジメントや、ビルディングインフォーメーションモデリングなど、建設業を営む被告における業務と関連性を有する内容が含まれるものの、会計基礎論やファイナンス基礎論、オーラルコミュニケーション、法律・紛争解決・交渉などの汎用性が高いと考えられる科目も多く含まれる。

そして原告が、本件研修を通じて、本件研修校において、別紙履修科目一覧記載の各科目を履修し、修士課程を修了したことは、原告のキャリア形成に有益であることは否定し難く、本件研修は、被告以外での勤務において通用する知識、経験や資格の獲得に寄与したというべきである。

また、本件消費貸借契約は、労働契約とは別に、書面により締結されたものであり、その詳細は規程及び規則に定められているところ、本件消費貸借契約に基づく貸金返還債務は、社員の申し出による合意退職、休職期間の満了、諭旨解雇又は懲戒解雇の事由がない限り、復職後5年を経過した時点で免除される(規程10条2項)のであるから、免除までの期間が不当に長いとはいえず、免除の基準が不合理であると評価することもできない。

そして本件消費貸借契約に基づき返還すべき本件研修費用の金額(合計952万7533円)は、米国の大学における修士課程の修了に要する授業料や教材費、住居費等の合計額として、本件研修への応募や延長を申し出た時点で十分に予測し得る範囲にとどまっているといえるし、原告の収入額(月額50万7200円、年収829万9285円)に照らしても、返還を求めることが不当に高額であるとまではいえない

以上のとおり、

〔1〕本件研修は、応募や辞退、研修テーマ・研修機関・履修科目の選定が原告の意思に委ねられていたこと、

〔2〕本件研修は、汎用性が高い内容を多く含むものであり、原告個人の利益に資する程度が大きいこと、

〔3〕貸与金の返済免除に関する基準が不合理とはいえず、返済額が不当に高額であるとまではいえないこと

からすると、本件消費貸借契約が労働契約関係の継続を強要するものであるとは認められない。

したがって、本件消費貸借契約は労基法16条に違反するとはいえない。

原告の反論と裁判所の否定

本件研修期間中、

〔1〕海外勤務者と同等の待遇で給与の支払を受けていたこと
〔2〕業務課題を提出し、業績評価を受けたこと → 被告における社外研修制度の下では、社外研修生は、研修期間中休職と扱われ(規程7条2項)、労務提供に対する対価としての給与が支払われないため、被告は、社外研修生の生活保障の観点から、海外勤務者に対する給与と同等の給付(ただし、規程8条(2)ただし書所定の手当を除く。)を行うとともに、社外研修生に対して賞与と同等の給付を行うために業績評価を行っていたと認められる

〔3〕Eラーニングを義務付けられていたこと → 原告が本件研修期間中に受講したEラーニングは、休職中の者を含む全社員を対象とし、服務規律遵守を目的とした、毎月十数分程度のものにとどまる。

〔4〕セメスターごとに大部にわたる報告書を提出していたこと → 原告が被告から報告書の記載内容について指示されたり、訂正を求められたりした形跡はうかがわれない上、報告書が被告における業務に直接に用いられたと認めるに足りる証拠もない(なお、甲56の1・2によれば、原告が被告に提出した報告書の一部が、陸上設計室の課長が主催する専門委員会と称する会合において共有されたことがうかがわれるものの、本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても、同会合がいかなる性格を有するものであるか、明らかでない。)。

〔5〕新型コロナウィルスの感染拡大を受けた緊急帰国について指示を受けたこと → 休職期間の延長や社員の安全確保に関わる人事管理の観点からされたものにすぎない。

 したがって、原告が主張する上記各事情を踏まえても、本件研修を原告による労務の提供と同視することはできず、原告の主張を採用することはできない。

原告は前記に加え、〔1〕米国からの帰国に際しての被告の一連の対応をきっかけとして、被告との信頼関係が失われ、本件退職に至ったこと、〔2〕被告が仮差押えを申し立てたことなどをも主張するが、原告が主張するこれらの事情は本件消費貸借契約の効力を左右する事情であるとはいえず、採用の限りでない。

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免除期間5年で、年収+アルファの返還請求が認められている

本件は相殺合意による相殺も認めている

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