懲戒処分無効確認の利益 否定
解雇 有効
業務命令 不法行為不該当
******
2 争点(1)(本件各懲戒処分の無効確認の訴えに係る確認の利益の有無)について
(1)確認訴訟における確認の対象となる法律関係は,原則として現在における法律関係であるところ,本件各懲戒処分が無効であることの確認を求める訴えは,過去の法律関係の確認を求める訴えであるから,現に存する紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合に限って確認の利益が認められると解するのが相当である。
(2)これを本件についてみるに,Xが本件各懲戒処分により受けた給与面の不利益を解消するには、本件のように,本件各懲戒処分が無効であることを前提に賃金等の請求をすることが直接かつ抜本的な解決といえる。また,本件解雇は有効であり,本件雇用契約は本件解雇により終了しているから,過去の本件各懲戒処分の無効が確認されないと,Xが人事評価等の待遇面において不利益を被るということもできない。そして,Yは,本件解雇の理由として本件各懲戒処分の理由となった行為を指摘しているものの,本件解雇の有効性を判断する中で本件各懲戒処分の理由となった行為の解雇事由該当性等を検討すれば足りるのであって,本件解雇の有効性と独立して本件各懲戒処分の無効を確認する必要性は認められない。これらの事情によれば,本件各懲戒処分の無効という過去の法律関係の確認をすることが,紛争の直接かつ抜本的解決のために最も適切かつ必要と認めることはできない。
(3)したがって,本件各懲戒処分の無効確認の訴えに確認の利益は認められない。
******
3 争点(2)(将来の賞与請求の訴えの利益の有無)について
(1)Xは,Yに対し,本判決確定の日までの夏季賞与と冬季賞与の支払を求め,これに対しYは,口頭弁論終結時までに支払日が到来しない賞与については,本件給与規程に賞与を定額支給する旨の規定がなく,賞与が支払われるか否か及びその額は不明であることを根拠として,将来給付の訴えの利益が認められないと主張する。
(2)民訴法135条はあらかじめ請求する必要があることを条件として将来の給付の訴えを許容している。しかし,同条は,およそ将来に生ずる可能性のある給付請求権の全てについて前記の要件のもとに将来の給付の訴えを認めたものではなく,既に権利発生の基礎をなす事実上及び法律上の関係が存在し,ただ,これに基づく具体的な給付義務の成立が将来における一定の時期の到来や債権者において立証を必要としないか又は容易に立証しうる別の一定の事実の発生にかかっているにすぎず,将来具体的な給付義務が成立したときに改めて訴訟により上記請求権成立の全ての要件の存在を立証することを必要としないと考えられるようなものについて,例外として将来の給付の訴えによる請求を可能ならしめたにすぎないものと解される(最高裁1981年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁)。このような規定の趣旨に照らすと,将来発生すべき賞与請求権についても,賞与請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができるとともに,その場合における権利の成立要件の具備については当然に債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものについては,冒頭に説示したとおり,本来例外的にのみ認められる将来の給付の訴えにおける請求権としての適格を有するものとすることはできないと解するのが相当である。
(3)これを本件についてみるに,本件給与規程には,賞与を定額で支給する旨の規定はなく,賞与のうち勤勉手当については,Yが,賞与の対象期間内において教職員の勤務成績を評価し増減することができ(本件給与規程25条2項),賞与の支給月数については,人事院勧告に準拠し,給与委員会の審議によりこれを決定する(同30条)と規定していることからすれば,Xの賞与請求権は,YがXに対する賞与額を決定して初めて具体的な権利として発生するものと解するのが相当である。そうすると,Xの賞与請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができるから,Xの口頭弁論終結後の賞与請求権は,将来給付の訴えにおける請求権としての適格を有するものということはできない。
(4)したがって,Xの口頭弁論終結後から本判決確定の日までの夏季賞与と冬季賞与の請求には,将来給付の訴えの利益が認められない。
******
(2)解雇の理由
ア Xは,
本件長期休業から復帰した後,本件相談室で勤務したわずか4か月の間に,3回にわたり15分以上の遅刻をし,
患者の個人情報等を扱っている本件相談室の施錠を2回怠り,
無銭飲食を行って本件懲戒処分1を受けた後も,幾度となく遅刻をした
ことが認められ,極めて勤怠不良であったといえる。
そして,Xは,
診療補助業務がPSW業務の付随的な業務であると考えており,
頻繁に外来書類や法定書類の管理等の業務でミスをし,
他のPSWに付きながら研修を受けているにもかかわらず,他のPSWの許可を得ずに,他部署が行っている園芸作業に参加したり,30分間離席したりしていたこと,
復帰に当たり,X側から長期間の研修を希望し,本件研修が準備されたという経緯にもかかわらず,本件研修の研修期間や内容に不満を述べ,本件研修の中止を求めていたこと,
器材センターで行っていた単純作業についても,Xが行うべき業務ではないと考えており,これらの単純作業が容易なものであり,作業手順と見本の交付を受けていたにもかかわらず,実際に使用することができない不良品の成果物が多数存在していたこと
からすれば,Xには,自身がPSW業務に関連しない又は重要ではないと考える業務を行う意欲が欠如していたと認められる。
したがって,Xの上記の就業状況は,著しく不良で就業に適さないと認められるから,本件就業規程26条2号イ所定の解雇事由が認められる。
******
(3)社会的相当性
ア Xは,無銭飲食について反省をしているとは認められない上に,本件懲戒処分1を受けた後も,遅刻を繰り返し,c総務部長が交付しようとした注意書へ署名押印せず,自身の腕時計の時刻からすると遅刻をしていないなどと強弁して,遅刻について反省している様子は認められず,遅刻の改善が見込まれないこと,本件USBの紛失についても反省をしているとは認められないことからすれば,XにPSW業務を初めとする対外的な業務を行わせることは,時間管理,情報管理,規範意識等の点で問題があり,Yが患者等からの信頼を失う可能性が高いもので,極めて困難であるといえる。
また,Xには,自身がPSW業務に関連しない又は重要ではないと考える業務を行う意欲が欠如しており,XにおいてYの指揮命令に従いPSW業務以外の職務に従事する意思は認められない。このように,Xの勤務態度は,Yの正常な職場機能,秩序を乱す程度のものといえ,解雇以外の人事権の行使や他の軽い処分によってXの勤務態度の改善は期待できない。
もっとも,本件解雇は本件懲戒処分2の直後に行われているが,本件懲戒処分2は,Xが本件USBを紛失したことに対し,法人として一定の態度を示すために行われた処分であり,他方,本件解雇は,これまでのXの勤務態度や能力等を踏まえ,Xを配置することができる部署がなかったために行われたものであることに照らせば,本件懲戒処分2の対象になった行為を本件解雇の理由として二重に評価したということはできず,本件懲戒処分2の直後に本件解雇が行われたことのみをもって,本件解雇が社会通念上不相当ということはできない。
以上の事情に加え,Xは,いわゆる中途採用であり,XがYに雇用されてから実際に勤務した日数は,本件長期休業前の約1年2か月と本件長期休業後の約1年のみで,Yでの不就労期間が9年以上に及んでいること,上記不就労期間中も,Yは,Xに対し,賃金を保障していたこと等も考慮すると,本件解雇は社会通念上相当というべきである。
******
【X言い分の排斥】
イ Xの主張に対する判断
(ア)Xは,本件雇用契約においてXの職種が精神保健福祉士やPSWに限定されていたと主張し,同主張に沿う供述(X本人)をする。
確かにXは精神保健福祉士の資格を有しており,Yが2003年当時,精神保健福祉士の資格を有する人材を探していたこと,Yの当時の採用担当者が,MSW又はPSWの不足を補う職員としてXを採用することとしたことが認められる。
しかし,Xが,本件雇用契約を締結する際,Yの採用担当者から,Xの職種を精神保健福祉士やPSWに限定する旨の説明を受けたとは認められないことに加え,本件就業規程2条3項は,事務職員と医療技術職員を区別しており,別表第1において精神保健福祉士と社会福祉士は医療技術職員に分類されている(前提事実(11))ところ,本件雇用契約の労働条件通知書には,Xの業務内容は事務職と記載されているのみであり,医療技術職員との記載も,職種が精神保健福祉士やPSW,事務職に限定される旨の記載もなかったこと,Xは,本件雇用契約締結から5か月間は,MSWとして勤務をしており,PSW業務を行っていなかったことからすれば,本件雇用契約において,Xの職種が精神保健福祉士やPSWに限定されていたとは考え難く,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件雇用契約においてXの職種が精神保健福祉士やPSWに限定されていたと認めることはできない。
(イ)Xは,2014年5月30日に30分間離席したのは,日本労働評議会と本件研修について打合せをするためであったと主張するが,労働組合との打合せが業務ではないことは明らかであり,これを理由に無断で離席することは認められない。
(ウ)Xは,遅刻の原因が電車の遅延や体調不良にあると主張し,同主張に沿う供述をする。
しかし,Xは千葉県市川市内に住んでおり,本件病院までの通勤時間は約2時間30分であったことからすれば,電車の遅延や体調不良が原因で遅刻する場合,始業時刻より前に自宅又は乗換駅からその旨を連絡をすることが可能であり,かつ連絡をするのが当然であるところ,Xがそのような連絡をしたとは認められないことに加え,他にXの遅刻の原因が電車の遅延や体調不良にあることを認めるに足りる証拠はないことからすれば,Xの度重なる遅刻の原因の全てが電車の遅延や体調不良にあったと認めることはできない。
したがって,Xの度重なる遅刻に,本件就業規程43条2項所定のやむを得ない事由は認められない。
(エ)Xは,器材センターでの一部の遅刻について,遅刻した時間がYの指摘する時間と異なると主張し,これに沿う供述(X本人)をする。
しかし,g副センター長は,人事部次長から依頼され,Xの勤務時間を管理するために器材センターの電波時計によりXの出勤時刻を把握していたものであり(認定事実(5)ケ),他方,Xの上記主張は自身の腕時計の時刻を根拠としていることからすれば,g副センター長が確認した時刻がより正確なものであると認められ,Xの主張を採用することはできない。
(オ)Xは,器材センターで行っていた単純作業のミスについて,Xの眼病に原因があると供述する(X本人)。
確かに,その頃,Xは円錐角膜,再発性角膜びらんを患っていたと認められる。しかし,これらの疾病が各作業に与える影響は不明であるうえ,Xにも,これらの眼病のためにミスをした旨h課長補佐に申告したり,業務内容の変更を求めたりした形跡がないことないことからすれば,Xの単純作業のミスの原因がXの眼病にあるとまで認めることはできない。
******
7 争点(6)(不法行為の成否)について
(1)ア Xは,YがXに対し,
〔1〕PSW業務のうち,書類のスキャン業務やデータの入力業務のみを行うよう指示し,これらの業務が終わると待機させたこと,
〔2〕他のPSWの相談への同席を認めなかったこと,
〔3〕本件相談室の電話対応を禁止したこと,
〔4〕措置入院患者のデータ入力を別室で行わせたこと、
〔5〕本件研修を指示したこと,
〔6〕本件異動を命じたこと,
〔7〕器材センターにおいてパンフレットの仕分けなどのPSW業務と無関係な単純作業を行わせたこと
が不法行為に当たると主張する。
イ 業務命令や異動命令について,業務上の必要性が存在しない場合,又は業務上の必要性が存在するとしても当該業務命令又は異動命令が不当な目的をもってされたものであるとき,若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど,特段の事情がある場合には,業務命令権又は人事権の濫用に当たるものとして,使用者による当該業務命令権又は人事権の行使は,不法行為を構成するものと解するのが相当である。
ウ 検討
(ア)PSW業務について(〔1〕ないし〔4〕)
Xは,Yにおいて,本件長期休業前はPSWとしては約9か月しか就労しておらず,本件長期休業により約9年就労していなかったこと,
XとYの交渉の結果,X側の要望を踏まえて,Xが他のPSWに付いて日常業務を行いながら研修を行うことになったこと,
本件長期休業の間に,法律,福祉制度,診療科内の診療体制,社会資源が大きく変化しており,PSW業務の相談援助業務を行うにはこれらの知識が必要であったこと,
d PSWも,約半年間の研修期間中は,書類や統計の管理をし,本件病院の診療体制や法律,地域の特色等を学んでいたこと
からすれば,Xが書類のスキャンやデータの入力業務(上記〔1〕),措置入院患者のデータ入力(上記〔4〕)を行う業務上の必要性があったといえる。
そして,上記のとおり,XにはPSW業務に必要な知識の習得がまず必要であった一方,
Xは,外来書類や法定書類の管理等の業務において頻繁にミスをしており,他のPSWからダブルチェックを受けるようになった後も複数回ミスを指摘されていたこと,
d PSWも,研修期間中は,本件相談室での相談に同席したり相談を担当したりすることはなかったこと
からすれば,Xを本件相談室での相談に同席させないこと(上記〔2〕)やXに電話対応をさせないこと(上記〔3〕)についても,業務上必要性がない指示とはいえない。
そして,上記〔4〕の措置入院患者のデータ入力については,d PSWは,スキャナーの要否に応じて,Xがどのパソコンを使用するかを決定していたのであり,Yが,Xを退職に追い込むといった不当な目的により上記〔1〕ないし〔4〕の業務命令をしたと認めるに足りる証拠はない。また,これらの業務命令が,Xに対し通常甘受すべき程度著しく超える不利益を負わせるものであったともいえない。
(イ)本件研修について(〔5〕)
上記(ア)のとおり,Xは,本件長期休業の間に変化していた診療科内の診療体制の知識を得る必要があったところ,PSWは医務部職員として休日勤務をする際に入退院受付を担当すること,XがPSWとして患者等の対応をする際は,医務部医務課の入院会計入力班で行っている伝票整理及び電子カルテでの患者スケジュールの管理等,並びに入退院窓口で行っている入退院患者の窓口業務全般の各仕組みを理解することが有用であること,他のPSWも,入職時,入退院患者及び外来患者の手続を学ぶため,医務部において一,二か月の研修を受けていたこと等の事情によれば,本件研修を命じることに業務上の必要性が認められる。他方,Yが本件研修を命じたことについて,Xを退職に追い込むといった不当な目的があったとは認められないし,Xに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであったともいえない。
(ウ)本件異動について(〔6〕)
上記6説示のとおり,本件雇用契約においてXの職種が精神保健福祉士やPSWに限定されていたとは認められない(なお,労働条件通知書にXの職種を事務職に限定するとまでは記載されておらず,Xが採用される際にそのような説明を受けたとも認められないこと,事務職が専門性の高い職種であるとも認められないことからすれば,本件雇用契約においてXの職種が事務職に限定されていたとも認められない。)。したがって,Yは,Xに対し,本件雇用契約を規律する本件就業規程13条1項に基づき本件異動を命じることができ,本件異動には本件雇用契約上の根拠が認められる。
そして,Yが,それまでの勤務態度が不良であり,かつ,無銭飲食をしながら真摯な反省の態度を見せないXについて,患者等の対応をしたり金銭を扱ったりするPSW業務を行わせることができないと判断したことは合理的であるといえるから,本件異動には,業務上の必要性が認められる。
他方,Yが本件異動を命じたことについて,Xを退職に追い込むといった不当な目的があったとは認められない。
もっとも,Xは,本件異動まではMSWやPSWとして業務を行っていたのに対し,器材センターは病院の各部署で使用された器材等を回収し,洗浄等を行う部署であったことから,本件異動は,Xの業務内容を大幅に変更するものであり,Xに一定の不利益を負わせるものであったといわざるを得ない。
しかし,Yは,本件異動後,当初は,Xに対し,器材センターの初歩的な業務である洗浄業務を行わせる予定であり,業務内容が大幅に変更されることについて配慮していたこと,Xは,Yに腰痛症等を申告した後,総務部,医務部及び大学事務部が切り出した単純業務を行っており,Xが実際に行った業務は事務業務と変わりがなかったこと,このような単純作業を恒常的に行う部署は,従前はYに存在しなかったことがうかがわれ,腰痛症等を申告したXのために,Yが特別に準備した部署であると認められること等に鑑みれば,本件異動に伴う業務変更の不利益の程度は,Xが甘受せざるを得ないものであったといえる。
そして,Yは,本件異動を命じた段階ではXの腰痛症等を把握しておらず,Xから腰痛症等の申告があった後はこれを考慮してXの業務内容を変更したこと,本件異動によりXの給与額に変更はなかったことも併せて考慮すると,本件異動が,業務内容や給与額に照らし,Xに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであったとはいえない。
(エ)単純作業について(〔7〕)
上記のとおり,Yが,それまでのXの勤務態度が不良であり,かつ,無銭飲食をしながら真摯な反省の態度を見せないXについて,患者等の対応をしたり金銭を扱ったりするPSW業務を行わせることができないと判断したことは合理的であることに加え,Yは,Xを就労させる際にXの腰痛と視力障害に配慮して,前屈姿勢・長時間の立ち仕事ではない業務を行わせる必要があったことからすれば,Xに単純作業を行わせる業務上の必要性が認められる。
他方,YにXを退職に追い込むといった不当な目的があったとは認められない。また,Yは,Xの申告を受け,産業医の意見を聞いた上で,Xの疾病に配慮し,上記の単純作業を行わせたことからすれば,かかる業務命令がXに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであったとはいえない。
エ したがって,上記〔1〕ないし〔7〕のYの業務命令が不法行為に当たるということはできない。
(2)Xは,YがXに対し,2014年4月1日から同年8月11日までPSWの診療基本マニュアルを,同年4月1日から派遣社員の引継ぎのときまで電子カルテや医事端末操作のマニュアルを,それぞれ交付しなかったことが不法行為に当たると主張し(別紙2記載2),同主張に沿う陳述(甲55)及び供述(X本人)をする。
しかし,YがXを退職に追い込むといった不当な目的により上記各マニュアルを交付しなかったと認めるに足りる証拠はない。また,Xは,XがYに対し,2014年4月1日に上記各マニュアルの交付を求めていたと供述するが,Xが交付を求めた職員の氏名が不明であるなど,Xの供述は抽象的なものにとどまることに加え,Xは,当時,日本労働評議会に加入していたのであるから,Yに対し交付を求めたにもかかわらず上記各マニュアルの交付を受けなかったのであれば,日本労働評議会を介して直ちに異議を唱えると考えられるところ,かかる行動をとったと認めるに足りる証拠はないことからすれば,XがYに対し,同日に上記各マニュアルの交付を求めていたとは考え難い。また,Yに上記各マニュアルを交付すべき義務があるということを基礎付けるような事情があるとも認められず,d PSWは,Xに対し,マニュアルの情報のうち業務に必要なものについては,随時,口頭で教えていたことからすれば,Yに上記義務があるということはできない。
したがって,YがXに対し,2014年4月1日から同年8月11日までPSWの診療基本マニュアルを,同年4月1日から派遣社員の引継ぎのときまで電子カルテや医事端末操作のマニュアルを,それぞれ交付しなかったことが不法行為に当たるということはできない。
(3)Xは,YがXにパンフレットを台車で運搬するという不必要な業務を行わせたことが不法行為に当たり,これによりXの腰の症状が悪化したと主張し(別紙2記載14),同主張に沿う陳述(甲55)及び供述(X本人)をする。
しかし,上記のとおり,Yが,Xについて,患者等の対応をしたり金銭を扱ったりするPSW業務を行わせることができないと判断したことは合理的であること,Yは,Xを就労させる際にXの腰痛と視力障害に配慮して,前屈姿勢・長時間の立ち仕事ではない業務を行わせる必要があったことからすれば,,Xにパンフレットを台車で運搬する業務を行わせることに業務上の必要性がなかったとはいえない。
そして,2014年11月14日から同年11月20日までのパンフレットの運搬業務については,パンフレットの入った段ボール箱を積み込む作業はYの職員が行っており,Xはパンフレットを台車により運搬する作業を行っていたことに加え,Xが運搬する段ボール箱の個数について異議を述べたとは認められないことからすれば,かかる運搬作業によりXの腰に負担がかかったとは考え難い。そして,Xがパンフレットの運搬を行ったことによりXの腰の症状が悪化したと認めるに足りる証拠はないことからすれば,YがXに上記の期間にパンフレットを台車で運搬する業務を行わせたことが不法行為に当たるということはできない。
また,2014年12月24日から2015年1月6日までのパンフレットの運搬業務については,XとYは,Xと担当部署が1回当たりの運搬量を確認し,Xが負担を感じない範囲内での積み込みとすること及び運搬作業を行う際は,Xの腰への負荷を回避するためにYが指定したルートを守ることについて合意した上でこれを行っており,Xと担当部署が,上記合意に反して,1回当たりの運搬量を確認せず,Xに負担を感じさせる運搬をさせたと認めるに足りる証拠はないから,かかる運搬作業によりXの腰に負担がかかったとは考え難い。そして,Xがパンフレットの運搬を行ったことによりXの腰の症状が悪化したと認めるに足りる証拠はないことからすれば,YがXに上記の期間にパンフレットを台車で運搬する業務を行わせたことが不法行為に当たるということはできない。
(4)Xは,YがXに対し2014年8月25日から同年10月30日まで及び同年11月20日から同月23日までの休業について,休暇許可願の提出を強要し,私傷病による休業として扱ったことが不法行為に当たると主張し,同主張に沿う陳述及び供述をする。
確かにXがYに対し,上記の休業について休暇許可願を提出したことが認められるが,YがXにこれを強要したと認めるに足りる証拠はない。
そして,Xが,2014年7月24日には両眼円錐角膜,左眼再発性角膜びらん,同年8月4日には腰痛症,腰仙部前方扁位との診断を受けているが,かかる傷病がYの業務に起因して生じたとは認められないこと,東京ユニオンがYに本件異動の撤回を求めた理由が上記の傷病にあることからすれば,Yにおいて同月25日から同年10月30日までの休業が私傷病によるものとして扱うのは当然の対応というべきである。加えて,YがXに休暇許可願の提出を求めたことについて,Xを退職に追い込むといった不当な目的があったとも認められないことからすれば,仮に,YがXに休暇許可願の提出を求めたとしても,それが不法行為に当たるということはできない。
また,上記(3)説示のとおり,YがXにパンフレットの運搬を行わせたことによりXの腰痛症が悪化したとは認められないことからすれば,2014年11月20日から同月23日までの休業についても私傷病によるものとして扱うのは当然の対応というべきであり,Yに上記の不当な目的があったとも認められないことからすれば,YがXに休暇許可願の提出を求めたとしても,それが不法行為に当たるということはできない。
(5)Xは,YがXに対し,Xを退職に追い込むことを目的として,病棟カンファレンスへの出席や医務局との協議への参加,外来の看護師や他の職員との会話及び本件相談室外へ行くことを禁止した,Xの行動を背面から監視した,職員に指示をして無視・仲間外しを行ったと主張し,同主張に沿う陳述及び供述をするが,これらの事情を裏付ける的確な証拠はないから,別紙2記載5ないし9の事情を認めることはできず,これらが不法行為に当たるということはできない。
(6)以上によれば,Yに不法行為は成立しないから,Xの損害額について判断するまでもなく,XのYに対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
0 件のコメント:
コメントを投稿