2023年9月27日水曜日

兼松アドバンスド・マテリアルズ事件・東京地判令和 4年 9月21日・労経速2514-26

歓迎会での言動による内定取消し → 有効

**************************************

 イ 本件会食時の言動について

 (ア) 本件会食時の言動のうち、原告が一次会において被告従業員の肩に手を乗せて、それを支えに立ち上がる動作をしたこと等については、証人B作成の陳述書(書証略)において、「甲野太郎さんなりのコミュニケーションの取り方と思い、特段注意することなく」会話を続けていた旨の記載があることからすると、上記行為が客観的にみて社会人としての礼節を欠くものであったとか、他人を不快にさせ、職場の秩序を乱す態様のものであったとまでは評価できないから、これをもって本件内定取消しの客観的合理的理由に当たるということはできない。
 なお、本件備忘録(書証略)には、原告が一次会において当たり前のように他の社員に酒を作らせていた旨の記載があり、証人E作成の陳述書(書証略)にはかかる態度をもって横柄に感じた旨の記載があるが、本件会食が原告の歓迎会の趣旨で開かれたものであることからすると、自ら酒を用意する等の行動に出なかったことをもって礼節を欠いていたとはいえないから、この点についても本件内定取消しの客観的合理的理由には当たらないというべきである。
 (イ) また、原告が前々職の退職理由として、「自分としては会社の許可を得て大きな買い物をしたつもりであったが、問題になった際に、常務に全ての責任を押し付けられた。それによって自ら会社を辞める結果となった」と述べた行為は、上記発言内容を前提としても、原告に非違行為があったために前々職を退職したのかは客観的に明らかでなく、また、原告が採用面接時に述べた「祖母の介護のため」という理由が直ちに虚偽であったということもできない(原告の前々職の退職理由を明らかにする客観的な証拠は存在せず、祖母の介護という事情がなかったことの裏付けとなる証拠もない。)。そうすると、上記発言をもって、原告が社内ルールやコンプライアンスを遵守する姿勢を欠いていたことの証左とすることはできず、また、原告が虚偽の退職理由を申告していたと評価することもできないから、同発言が本件内定取消しの客観的合理的理由に当たるということはできない。
 (ウ) 前記(ア)及び(イ)以外の原告の言動のうち、
①EやFを呼び捨てにしたこと(二次会)、
②被告への入社理由について、ついでに受けただけである、たまたま採用までのスピードが早かったため、入社することにした旨の発言をしたこと(二次会。前記のとおり、同旨の発言を本件会食前にもしている。)、
③Eに対して、「やくざ」、「反社会的な人間に見えるな」と述べたこと(二次会から三次会への移動中)
については、いずれも、被告従業員(上司や先輩に当たる。)に対して礼を失する行為であり、特に上記③の「やくざ」、「反社会的な人間」との表現は侮辱的なものであって、同僚に対してする発言として著しく不穏当で不適切であるというべきである。原告がかかる発言をしたことは、それが飲酒の上でなされたものだとしても、従業員同士の協調に反し、職場の秩序を乱す悪質な言動であるということができる。
 また、
①原告が「自分が10億円の買い物をしたいと言った場合、許可してくれますよね」などと述べ、Fが社内のルール等を守ることが重要であると説明したことに対して、「10億じゃなくても1億ならOKですかね」、「とにかく自分はでかいことをやるということしか考えていないんです」などと述べたこと(二次会)、
②上記発言を問題視したFらが社内ルールを守ることの必要性等を説明したのに対し、原告が、会社の方針が自分の考えと異なる場合、自分のやり方を通すのは当然であるという趣旨の発言をし、Fらが被告の方針を無視してまでも自分のやり方を貫き通すつもりかと質問したことに対しても「当たり前じゃないですか」と述べたこと(三次会)は、
いずれも、原告において、被告の会社としての方針に従わない旨の態度を表明するものである。そして、前記のとおり、被告従業員のFらが、かかる言動をたしなめるような発言をしていたにもかかわらず、原告が態度を改めることなく、上記のような発言を繰り返したことを踏まえると、それが飲酒の上での出来事であったとしても、原告の言動は、会社の方針(社内ルール、コンプライアンスを含む。)を遵守して業務を行うという、被告従業員に求められる基本的な姿勢を欠くものであったということができる。
 (エ) そして、社内ルールやコンプライアンスを遵守する姿勢は、被告の従業員である以上、当然に必要な資質であるといえることに加え、本件支店は18名で構成される小規模な事業所であり、業務の正常な遂行のために従業員同士の協調性が求められること、特に営業職においては、社内外と円滑なコミュニケーションを図る協調性が重要かつ最低限必要な能力として求められる上、取引先との関係性を円滑にするために月に数回の会食の場に参加することがあることから、会食の場での社会人としての最低限のコミュニケーション能力、礼節が求められること、被告においては、上記資質等を原告が備えているものとの判断の下、本件採用内定をしたことがそれぞれ認められ(証拠略。なお、原告もかかる資質が必要なことについて一般論としては認めている。)、これらからすると、原告の前記言動は、これらの基本的な資質を原告が欠いていたことを示すものであって、かつ、被告はかかる資質の欠如を本件採用内定時には知り得なかったといえるから、これらの理由に基づいて本件採用内定を取り消すことは、原告がB支店長及びEに対して架電して謝罪したことを踏まえても、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるというべきである。
  (4) 原告は、B支店長に電話で謝罪した際、B支店長から「いいよ、いいよ、待ってるから」と言われた旨主張し、同旨の供述をする。しかしながら、証人Bはこれを否定する供述をする上、前記認定事実のとおり、被告においては、本件会食直後から、本件採用内定を見直すことについて協議がなされ、週明けの平成30年9月13日には関係者から事実関係を聴取し、これを踏まえて同月14日には本件内定取消しをしているのであって、かかる経緯に照らせば、B支店長が本件会食の翌日に原告から電話を受けた際、原告に入社を歓迎するかのような発言をするのは不自然であるから、原告の上記供述は信用できない。
    原告は、原告の言動がいずれもアルコールの影響下においてなされたものであり、その点を考慮すべきであった旨主張する。
 この点、原告が、飲酒の影響で気が大きくなり、本件内定取消しの理由となった言動に及んだこと自体は否定できない。しかしながら、原告が採用内定を受けた営業職においては、会食の場においてもコミュニケーション能力や礼節が求められることは前記のとおりであるところ、飲み会の場において前記のような言動に及んだこと自体問題というべきであるし、すでに認定説示したとおり、これらが飲酒下での言動であったことをもって前記判断は左右されない(なお、原告の酒量を客観的に明らかにする証拠はないものの、証人B、証人E、証人Fはいずれも原告が会話できる状態にあり、一見して酩酊している状態ではなかった旨供述する上、原告は二次会の会場から三次会の会場まで歩いて移動していることにも照らせば、原告が酩酊状態にあったとか、泥酔していたと認めることはできない。)。
 なお、原告は、被告従業員や二次会会場の店員から酒を勧められて断れなかったとも述べるが、原告本人供述を前提としても、酒を無理強いされたとか、強引に飲まされたという状況にあったとは認められず、本件会食の経緯につき、本件内定取消しにおいて考慮すべき事情があったとは認められない。
    また、原告は、弁明の機会の付与がなかった等の理由から、本件内定取消しにおいて手続的瑕疵がある旨主張する。
 しかしながら、原告は、前記のとおり、本件会食の翌日、B支店長に架電し、昨日(本件会食)のことを記憶していない旨の発言をしている(なお、原告本人尋問においても、本件会食での出来事について、二次会の途中から記憶がない旨供述している。)。被告においては、かかる発言を受けて、原告に対してこれ以上事実確認の場を設ける必要がないと判断したものであり(人証略)、かかる判断が不当であるということはできない。また、前記のとおりの本件内定取消しの理由となった原告の言動の評価に照らせば、原告にそれ以上の弁解の機会を与えることなく本件内定取消しをしたことをもって、本件内定取消しが解約権留保の趣旨、目的に反するものであったとか、客観的合理的理由を欠くものであったということはできず、また、手続的に適正でなく、社会通念上の相当性を欠くと評価することもできないというべきである。
 なお、原告は、本件内定取消しの理由を被告の総務担当の従業員に問い合わせても無視された旨主張するが、原告の主張する事情は本件内定取消し後の事情である上、被告は原告に対し、平成30年9月14日に「採用内定取消しのご通知」(書証略)をもって本件内定取消しの理由について通知し、同月28日にはさらに詳細な理由を記載した「回答書」(書証略)を交付していることを踏まえると、原告の主張するような経緯があったとしても、本件内定取消しにおいて、その効力を失わせるような手続的瑕疵があったということはできない。
 3 まとめ
 以上のとおりであるから、本件内定取消しは有効であり、原告の主位的請求はいずれも理由がない。
 なお、原告の予備的請求は、本件内定取消しが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると是認できず、違法であることを前提とするものであるが、前記のとおり、本件内定取消しは有効であるから、同請求にも理由がない。

0 件のコメント:

コメントを投稿