2/3の退職金減額を有効とした
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2 争点について
(1) 被告における退職金は、退職時における基本給の月額(上限30万円)に、勤続年数の増加に応じて上昇する支給基準率を乗じて算出された額を支給することとされ、勤続年数が6年未満の者には退職金が支給されないこととされているなど、賃金の後払い的性格と功労報償的性格を併せ持つものである(なお、退職事由によって退職金の支給額に差異が設けられていないことや、勤務成績が優秀であった者等に退職金とは別に退職慰労金を支給することがあるとされていることは、功労報償的性格を有意に減殺する事情であるとまではいえない。)。したがって、本件不支給等規定については、被告における退職金の功労報償的性格に照らし、これを適用する合理性が一般的に否定されるものではないものの、賃金の後払い的性格に照らし、原告の被告における勤続の功を抹消又は減殺するほどの著しい背信行為があったと認められる場合に限り、適用が許されると解するのが相当である。
そこで、以下、検討する。
(2) 原告の背信行為について
ア 別口預金の存在に言及するなどして金銭(給与増額)を不当に要求したことについて
①現社長は、原告と共に貸金庫に保管してあった別口預金口座から引き出した現金を取りに行った直後に、一旦は、原告に対し、別口預金の口止め料として300万円を支払おうとしたこと、②その際、原告は、過去に被告に国税局の査察が入った際に、その関連で原告の親族の会社や自宅にも査察が入ったことにより、原告の母が行っていたビジネスが打撃を受け、原告の母が損害を被ったことに触れたことについて言及したことを認めていること、③原告は、別口預金の口止め料として300万円を提示されたのに対し、「他の件もある」、「これはいらない。自分の給料を保障してくれないんだったら、これは見合わないからもらえない。」と述べ、300万円では足りないとして、これを受け取らなかったこと、④その後、現社長が考え直して、顧問会計士事務所に依頼して、別口預金について修正申告を行うことにしたこと等の一連の経過に照らし、原告は、①に先立ち、現社長に対し、②を指摘し、また、別口預金等に係る経理上の不正の存在をほのめかして金銭(給与の増額)を要求していたものと推認するのが相当であり、現社長は、これをもって、原告から脅迫され、口封じとして金銭を要求されていると受け取っていたことが認められる。
そして、被告において、平成30年3月期の当期純利益は前年度と比較して増えたものの、被告がかろうじて黒字を維持することができたのは、役員及び原告の大幅な給与減額や前社長の退任による経費削減によるところが大きく、役員及び原告の給与を増額できるような状態ではなかったのであり、経理担当者である原告がこのことを認識していなかったはずはない。そうであるにもかかわらず、原告は、経理担当者であるからこそ知り得た被告の経理情報に基づき、別口預金等に係る経理上の不正の存在をほのめかして金銭(給与の増額)を要求したものであるから、かかる原告の行為は、原告から脅迫されたと受け取った現社長との間の信頼関係を大きく毀損したものといわざるを得ず、被告に対する背信行為に当たるというべきである。
なお、原告の前記行為については、本件配転命令という人事上の措置によって対応されたものであるから、重ねてこの点を本件解雇の解雇事由そのものとすることは相当でないが、原告において被告における勤続の功を抹消又は減殺するほどの背信行為があったかを判断するための要素とすることが妨げられるものではない(かかる判断は、原告が本件不支給等規定1号に形式的に該当することを前提に、本件に現れた一切の事情を総合して判断すべきものである。)。
イ 本件給与減給を承諾していないと虚偽主張をし、給与増額を不当に要求したことについて
原告は、平成28年3月頃に前社長から大幅な減給を提案された際、強く異議を述べることはしなかったこと、また、原告は、本件給与減額が行われた同年4月以降、被告に対して平成31年1月17日付け請求書を送付するまで、本件給与減額を承諾していないと主張した形跡がないことに照らし、原告は、本件給与減額を承諾していたものと認めるのが相当である。
もっとも、本件全証拠及び前記認定事実によっても、原告が本件給与減額を明らかに承諾していたとは認めるに足りず、原告が本件給与減額を承諾したことを争い、被告に対して本件給与減額に係る賃金相当損害金を請求したことが、殊更虚偽の主張をして不当な要求をしたものであるとまではいい難い。
したがって、原告の前記行為が、被告に対する背信行為に当たるとはいえない。
原告は、平成28年3月頃に前社長から大幅な減給を提案された際、強く異議を述べることはしなかったこと、また、原告は、本件給与減額が行われた同年4月以降、被告に対して平成31年1月17日付け請求書を送付するまで、本件給与減額を承諾していないと主張した形跡がないことに照らし、原告は、本件給与減額を承諾していたものと認めるのが相当である。
もっとも、本件全証拠及び前記認定事実によっても、原告が本件給与減額を明らかに承諾していたとは認めるに足りず、原告が本件給与減額を承諾したことを争い、被告に対して本件給与減額に係る賃金相当損害金を請求したことが、殊更虚偽の主張をして不当な要求をしたものであるとまではいい難い。
したがって、原告の前記行為が、被告に対する背信行為に当たるとはいえない。
ウ 本件配転命令に強く抵抗し、業務命令に違反して経理業務の引継ぎを拒否したことについて
(ア) 原告は、現社長の信頼を失うような言動をして本件配転命令を受け、平成30年12月7日、被告から包括的な引継ぎを命じられたにもかかわらず、同月14日、後任の経理担当者であるFに対して引継ぎを拒否する旨、業務命令には従わない態度を明確にし、その後は、被告から具体的に引継ぎを求められたものについてしか引継ぎをせず、また、被告から具体的に引継ぎを求められた際にも、メインバンクであるK銀行のインターネットバンキングについて誤ったログインパスワードを教えたほか、後任のFが引継ぎを受けに来ても直ちに引き継ぐことはなく、社長の業務命令書の交付を求め、これに応じてFが社長の業務命令書を持参しても、そこに押印がないことを指摘して引継ぎを拒否するなどして、一つの事項について引継ぎをするのにFに何回も足を運ばせることを繰り返したことが認められる。さらに、原告は、被告から具体的に引継ぎを求められなかった経理資料やUSBメモリについては、前訴の係属後になってようやく被告に返還したことが認められる。
そして、原告による以上の業務引継ぎ拒否の結果、①被告は、原告から教えられた誤ったログインパスワードを使用してメインバンクであるK銀行のインターネットバンキングへのログインを複数回試みたため、ロックがかかってしまい、インターネットバンキングを利用することができなくなり、再申込みにより利用を再開できるまでの間、後任の経理担当者であるFは、本来であれば事務所にいながらインターネットバンキングを利用して処理することができる銀行取引について、その都度、銀行の窓口に赴いて処理しなければならない事態となったこと、②原告が給与支払の準備に必要な給与ソフトのパスワードをなかなか引き継いでくれず、経理資料も自宅に保管したまま返還しなかったために、Fは、被告のパソコンに給与ソフトを再設定した上、顧問会計士事務所に保存してあったデータ等を用いてデータを復元して対応することを余儀なくされたこと、③原告がFに対する経理業務の引継ぎを拒否したため、被告は、業務報酬を負担して、G公認会計士に来所してもらい、Fに対して経理業務を指導してもらわなければならなくなったことが認められ、原告が速やかに経理業務の引継ぎを行わなかったことにより、被告及び被告の従業員の業務に大きな支障が生じたことが認められる。
原告が前記対応をする過程で、原告と後任の経理担当者であるF及びFと共に原告から経理業務の引継ぎを受けるために奔走したHとの間の信頼関係は、修復困難な事態に陥ったことが認められる。
(イ) 以上について、原告は、長年にわたり被告の経理業務を担当していたことから、被告から要求された引継ぎの対象が経理業務を遂行する上で必要かつ重要であること、これらを速やかに引き継がなければ被告及び被告の従業員の業務に支障が生じることについては、十分認識していたものと認められる。他方、原告にとって、被告から要求された引継ぎをすることは、容易であったものと認められる。
それにもかかわらず、原告は、被告から長年にわたり役員に近い水準の高額な給与の支払を受けていた幹部職員でありながら、合理的な理由もなく業務の円滑な引継ぎをせず、被告及び被告の従業員の業務に支障を生じさせ、その結果、被告との間の信頼関係だけでなく、原告から引継ぎを受けるために奔走した被告の従業員との間の信頼関係も失われるに至らせた。そして、経理業務に支障が生じることは、被告の経営上大きな問題を生じさせるものということができる。そうすると、①インターネットバンキングが利用できない間は、銀行窓口に赴けば必要な取引ができたこと、②給与ソフトのパスワードが開示された後は、原告が自宅に保管していた経理資料がなくとも、経理業務の処理は可能であったこと(争いがない。)、③原告が自宅に保管していたUSBメモリを速やかに引き継がなかったために、経理業務に具体的な支障が生じたことはなかったこと(争いがない。)、④原告が経理資料やUSBメモリを速やかに引き継がなかったことにより、機密情報が漏えいしたことはなかったこと(争いがない。)を考慮しても、原告の前記行為は、被告に対する背信行為に当たるというべきである。
(ウ) なお、原告は、本件配転命令が突然発せられ、原告には後任者の氏名すら伝えられないなど、原告には引継ぎのための十分な時間的余裕がなかったとして、原告が後任者に対する引継ぎに直ちに適切に応じることができなかったことにはやむを得ない面があった旨を主張する。しかし前記ア及びイにおいて説示したとおり、原告は、本件配転命令を受けて被告から包括的な引継ぎを命じられ、かつ、被告から要求された引継ぎをすることは容易であったにもかかわらず、合理的な理由なく、後任の経理担当者であるFに対して引継ぎを拒否する旨、業務命令には従わない態度を明確にするなどの対応をしたものであるから、前記主張には理由がない。
(3) 評価
前記(2)アのとおり、①原告は、被告が原告の給与を増額できるような状態ではなかったことを認識していたはずであるのに、経理担当者であるからこそ知り得た被告の経理情報に基づき、別口預金等に係る経理上の不正の存在をほのめかして金銭(給与の増額)を要求し、原告から脅迫されたと受け取った現社長との間の信頼関係を大きく毀損した。そして、原告は、この件により本件配転命令を受けると、前記(2)ウのとおり、②長年にわたり役員に近い水準の高額な給与の支払を受けていた幹部職員でありながら、合理的な理由なく、本件配転命令に強く抵抗し、業務命令に違反して経理業務の引継ぎを拒否し、長期間にわたり被告及び被告の従業員の業務に支障を生じさせた。そして、その結果、被告の経営上大きな問題を生じさせるとともに、被告との間の信頼関係だけでなく、原告から引継ぎを受けるために奔走した被告の従業員との間の信頼関係も失わせるに至らせたものである。このような原告の行為は、悪質であり、その背信性の程度は著しいものといわざるを得ない(なお、被告は、原告に対する対応として、懲戒解雇を選択せず、普通解雇(本件解雇)を選択したものであるが、そのこと自体により原告の行為の背信性の程度が左右されるものではない。)。
そうすると、原告の行為により被告に生じた業務上の支障を一定程度限定する事情が認められること、さらに、原告が、19年(アルバイトとして勤務した期間を含めると28年)にわたり、被告の経理業務を担当してきたものであって、被告に対する一定の貢献が認められることを斟酌したとしても、原告の行為は、原告の被告における勤続の功を大きく減殺するものであって、その減殺の程度を3分の2とした被告の判断は相当なものであるというべきである。
したがって、被告が、原告に対し、本件不支給等規定を適用し、退職金の支給額を3分の1に減額したことは有効である。
前記(2)アのとおり、①原告は、被告が原告の給与を増額できるような状態ではなかったことを認識していたはずであるのに、経理担当者であるからこそ知り得た被告の経理情報に基づき、別口預金等に係る経理上の不正の存在をほのめかして金銭(給与の増額)を要求し、原告から脅迫されたと受け取った現社長との間の信頼関係を大きく毀損した。そして、原告は、この件により本件配転命令を受けると、前記(2)ウのとおり、②長年にわたり役員に近い水準の高額な給与の支払を受けていた幹部職員でありながら、合理的な理由なく、本件配転命令に強く抵抗し、業務命令に違反して経理業務の引継ぎを拒否し、長期間にわたり被告及び被告の従業員の業務に支障を生じさせた。そして、その結果、被告の経営上大きな問題を生じさせるとともに、被告との間の信頼関係だけでなく、原告から引継ぎを受けるために奔走した被告の従業員との間の信頼関係も失わせるに至らせたものである。このような原告の行為は、悪質であり、その背信性の程度は著しいものといわざるを得ない(なお、被告は、原告に対する対応として、懲戒解雇を選択せず、普通解雇(本件解雇)を選択したものであるが、そのこと自体により原告の行為の背信性の程度が左右されるものではない。)。
そうすると、原告の行為により被告に生じた業務上の支障を一定程度限定する事情が認められること、さらに、原告が、19年(アルバイトとして勤務した期間を含めると28年)にわたり、被告の経理業務を担当してきたものであって、被告に対する一定の貢献が認められることを斟酌したとしても、原告の行為は、原告の被告における勤続の功を大きく減殺するものであって、その減殺の程度を3分の2とした被告の判断は相当なものであるというべきである。
したがって、被告が、原告に対し、本件不支給等規定を適用し、退職金の支給額を3分の1に減額したことは有効である。
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