2023年6月26日月曜日

グッドパートナーズ事件・東京地判R4.6.22労経速2504-3

 2 争点1(更新に対する合理的期待の有無及びその期間)について

(1)2019年3月31日時点での更新の期待について

ア 本件契約に係る契約書には、更新があり得る旨の記載があったところ、Yの職員であるEは、2019年2月21日、Xに対し、本件契約が更新されるとの内容の本件メールを送信したものである。

本件メールは、本件契約の更新が確定したことを内容とするものであるから、これを受信したXにおいて、初回の契約満了時である同年3月31日の時点において、本件契約が更新されることについて強い期待を抱かせるものであったということができる。そうすると、Xには、同日時点において、本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる。

(略)

(2)2019年5月31日時点における更新の期待について

ア Xは、2019年3月31日時点だけでなく、それ以降の契約更新についても合理的期待が生じている旨主張する。

しかしながら、本件メールの内容は、2か月間と期間を明示して、本件契約の更新が確定したことを内容とするものであり、2019年6月以降の更新について期待を生じさせるような内容ではなかったというべきである。

そして、本件メール以外に、Yにおいて同月以降の更新につき期待させるような言動があったと認めるに足る証拠はなく、本件契約を締結した当初において、長期にわたる更新が予定されていたことを窺わせる事情も認められない。加えて、本件雇止めが本件契約の初回の更新時にされたものであり、雇用継続に対する期待を生ぜしめるような反復更新もされていなかったことからすると,本件メールに記載のない二度目以降の契約更新について、Xが更新を期待することに合理的な理由があったと認めることはできない。

イ Xは、業務内容や事業の特殊性から、本件契約は長期にわたる更新が前提となっていた旨主張するが、当該主張は一般的な介護業務・事業の性質をいうものにとどまる上、本件契約における業務の内容や事業の性質が、本件契約が原則として更新されることが予定されていたといえるだけの実質を備えていたと認めるに足りる証拠もない。就業規則(甲9)に試用期間が1か月と定められているからといって、実質的には無期雇用が前提とされていると評価することもできず、Xの上記主張は、2019年6月以降の契約更新を期待することに合理的な理由があることを基礎づけるものとはいえない。 

 また、Xは、本件契約の手続が簡便であることをもって、長期にわたる契約更新の合理的期待があった旨主張するが、本件メールの内容(認定事実(2))からは、本件契約の更新について契約書の作成が行われていたことが認められるのであって、契約更新について一定の手続がとられていたものといえるから、再面接が行われないことをもって同年6月以降の契約更新を期待することに合理的な理由があるとはいえないというべきである。

 他に前記アの結論を左右するに足る事情は認められず、Xの主張は採用できない。

(3)したがって、Xについては、本件契約が2019年5月31日まで継続すると期待することについては合理的な理由があるものと認められるが、同年6月1日以降については、契約更新を期待することについて合理的な理由があるとは認められない。

3 争点2(本件雇止めに合理的理由があるか否か)について

(1)Yは、本件雇止めの理由として、Xは自慢話等の不要な話が多いことや、Xのこだわりが強く、対応に時間を取られていたことを主張するところ、乙1の2には、2019年2月4日の欄にXに50分対応したとか、同月5日の欄にXと20分話をしたとの記載がある。また、証拠(甲12)によれば、同年3月13日に実施されたXとCの個人面談において、Cが「Aさんに割く時間が多すぎる。」(甲12・No695)と述べたことに対して、Xが「まあ最初はそうでしたね。」(同・No697)と認めているなど、Xとの対応について、Cが一定の時間を割いていたことが窺える。

しかしながら、CがXの対応のために時間を割いていた事実があったとしても、それによってCないしYの業務に具体的な支障が生じていたことを裏付ける客観的な証拠はない上、上記2回の他にどのような業務と無関係な話があったのか(Xがいつ、いかなる内容の話を、どの程度したか等)や、Xが気難しく対応に時間がかかったことを裏付ける具体的な事情(Xのどのような言動により、どのような対応をすることになったのか等)については、Yが提出する証拠上も具体的な記載が見当たらない。また、証拠上、YがXに対し、本件雇止めの方針を伝えた同月6日以前において、業務と関係のない話をやめるよう指導した事実も認められない。

加えて、前記のとおり、Yにおいては、本件メールを送信した同年2月21日の時点においては本件契約を更新するとの判断をしていたものであり、少なくとも同日以前のXの行為について、契約更新をしないだけの事情があるとは捉えていなかったものと認めるのが相当である。

以上からすると、上記事情は、本件雇止めの客観的に合理的な理由に当たるものとは評価できず、Yの主張は採用できない。

(2)Yは、Xが事故等の報告をしなかったことをもって雇止めの合理的な理由として主張する。

しかしながら、Yの主張する事情のうち、転倒事故や誤薬投与に係る行為については、Yの主張からもその具体的な態様が明らかでない。

この点、証拠には、2019年2月12日の欄に、同月8日の転倒事故についてXから連絡があった旨の記載があるものの、同日の記載部分において、Xに問題視するような報告懈怠があったとの判断をYがしていたことを窺わせる記述はないし、またXに報告しなかったことについての指導がなされた形跡も見当たらない。

また、同証拠の同月21日の欄の下部には、「初日に利用者の薬を別の人と間違えて飲ませてしまったようだが、上記のメモに残ってないかったので、念のため残しておきます。」との記載があるが、当該記載からは、Xが誤薬投与について報告しなかったことまでは読み取れず、この記載をした時点でXに対して何らかの注意指導がなされた形跡もない。

そして、同年3月13日にXとCとの間で行われた個人面談において、Cは、「Aさんは入社してから何度も何度も連絡してくる中で、私いつも何かあったら報告してくださいって言ってたじゃないですか。何で今回の件だけ報告なかったんですか。」などと、本件通報行為について事前に報告しなかったことを問題視する発言をしたものであるが、証拠によれば、この時、Cが転倒事故や誤薬投与に係るXの報告懈怠について言及した事実は認められない。

加えて、前記(1)と同様、本件メールを送信した時点では、Yは本件契約を更新するとの判断をしていたことをも踏まえれば、上記事情は、本件雇止めの客観的に合理的な理由に当たるものとは評価できないというべきであり、Yの主張は採用できない。

(3)以上によれば、本件雇止めについて、客観的に合理的な理由があるとは認められない。

前記のとおり、Xは2019年4月1日の契約更新に限り合理的な期待があると認められるから、Xについては、2019年5月31日までの間、労働契約上の権利を有する地位にあったことが認められる。

4 争点3(Xにおける就労意思の有無)について

Yは、Xが2019年4月の時点で再就職していたこと等をもって、Yでの就労意思を喪失していた旨主張する。

しかしながら、一般的に雇止めされた労働者が、当該雇止めの効力について争う場合において、生計維持のために新たな職を得ること自体はやむを得ない面があり、他社への就職をもって直ちに元の就労先における就労意思を喪失したと認めるのは相当でない

また、前記のとおり、Xは、本件雇止めの後、同月10日付けで、Yが確定していた契約更新を覆したことを不服とする内容の「通知書」を送付し、その後、あっせんの申立てを経て、2019年7月には労働審判手続の申立てをしているのであり、一貫して本件雇止めの効力を争う姿勢を見せていたことも踏まえると、Xが復職について具体的な提案等をしなかったからといって、Xが就労意思を喪失していたと認めることはできない。

よって、Yの主張は採用できず、XはYに対し、2019年4月分及び2019年5月分の賃金請求権を有するというべきである。

5 争点4(中間収入控除後の賃金額)について

(1)XがYによる労務提供拒絶後に他社で得た収入については、民法536条2項に基づき使用者たるY会社に償還すべきであるところ、その控除額の上限については、労働基準法26条の趣旨にかんがみ、平均賃金の4割を限度とすべきものと解される(最判昭和37年7月20日・民集16巻8号1656頁)。

弁論の全趣旨によれば、XがYに対して有する2019年4月分及び2019年5月分の賃金額は、夜勤1回分当たり3万3600円、夜勤回数1月当たり10回、月額33万6000円であること、Xは2019年4月16日以降、別会社において夜間専従の介護福祉士として稼働し(なお、同日から同月30日までの間における夜勤の回数は5回である。)、月額25万6810円を超える収入を得ていたことが認められる。

(2)以上を踏まえ、中間収入控除後の賃金額を計算すると、次のとおりとなる。

ア 2019年4月分

前記のとおり、Xが別会社で稼働したのは同月16日から同月30日までの間の5日(夜勤の回数であり、暦日にして10日)である。よって、稼働日のうち、夜勤5回分については控除が認められないが、5回分については控除が認められる。

そうすると、中間収入控除後の同月の賃金額は、次の合計額である24万7190円である。

3万3600円(夜勤1回当たりの金額)×5回=16万8000円

7919円(1日当たりの平均賃金額の6割)×10日(暦日)=7万9190円

イ 2019年5月分

7919円×20日(暦日)=15万8380円

6 争点5(Xの請求が権利濫用に当たるか否か)について

Yは、Xにつき法的保護に値する利益がない旨主張するが、本件雇止めが無効となれば、Xにおいては、更新の期待が認められる期間における賃金請求(ただし、中間収入控除後のもの)ができるのであり、かかる請求をすることは法的保護に値する。他にXの請求が権利濫用に当たることを裏付ける事情は認められず、Yの主張は採用できない。

7 争点6(本件雇止めに係る不法行為の成否及び損害額)について

(1)前記認定のとおり、Yは、2019年2月21日に本件メールを送信した時点においては、本件契約を更新することを確定していたものの、同年3月6日の時点では、本件契約を更新しないことなどをXに告知し、本件雇止めに至ったものである。

そして、本件メールの送信から本件雇止めの方針を告知するまでの間には、Xが本件通報行為を行ったこと以外に、Yにおいて一度決定した契約更新の判断を覆し、契約更新をしないとの判断に至るような特別の事情は認められない。また、同月13日に実施されたXとCとの個人面談において、Cが、本件通報行為の前にXがYに報告をしなかったことを問題視する発言をし、Xが「結局私の中で、何か落ち度があったのかっていう。クビになるほどの落ち度が。通報の件で話大きくなっちゃったって部分はありますけど。」と言うと、Cは「それも含めてですよ。それだけが理由じゃない。」と述べるなど、本件通報行為に係る事情が本件雇止めの一因となっていることについて認める趣旨の発言をしていたこと、前記3において判示したとおり、本件雇止めの理由としてYの主張する事情は、いずれも客観的に合理的な理由とは認められないことからすると、本件雇止めは、実質的には、XがYに報告することなく、本件通報行為に及んだことを理由としてなされたものと認めるのが相当である。

(2)上記を踏まえて、本件雇止めに係る不法行為の成否及び損害額について検討するに、一般に、雇止めによって生じた精神的苦痛については、雇止めが無効であるとして、労働契約上の地位が確認されたり、雇止め後の賃金が支払われたりすることによって慰謝されるのが通常であり、侵害行為の悪質性等によって特段の精神的苦痛が生じたものと認められない限り、不法行為に基づく慰謝料を請求することはできないと解するのが相当である。

(3)Xは、本件虐待行為を現認して本件通報行為を行ったものであり、当該行為は高齢者虐待防止法に基づく正当な行為であるから、本件雇止めは違法である旨主張し、Yは、本件虐待行為の実在は疑わしく、本件通報行為が正当な行為であったとはいえないこと等から、本件雇止めは不法行為に当たらない旨主張する。

そこで検討するに、Xによる本件通報行為の後の面談において、XとC及び本件施設の関係者は、問題となる行為が映っているという防犯カメラの映像を確認したが、X以外の3名は、Xが主張するような虐待行為(利用者を叩いた行為)があることを確認できなかったこと、Xは、上記面談後、江東区の本件通報行為に係る調査の担当者に連絡をし、映像をよく確認するようにとの要望を伝えたこと、その後に行われた江東区の本件施設の訪問調査においては、利用者及び職員からの事情聴取を経て、高齢者虐待の事実は確認できなかったとの結論が出されたことが認められる。そうすると、本件においては、本件虐待行為の存在を裏付ける証拠は、Xの供述(Xが作成した文書を含む。)以外にはないものということができる(なお、上記調査結果には「映像確認及び面接の結果、今後不適切なケアにつながることが懸念されますので留意願います」との記載があることが認められるが、その具体的内容は明らかでなく、この記載をもって本件虐待行為の存在の裏付けとみることは相当でない。)。

この点、高齢者虐待防止法においては、虐待の通報を行う際に客観的な証拠があることは要件となっておらず、使用者において、資料の不存在を理由とする不利益取扱が直ちに許容されるものでないことはいうまでもない。とはいえ、本件についてみれば、不法行為の成否が争われている中でも、上記のとおりXの供述等のほかに本件虐待行為の存在を裏付ける証拠はなく、高齢者虐待防止法に基づく通報についても、虚偽であるもの及び過失によるものについては不利益取扱の禁止の対象から除外されており(同法21条6項)、あらゆる通報が保護されるべきものとされているわけではないことをも踏まえれば、少なくとも不法行為の成否の判断においては、本件虐待行為の実在及びXにおける被侵害利益の有無について疑義があるということができ、加えて、証拠から認められる本件施設の関係者の言動からすると、本件通報行為をしたことそれ自体を殊更に問題視して、Xを排斥しようとする発言は見受けられず、前記のとおりのCの言動からすると、本件雇止めは、本件通報行為をしたことそれ自体ではなく、事前にYに報告することなく当該行為をしたことを理由とするものであるということができるところ(Xは本件通報行為をしたXを排除する目的によるものであると主張するが、これを裏付ける事情は見受けられない。)、事前の報告を求めることの相当性(高齢者虐待防止法上、通報前にいずれかに報告すべき義務はない。)や、報告をしないことを理由とする雇止めが有効となり得るかは別途問題になり得るとしても、本件の事実関係(前記のとおり、Xは本件通報行為を行う前に本件施設の副施設長に本件虐待行為についての報告をしており、Yに対して報告をする時間的余裕がなかったとは認められない。)に照らせば、事前の報告を求めることそれ自体が、Xの権利の行使を殊更に妨げるような違法性の高い行為であるとまでは認め難い

上記諸事情に照らせば、本件雇止めについては、これが無効であることは前記のとおりであるが、その違法の程度が著しいとか、侵害行為が悪質であるとまではいえず、Xにおいて経済的な不利益を填補されてもなお慰謝されるべき精神的苦痛があるとは認められない。他にかかる精神的苦痛が生じたと認めるに足りる証拠はなく、Xの不法行為に基づく慰謝料請求については理由がない。

8 まとめ

以上のとおりであるから、Xの請求は主文第2項の限度で理由がある。

なお、Xは、本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払も求めているが、特段の事情の存する場合でない限り、判決確定後の賃金をあらかじめ請求する必要があるとは認め難いところ、本件全証拠に照らしても、上記特段の事情を是認すべき事情があるとは認められないから、却下するのが相当である。

第4 結論

よって、主文のとおり判決する。なお、主文第2項について仮執行免脱の宣言は相当でない

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