PIPルールが認定に書いてあり、参考になる
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動機の錯誤を否定
…以上のとおり、XへのPIPの適用及び結果の評価は不当又は恣意的なものであったことはうかがわれないから、g OMがPIPの結果を踏まえてXに退職勧奨を行うこと自体について不合理な点は見当たらない。また、g OMがXに対して退職するほかないなど虚偽の事実を述べたことも認められない。
そうすると、X自身が、PIPの結果を踏まえて今後の進退を検討し、退職勧奨に応じることもやむを得ないと考えて本件退職の意思表示をしたと認めるのが相当であって、Xの本件退職の意思表示の動機に錯誤があったとは認められない。
以上によれば、本件退職の意思表示について錯誤無効をいうXの主張は採用することができない。
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強迫を否定
Xは、f OC及びg OMから本件同意書への署名を執拗に求められるなどし、本件同意書に署名しなければ不当な扱い等を受けるのではないかと畏怖したから、f OC及びg OMの退職勧奨は強迫に当たると主張する。
しかし、
〔1〕第2回面談及び第3回面談はいずれもe店の近くの喫茶店で行われたこと
〔2〕第2回面談では、f OCがPIPの結果についてフィードバックを行った後、g OMが本件同意書に記載された退職条件や再就職サポートについて説明し、その所要時間は約30分であったこと
〔3〕第3回面談では、Xが本件同意書に署名押印した後、Xが今後行うべき退職手続等について説明がされ、その所要時間は約20分であったこと
〔4〕退職勧奨の際、f OCは同席せずg OMのみが対応していたことが認められる。
また、第3回面談は第2回面談から2週間の期間を空けて設定され、この間にXとg OMとの間で退職に関するやりとりがされた形跡も認められない。
これらのことに照らすと、f OC及びg OMがXに対して執拗かつ性急に本件同意書に署名押印を求めたというXの供述は信用できず、他に上記事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、Xの強迫による意思表示の取消しの主張は理由がない。
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変形労働時間制を無効と判断
(1)変形労働時間制の有効性
ア 1か月単位の変形労働時間制が有効であるためには、
〔1〕就業規則その他これに準ずるものにより、変形期間における各日、各週の労働時間を具体的に定めることを要し、
〔2〕就業規則において定める場合には労働基準法89条により各日の労働時間の長さだけではなく、始業及び終業時刻も定める必要があり、
〔3〕業務の実態から月ごとに勤務割を作成する必要がある場合には、就業規則において各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及びその周知方法等を定めておき、各日の勤務割は、それに従って、変形期間の開始前までに具体的に特定することで足りる
とされている(労働基準法32条の2第1項、労働基準局長通達1988年1月1日基発第1号、同年3月14日基発第150号)。
これを本件についてみると、Yは就業規則において各勤務シフトにおける各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間について「原則として」4つの勤務シフトの組合せを規定しているが、かかる定めは就業規則で定めていない勤務シフトによる労働を認める余地を残すものである。そして、現にXが勤務していたe店においては店舗独自の勤務シフトを使って勤務割が作成されていることに照らすと、Yが就業規則により各日、各週の労働時間を具体的に特定したものとはいえず、同法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足するものではない。
イ Yは,全店舗に共通する勤務シフトを就業規則上定めることは事実上不可能であり、各店舗において就業規則上の勤務シフトに準じて設定された勤務シフトを使った勤務割は、就業規則に基づくものであると主張する。
しかし、労働基準法32条の2は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化することを目的として変形労働時間制を認めるものであり、変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することは許容しておらず(労働基準局長通達1988年1月1日基発第1号)、これは使用者の事業規模によって左右されるものではない。加えて、労働基準法32条の2第1項の「その他これに準ずるもの」は、労働基準法89条の規定による就業規則を作成する義務のない使用者についてのみ適用されるものと解される(労働基準局長通達昭和22年9月13日発基17号)から、店舗独自の勤務シフトを使って作成された勤務割を「その他これに準ずるもの」であると解することもできない。
したがって、Yの主張は採用することができない。
ウ よって、Yの定める変形労働時間制は無効であるから、本件において適用されない。
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締め日と支払日についての規則とは異なる合意認定
前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、本件労働契約の賃金は原則として毎月末日締め当月25日払いとされていたが、賃金のうち時間外勤務割増手当については、当月25日までに金額を確定させることができないため、翌月25日を支給日とすることが合意されていたことが認められる。そうすると、Xの請求に係る未払割増賃金のうち、本件訴えの提起日である2019年10月31日から2年前である2017年10月31日の直近の支払日である同月25日支払分までの時間外勤務割増手当に相当する賃金、すなわち、2017年3月13日から同年9月30日までの期間に係る時間外勤務割増手当は、2年の時効(改正前労基法115条)により消滅したことになる。
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一部請求と消滅時効
ウ 追加主張2に係る消滅時効2の抗弁の当否
(ア)Yは追加主張2に係る未払割増賃金請求権のうち2017年3月13日から2019年1月31日までの期間に係る部分について消滅時効2を援用するところ、そのうち、2017年3月13日から同年9月30日までの期間に係る部分について、時効期間が経過したことは前記アで説示したとおりである。
(イ)そこで、追加主張2に係る未払割増賃金請求権のうち2017年10月1日以降の期間に係る部分について、消滅時効2の抗弁の当否を検討する。
数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合、訴え提起による消滅時効中断の効力は、その一部についてのみ生じ、残部には及ばないが、上記趣旨が明示されていないときは、請求額を訴訟物たる債権の全部として訴求したものと解すべく、この場合には、訴えの提起により、上記債権の同一性の範囲内において、その全部につき時効中断の効力を生ずるものと解される(2017年法律第45号による改正前の民訴法147条、最高裁昭和31年(オ)第388号同34年2月20日第二小法廷判決・民集13巻2号209頁、最高裁昭和44年(オ)第882号同45年7月24日第二小法廷判決・民集24巻7号1177頁参照)。また、数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示した訴えの提起は、残部について裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではないが、債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど、残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り、当該訴えの提起は、裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生じ、債権者は、当該訴えに係る訴訟の終了後6か月以内に改正前民法153条所定の措置を講ずることにより、残部について消滅時効を確定的に中断することができる(最高裁判所2012年(受)第349号同25年6月6日第一小法廷判決・民集67巻5号1208頁参照)。
これを本件についてみると、前記前提事実(8)のとおり、Xの未払割増賃金請求のうち2017年10月1日以降の期間に係る部分は、2019年10月31日に訴えの提起がされており、当初は債権の一部についてのみ判決を求める趣旨であることを明示しないものであったが(当初主張)、その後、追加請求1により明示的一部請求に変更されたことから、残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り、訴えの提起時(2019年10月31日)において裁判上の催告により時効の中断が生じることになると解される。
そして、追加主張2のうち2017年10月1日以降の期間に係る部分は、当初主張に係る債権と請求期間を同じくし、債権の同一性を有するところ、Xは、訴訟手続において主張の追加を行わない旨を確定的に表明していたものではなく、訴訟提起から約1年4か月経過後に主張を追加したことを踏まえても、残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情があるとは認められない。
(ウ)よって、消滅時効2の抗弁のうち、2017年3月13日から同年9月30日までの期間に係る部分は理由があり、その余(2017年10月1日から2019年1月31日までの期間に係る部分)は理由がない。
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パソコンでの時刻入力を信用
Xは、各出勤日において、パソコンで出勤時刻及び退勤時刻並びに休憩時間を入力しており、これに基づいて作成された勤務表は、Xの労働時間を記録したものとして基本的には信用することができるというべきである。
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店舗外に出られなくとも休憩と認めた
これに対し、Xは、深夜の休憩時間は店舗外に出ることができなかったことや休憩時間と申告していても実際には業務を行っていたことなどから、これらの時間を労働時間に算入すべきである旨主張する。
そこで、e店における業務についてみると、同店では、深夜勤務の時間帯は、基本的にマネージャーは1人しか置かれていなかったこと、Yは従業員の安全確保のため、マネージャーが店内の見えるところにいなければいけないことや店内に必ずマネージャーを含む従業員が3人以上いることを定めていることからすれば、深夜勤務において、Xが休憩時間中に店舗外に出ることができない状態が生じていたものと認められる。しかし、このことによって直ちに、Xが休憩時間もYの指揮命令下で労務の提供を行う状態に置かれていたということはできず、本件各証拠を検討しても、Xが休憩時間中にも顧客対応その他の労働契約上の役務の提供が義務付けられていたと認めるに足りる証拠はない。したがって、Xの主張は採用することができない。
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文書提出命令の却下
6 文書提出命令について
Xは、2021年8月11日、Yを文書の所持者とし、Yが証拠として提出したe店のマネスケに含まれていなかった2017年9月分及び2018年11月分のマネスケに係る文書提出命令の申立て(当庁2021年(モ)第376号)をし、Yは、申立てに係る文書は現存していないと主張している。
そこで検討するに、Xは、文書提出命令の申立てにおける証明すべき事実として、マネスケが前月末日までに作成されておらず、就業規則の定めに基づいて変形期間の開始前までに各日の勤務割が特定されていなかったことを主張しているところ、既に提出済みの証拠によっても変形労働時間制は無効であることが認められるから、申立てに係る文書の取調べの必要性を認めることができない。したがって、上記文書提出命令の申立てを却下することとする。
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