2023年7月25日火曜日

東海交通機械事件・名古屋地判R4.12.23労経速2511-15

 パワハラと損害の因果関係判断と損害認定

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5 争点(3)(被告bによるパワハラ行為及び被告会社による嫌がらせ行為と原告の左網膜周辺部変性、適応障害及びパニック障害との間に因果関係が認められるか)について

(1)左網膜周辺部変性について

認定事実によれば、原告は、平成30年4月27日、1年以上前から、黒い点がふわふわ動いて見えるという症状を訴えて、同病院の眼科を受診し、同月22日、左網膜周辺部変性と診断を受けている。

しかしながら、原告が被告bから暴行を受けたのは、平成28年7月頃から同年12月29日までの間であり、原告が受診し左網膜周辺部変性と診断を受けるまで1年以上の期間が経過している原告は、医師に対し、1年以上前から症状が出ていることを説明しているが、症状発現の正確な時期は明らかではなく、原告に加えられた暴行が左網膜周辺部変性の発症にどのように寄与するかも明らかではない原告を診断した医師も、原告の主訴を踏まえて、外傷(職場上司の平手打ち)が原因で生じた可能性があると診断しているに過ぎない。以上を踏まえると、被告bによる暴行と原告の左網膜周辺部変性との間に因果関係を認めることはできない。

(2)適応障害について

認定事実によれば、原告は、平成29年1月5日、半年くらい前から会社で暴力やいじめを受けており、熟睡できない、朝どうしても会社に行きたくないと思う、気分が晴れずもんもんとした日々を過ごしているなどと訴えて、稲沢厚生病院精神科を受診し、上司との軋轢をストレス因とする適応障害と診断されている。

前記3で説示したとおり、原告は、平成28年7月頃から同年12月29日までの間、被告bから暴力を含む継続的なパワハラ行為を繰り返し受けており、同日には、左耳を平手打ちされ、左外傷性鼓膜損傷及び内耳損傷の傷害を受けており、強度の心理的負荷を受けていたものと認められる。

そうすると、原告に発症した適応障害は、被告bによる継続的なパワハラ行為によって発症したものと認められる

(3)パニック障害について

認定事実によれば、原告は、平成30年4月27日、朝礼や満員電車に乗っているときに動悸、呼吸苦、発汗、浮動感などを自覚し、つらくなるといった症状を訴えて、稲沢厚生病院精神科を受診し、パニック障害、広場恐怖症と診断されている。また、その後も、平成31年3月30日、いなざわこころのクリニックでパニック障害、広場恐怖症と診断され、令和元年6月28日、ひだまりこころクリニックでパニック障害と診断されている。

原告のパニック障害と被告bのパワハラ行為との因果関係について、愛知労働局の精神障害専門部会は、原告が平成29年1月20日に稲沢厚生病院を受診後、同院を平成30年4月27日まで約1年3か月間受診していないことについては、平成29年に処方された薬が合わなかったこと、医師の対応に不満があったからであって、その後も症状が続いていたとし、原告が平成29年2月にd支店に異動した以降も、被告bがd支店を訪れて原告と接近するたびに被告bから受けた暴行を思い出し、激しい動悸や耳鳴りの症状が現れていること、平成30年1月頃に下請業者の他は原告と被告bが二人きりで検修を行うことが企画されたことを知った原告が、倦怠感や気分の落ち込みに加え、呼吸不全や異常な発汗などの症状がひどくなって、同年4月27日に稲沢厚生病院精神科を受診したことから、平成28年12月下旬頃に発症した適応障害が寛解に至っておらず、継続したものと判断し、原告のパニック障害と被告bのパワハラ行為の因果関係を認めている。

しかしながら、認定事実によれば、原告は、稲沢厚生病院精神科で処方された薬を1錠しか服用しておらず、平成30年4月27日には再度、同病院精神科を受診し、同じ医師の診断を受けていることから、薬が合わなかった、医師の対応に不満があったという、同日までの約1年3か月間受診をしなかった理由の信用性には疑いがあり、その間、症状が続いていたことを認めるに足りる証拠もない。また、認定事実のとおり、原告の担当する現場に被告bが割り当てられるような検修が予定されたのは、平成31年1月であり、これを知った原告の症状がひどくなったために同病院精神科を受診したという事実は誤りである。認定事実によれば、原告は、平成30年4月27日には、朝礼や満員電車に乗っているときに動悸、呼吸苦、発汗、浮動感などを自覚して同病院精神科を受診したのであって、被告bと接近して、被告bから受けた暴行を思い出して症状が現れたといった説明は全くしていない。原告は、同年7月7日に同病院精神科を受診した際には、被告bと一緒にいるとパニックになる旨医師に話していると認められるが、同日には、被告bによる暴力事件とパニック障害の関係について、労基や警察に提出するための書類を作れないか相談をしており、その話の内容を信用できるか疑問が残る。したがって、愛知労働局の精神障害専門部会の判断は、前提事実に誤りがあるため信用性は認められない。

原告が平成29年1月20日に稲沢厚生病院精神科を受診した後、約1年3か月間、適応障害について病院を受診していないことについて合理的理由が明らかでないこと、パニック障害と診断された当初、原告が症状の出現と被告bの暴行との関連について全く言及していないこと、原告を適応障害と診断した同病院精神科の医師が、一般的に暴力を受けたこととパニック障害、広場恐怖症に関連があるとはいえないとして、原告のパニック障害と被告bの暴行との因果関係を診断書に記載することを断っていることに鑑みると、原告の適応障害は、平成29年1月20日に稲沢厚生病院精神科を受診してから平成30年4月27日に再度受診するまでの間に寛解していた可能性が否定できず、他に原告のパニック障害が被告bによるパワハラ行為に起因していると認めるに足りる事情はないから、原告のパニック障害と被告bによるパワハラ行為の間に因果関係を認めることはできない。

6 争点(4)(原告の損害額)について

(1)治療費 2万4450円

原告が左外傷性鼓膜損傷及び内耳損傷並びに適応障害で治療を受けたことは、被告bによるパワハラ行為及び被告会社の安全配慮義務違反(以下、「被告らの本件行為」という。)との因果関係が認められるが、それ以外の治療費については、被告らの本件行為との因果関係を認めることができない。そうすると、原告が主張する治療費のうち、平成29年1月30日までの治療費が損害として認められる。証拠によれば、治療費の合計額は、2万4450円である。

(2)通院交通費 873円

平成29年1月30日までの治療にかかる交通費について、被告らの本件行為と因果関係のある損害と認める。1キロメートル当たりのガソリン代を15円とし、原告の自宅からいなざわ東耳鼻咽喉科までの距離を2.1キロメートル、稲沢厚生病院までの距離を8.3キロメートルとすると、いなざわ東耳鼻咽喉科への通院回数が2回、稲沢厚生病院への通院回数が3回であるから、通院交通費は次のとおり873円となる。

(15円×2.1×2×2)+(15円×8.3×2×3)=873円

(3)通院慰謝料 150万円

被告bは、約半年間にわたって、社会通念上許容される限度を超えた業務指示や暴行を含む威圧的な言動を繰り返し、被告会社も被告bの行為を放置した結果、平成28年12月29日の傷害行為によって、原告に左外傷性鼓膜損傷及び内耳損傷の傷害を負わせ、適応障害を発症させている。このようなパワハラ行為の内容、継続期間、原告の傷害の程度を踏まえると、原告の精神的苦痛を慰謝する金額は150万円が相当である。

(4)後遺障害逸失利益

前記で説示のとおり、原告の左網膜周辺部変性とパニック障害は、被告らの不法行為との間に因果関係が認められない。

また、原告は、原告が被告bのパワハラ行為によって負った左外傷性鼓膜損傷及び内耳損傷並びに適応障害により、左耳が聞こえにくくなり、左耳がボーンと耳鳴りがしたり、眩暈の症状が出るようになったとし、かかる後遺障害が自賠法施行令別表第二の14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当すると主張する。しかしながら、原告にかかる症状が生じているか明確でない上、かかる症状が左外傷性鼓膜損傷及び内耳損傷並びに適応障害により生じているかも明らかでなく、被告らの本件行為との間に因果関係を認めることはできない。

したがって、原告に後遺障害が残存していると認めることはできない。

(5)後遺障害慰謝料

原告には後遺障害がないから、後遺障害慰謝料は認められない。

(6)文書料(カルテ開示料) 6430円

いなざわ東耳鼻咽喉科と稲沢厚生病院に対するカルテ開示のための費用は、被告らの本件行為と相当因果関係にある損害と認める。その額は、6430円である。

(7)損益相殺 6870円

原告は、(1)の治療費のうち、平成28年12月29日にいなざわ東耳鼻咽喉科で支払った治療費3180円及びだいもん調剤薬局で支払った薬代800円,平成29年1月21日にいなざわ東耳鼻咽喉科で支払った治療費1900円及びだいもん調剤薬局で支払った薬代990円については、労災の療養補償給付を受けている。(彦根労働基準監督署に対する調査嘱託の回答)この合計額6870円は、治療費から控除される。

(8)小計 152万4883円

 (1)、(2)、(3)、(6)の合計額から(7)の額を控除すると、152万4883円となる。 

(9)弁護士費用 15万2000円

 本件訴訟の経緯及び事案の内容を踏まえると、弁護士費用は、15万2000円とするのが相当である。

(10)合計 167万6883円

 (8)、(9)の合計額は、167万6883円である。

7 結論

よって、原告の請求は、被告b及び被告東海交通機械株式会社に対し、連帯して167万6883円及びこれに対する平成28年12月29日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、これを認容することとし、その余の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

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