給与・退職金規程変更の無効主張 → 変更は無効と判断
過半数代表者の選出方法に関し問題ないと判断
******
イ 本件就業規則の変更には,労働条件を変更して労働者に不利益を受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性があったか
(ア)Yは,要旨,Yの帰属収支差額は赤字の状態が長年続き,これを補填する現金預貯金についても,キャンパスの建替えなどの出費もあって10年ほどで底をつき,資金ショートする状況であったところ,他校などと比較して著しく高い人件費を削減するほかなかったから,本件新就業規則に変更する高度の必要性があったと主張する。
そこで,労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼしてまで就業規則を変更する高度の必要性があったか,言い換えれば,他の手段で対応することにより,変更する時期を含めて賃金,退職金の減額をするまでの必要性があったかどうかを検討する。
(イ)Yでは,2005年度以降の各年度の帰属収支差額(2010年度から2015年度までの各年度の計算書類のとおり)が赤字の状態が続き,とりわけ2012年度から2015年度には,当該年度の帰属収入のおよそ1割から2割に相当する約1億円から2億円の赤字を毎年計上し,金融資産の額が減少していたから,Yがこのような状態を改善するために,何らかの対策を講じる必要があったと認められる。
また,Yの2010年度から2015年度当時の主な収入は,学生生徒等納付金であったと認められるところ,2016年頃に回復するまで,本件大学の入学者数は定員を下回っていたし,少子化を含む私立大学を取り巻く当時の状況を踏まえると,その性質上,短期の急増が難しいだけでなく,長期的にも大幅な収入増加が見込み難い状況であったと認められる。
加えて,Yは,耐震性に問題のある本件大学の東館を取り壊し,新たに北館を建設する必要があったところ,これらの費用に約25億円が必要であり,約15億円を自己資金で賄う必要があった。一方,2015年度当時の本件大学の給与額は,同一県内の私立大学の中でも3番目に高い上に,本件新就業規則に変更する前の人件費が支出に占める割合が高く,収入に比して高額であった。
以上のとおり,Yにおいて,帰属収支差額が赤字となっている状態が続く中,収入の増加はさほど見込めず,一方で,校舎建替え等の工事のための支出も予定されていたことを考慮すれば,本件新就業規則変更当時において,Yが従前の収支構造の改善を検討すること自体が不合理であるとはいい難い。
(ウ)しかしながら,Yの2010年度から2017年度までの資金余剰額(帰属収支差額に減価償却額〔会計の計算上消費支出計算書において,費用として支出されたことになるが,実際には現金の支出がなく,学校の内部に留保されるものをいう。減価償却が採用されている会計制度に採用されている組織において,減価償却は組織が自由裁量で使用できる資金である。〕を加えたもの)が,2012年度(約マイナス870万円),2014年度(約マイナス3280万円),2017年度(約マイナス750万円)にはそれぞれ赤字であったが,それ以外の各年度ではいずれも黒字(2010年度が約7723万円,2011年度が約7151万円,2013年度が約5951万円,2015年度が約2627万円,2016年度が約1億7859万円)であったと認められる。
また,Yにおいて,2012年度以降,入学者数が増加し,2016年度には定員を上回ったこと,2015年度の学生生徒等納付金が約10億6950円と,前年よりも約6000万円増加し,翌年度には,約1億2000万円増加したことが認められる。このように,本件新就業規則への変更当時には,Yの主たる収益である学生生徒等納付金の額は増加し,その増加額も相当程度あったと認められる。
(エ)Yの貸借対照表から財政状況を分析する。
Yの流動比率(流動負債に対する流動資産の割合)は,2010年度が約929%,2011年度が約969%,2012年度が約837%,2013年度が約811%,2014年度が約750%,2015年度が約571%,2016年度が約646%,2017年度が336%であったこと,流動比率が200%以上であれば優良で,100%を下回る場合には資金繰りに窮している状況と評価されるのが一般的であるが,学校法人の場合には,将来に備えて引当特定預金等に資金を留保している場合があるため,必ずしも流動比率が低くなると資金繰りに窮しているとは限らないと認められる。
加えて,流動資産超過額(正味運転資金ともいい,流動資産から流動負債を差し引いた金額を指す。流動負債を返済した後に手元に残る余裕資金を示す。)についても,2010年度以降減少傾向ではあるが,2012年度で約18億円,2013年度で約17億円,2014年度で約16億円,2015年度で約13億円,2016年度で約14億円,2017年度で約13億円あったと認められる。
上記によれば,Yの短期的な支払能力に格別の問題は見られず,流動負債を返済した後の余裕資金も十分にあったと認められる。
また,組織の長期的な安全性を診る指標となる固定比率(純資産に占める固定資産の割合をいい,固定資産が返済不要の純資産の範囲内で取得されているかを診る指標となる)と固定長期適合率(純資産及び固定負債の合計額に対する固定資産の割合をいい,大規模設備投資の場合に,固定資産を純資産のみで賄うことが難しい場合に長期借入金で賄っているかを測定する指標)についても,100%以下が望ましいとされるところ,Yでは,いずれの比率も2010年度から100%を下回っていたと認められる。
さらに,Yの純資産構成比率(資産に占める純資産の割合)は,2017年度の約84%を除き,2010年度から2016年度まで約90%前半で推移している上に,有利子負債率(資産に占める有利子負債の割合)も2010年度から2016年度まで約2.8%から0.9%の間で推移していること,2010年度から2017年度までの外部負債に対する金融資産の倍率が,2010年度の約9倍から2016年度まで約18倍と増加した後,2017年度に約2倍となっていること,2010年度から2017年度まで外部負債を金融資産で返済した後に残る超過額についても,2017年度が約15億円であったのを除き,およそ23億円から28億円で推移していることが認められる。
学校法人における財政上の危険性を判断する上で,〔1〕現金に換金可能な金融資産が多く,〔2〕有利子負債(短期借入金〔1年以内に返済義務のある負債〕に長期借入金〔長期にわたって返済義務のあるもの〕を加えたもので,元本の借入額とともに,利子の支払を伴う負債をいう。)が少ないこと,〔3〕資産合計に占める純資産(自己資金)の割合が高いときには,学校法人の経営が安定すると考えられていると認められるところ,上記の事実を踏まえると,Yの資金繰りに問題が生じ得るような危機的な状況ではなかったと認められる。
(オ)山口県内の他の大学と比較して,本件大学の給与額は高いと評価できるが,本件大学と同様に幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び大学などを有する全国の学校法人と比較すると,本件大学の人件費比率が格別に高いとまではいえず,比較の対象によっては,平均的な数値とも評価し得る。
(カ)以上検討したところによれば,Yの採算性を見直す必要があり,経費の削減を検討すること自体の合理性は否定できないが,Yの主張するように,資金が約10年でショートする状態であったと認定することはできず,財政上,極めて危機的な状況に瀕していたとはいえないから,労働者が不利益を受忍せざるを得ないほどの高度の必要性があったとは認定できない。
0 件のコメント:
コメントを投稿