2023年7月3日月曜日

lTサービス事業A社事件・東京地判R4.11.16労経速2506-28

在宅勤務者への出社命令無効

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2 争点(1)ア(Xが2021年3月4日以降に労務の提供をしていないことはYの「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)によるものか)について

(1)前記認定事実によれば、Xは、2021年3月4日以降、労務を提供していないのは、それまでは自宅で勤務をしていたにもかかわらず、本件出社命令により、Yの事務所への出社を命じられたためと認められる。そこで、本件出社命令の有効性について検討する。

(2)ア 証拠によれば、本件労働契約に係る契約書には、その就業場所は「本社事務所」とされているものの、Y代表者自身が、〔1〕デザイナーは自宅で勤務をしても問題ない、〔2〕リモートワークが基本であるが、何かあったときには出社できることが条件である旨供述していること、〔3〕現に、Xは、2021年3月3日まで自宅で業務を行い、初日のほかに、Yの事務所に出社したのは一度だけであり、Yもそれに異論を述べてこなかったことからすると、本件労働契約においては、本件契約書の記載にかかわらず、就業場所は原則としてXの自宅とし、Yは、業務上の必要がある場合に限って、本社事務所への出勤を求めることができると解するのが相当である。

イ Yは、Xが本件やり取りを含めて長時間(99時間50分)にわたって業務に関係ないやり取りをしていたことを踏まえて、管理監督上の観点から、出社を求めたものであって、業務上の必要があった旨主張する。

たしかに、Xは他の従業員との間で、本件やり取りも含め、必ずしも業務に必要不可欠な会話をしていたわけではないことは認められるものの、Yが提出する証拠によっても、その時間が、Yが主張するような長時間であるとは認められず、これにより業務に支障が生じたとも認められない。また、一般にオンライン上に限らず、従業員同士の私的な会話が行われることもあり、本件やり取りの内容は、Y代表者を揶揄する内容が含まれる点でY代表者が不快に感じた点は理解できるものの、そのことを理由に、事務所への出社を命じる業務上の必要性が生じたともいえない。

Y代表者は、これに加えて、本件ツールによりパソコンで操作をしていたログがなく、労働者が申告する時間と実労働時間に差異があった場合には,本人に確認する必要があったとも供述するが、Xは、デザイン業務を行う上ではパソコンで作業しない時間もある旨供述し、現に手書きで作業を行っていたこともあることからすると、本件ツールのログによっても、労働者が申告する時間と実労働時間に差異があったとまでは認められず、この点からも出社を命じる業務上の必要性が生じたとはいえない。

これに加えて、Y代表者は、2021年3月2日午後3時24分にXに対し、メールを送った後、Xとの間で、メール上で、本件やり取りの当否をめぐってお互いを非難しあう中で、Xの反省がないことを理由にその5時間後に本件懲戒処分とともに、本件出社命令を発したものであり、そのような経緯も踏まえると、本件の事情の下においては、本社事務所への出勤を求める業務上の必要があったとは認められないそうすると、Yは、本件労働契約に基づき事務所への出社を命じることができなかったというべきであって、本件出社命令は無効であるといえる。 

(3)以上によれば、Xが2021年3月4日以降、労務の提供をしていないことは、Yが事務所に出社を命じることができないにもかかわらず、これを命じたためであり、Yの「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)によるものというべきである。さらに、同月19日以降については、XがYの責めに帰すべき事由による労務を提供していないにもかかわらず、Yはこれを欠勤と扱って本件退職扱いをしたことも原因といえるから、いずれにせよYの「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)によるものというべきである。


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