2023年7月25日火曜日

セルトリオン・ヘルスケア・ジャパン事件・東京高判R4.11.16・労経速2508-3

事業場外労働のみなし労働時間制の否定、資料不開示と付加金

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事業場外労働のみなし労働時間制の否定

 (1)労基法38条の2第1項によれば、事業場外労働みなし制を適用するためには、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事し」、かつ「労働時間を算定し難い」ことを要する。この点、「労働時間を算定し難い」ときに当たるか否かは、業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、使用者と労働者との間で業務に関する指示及び報告がされているときは、その方法、内容やその実施の態様、状況等を総合して、使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することが困難であると認めるに足りるかという観点から判断することが相当である(最高裁判所2012年(受)第1475号同26年1月24日第二小法廷判決・裁判集民事246号1頁参照)。

(2)ア 前提事実及び認定事実によれば、

原告の業務は、営業先である医療機関を訪問して業務を行う外回りの業務であり、基本的な勤務形態としては、被告のオフィスに出勤することなく、自宅から営業先に直行し、業務が終了したら自宅に直接帰宅するというものであったことが認められる。

そして、原告の各日の具体的な訪問先や訪問のスケジュールは、基本的には原告自身が決定しており、上司であるエリアマネージャーが、それらの詳細について具体的に決定ないし指示することはなく、各日の業務スケジュールについては原告の裁量に委ねられていたといえる。被告は、原告を含むMRに対し、週1回、訪問した施設や活動状況を記載した週報を上司であるエリアマネージャーに提出するよう指示していたが、証拠によれば、週報の内容は、何時から何時までどのような業務を行っていたかといった業務スケジュールについて具体的に報告をさせるものではなかったことが認められる。

イ しかし、週報は、エクセルの1枚の表に、1週間単位で、当該MRが担当する施設ごとに、業務を行った日付とその内容とを入力するものであり、内容欄のセルには相当の文字数の文章を自由に入力することができるから(書証略)、Yは、MRに対し、週ごとに、事後的にではあるが、MRが1日の間に行った業務の営業先と内容とを具体的に報告させ、それらを把握することが可能であったといえる。

 また、週報には始業時刻や終業時刻等の記入欄はないものの、Yは、2018年12月、従業員の労働時間の把握の方法として本件システムを導入し、MRに対して、貸与しているスマートフォンから、位置情報をONにした状態で、出勤時刻及び退勤時刻を打刻するよう指示した上、月に1回「承認」ボタンを押して記録を確定させ、不適切な打刻事例が見られる場合には注意喚起などをするようになった。そうすると、2018年12月以降、Yは、直行直帰を基本的な勤務形態とするMRについても、始業時刻及び終業時刻を把握することが可能となったものといえる。

 そして、Yは、本件システムの導入後も、MRについては一律に事業場外労働のみなし制の適用を受けるものとして扱っているが、月40時間を超える残業の発生が見込まれる場合には、事前に残業の必要性と必要とされる残業時間とを明らかにして残業の申請をさせ、残業が必要であると認められる場合には、エリアマネージャーからMRに対し、当日の業務に関して具体的な指示を行うとともに、行った業務の内容について具体的な報告をさせていたから、本件システムの導入後は、MRについて、一律に事業場外労働のみなし制の適用を受けるものとすることなく、始業時刻から終業時刻までの間に行った業務の内容や休憩時間を管理することができるよう、日報の提出を求めたり、週報の様式を改定したりすることが可能であり、仮に、MRが打刻した始業時刻及び終業時刻の正確性やその間の労働実態などに疑問があるときには、貸与したスマートフォンを用いて、業務の遂行状況について、随時、上司に報告させたり上司から確認をしたりすることも可能であったと考えられる。

 そうすると、Xの業務は、本件システムの導入前の2018年11月までは、労働時間を算定し難いときに当たるといえるが、本件システムの導入後の同年12月以降は、労働時間を算定し難いときに当たるとはいえない。

ウ Xは、当審において、労基法38条の2第1項により事業場外労働のみなし制の適用を受けるためには、雇用契約書又は就業規則により同項の適用があることを明記しなければならないと主張するが、事業場外労働のみなし制は、労基法の規定に基づく制度であり、雇用契約書又は就業規則に別途定めを置くことは要件とされていないから、Xのこの主張は採用することができない。

エ 以上によれば、XのYにおける業務は、事業場外での労働に当たり、本件システムの導入前の2018年11月までは、労働時間を算定し難いときに当たり、事業場外労働のみなし制が適用されるが、同年12月以降は、労働時間を算定し難いときには当たらず、事業場外労働のみなし制は適用されない。

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付加金と訴訟前資料不開示

Xは、当審において、Yが訴訟の前に資料の開示を拒んだことが紛争の長期化の原因となったから、付加金を認めるに十分であると主張するが、資料の開示の拒否を理由として付加金の支払を命ずることはできないから、Xの主張は失当である。


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